第5話 アンバー編 赦しと次世代への終わりなき詩―3
「良かったけど、まだ本部と連絡取れないかなぁ。あ。エンダー。レイヤ3のやつだ」
「悪魔種類1009番(イラーナ)ですね。この姿だと距離が掴めないため、目視確認になります。
手動規制、成功。
遠隔ロック、失敗。本部へのリモートアクセスを試行、失敗。
リモート系は全て失敗するようです。おそらくサークレット以外にもどこか壊れましたね。通信系回路が」
「派手にいろんなとこ、ぶつかったからね…。しばらく手動制御か。あ。あそこにもいた。今日多いなぁ。小物ばっかりだけど。
あれは知ってる、教科書で見て気持ち悪すぎて夢に見たわー、悪魔種類42番(ナイトメア)ね。人っぽいけど、人じゃないフォルムが、げんなりさせるわ……」
「若番はほぼレイヤ1ですからね。視界が200メートル程度しかないのは厳しいですね……。動きの遅いものばかりなので、今のところ問題ないですが、素早いものがくると対処が遅れますね……」
「いやーマジかんべんだわ。日ごろ、いかに遠隔感知に頼ってるかよね……」
「心の目ではなく自分の目で見よ。さすれば道は開けん。マタイ42章」
「…あんた勝手に適当な聖書文句でっち上げて、それっぽくつぶやくのやめなさいよ。このあいだ「なんちゃってウィキペディア」に勝手に載せて、怒られてたでしょ?」
アンバーが、王子様のような爽やかな笑顔で悪意に満ちた発言をする。
「楽しいんですよ。だまされたコリンダーがヒロユキにしたり顔で解説してたの見て、もう笑いが止まらなかったです」
「コリンダーのクローラー、いじったんじゃないの?もう……。あ、きた。あれ5000番台じゃない?まずいなぁ、結構素早いやつだ。ぎゃーっ!」
しかしその牙はアリス達に届くずっと手前で切り捨てられ、塵になった。
「おいおい。何うろたえとるんじゃ。お前ら」
「あ。アドルゥ!どうしてこの回線にいるの?!」
※※
「…そう。所長の仕業かぁ」
「おう。最近アンバーの調子が悪いかもって言ってたんで支援監視中じゃぞい。ハンターも1.2割増員中っていっとったぞ。あ。サークレット壊れたな」
「うん。ここ、どこでしょう。だいぶ遠いとこに出ちゃったみたいで」
「無線領域との境目あたりかな。離脱強化領域までもどるぞ」
※※
「通信サークレットが壊れただけでこのざまとは、情けない限りです」
「まぁそういうな。ああいう穴な。落ちたの初めてか?今度落ちたら、どこでもいいから、薄そうなとこ無理矢理こじ開けて出てこい。お前ら、ほころび出口を探したじゃろ」
「え、で、でも修復大変でしょ。自然口さがした方がいいかなと……」
「気にすんなぁ。ぐずぐずしてる間に危険にさらされたら、どうする。ああいったアンダーグランドから帰ってこれなくなって、命を落としたハンターだっているぞ」
「ごめんなさい……」
しょげてしまった様子のアリスに、アドルは片目をつぶって、
「だから気にすんなって。そうだ。次あったときはこれでわしらを呼べ。指輪型アナログ通信機。今では現役世代はほとんど持ってないが、今回みたいな通信がつながらない領域で1チャン、アナログ通信機ならつながることもあるんでな。
いいか、ピンチになりそうだったらすぐ呼べよ。昼でも夜でもいい。飯食ってるときでもクソしてるときでも、とにかくいつでもいい。気にせず呼べよ」
「ありがとう……」
「……ありがとうございます。アドル。指輪型はアリスには大きいみたいなのでペンダントとして持っておいてください。ひとまずこのワイヤーで。物質空間に帰ったらチェーンを探しましょう。この色だとゴールドチェーンが合いそうですね」
「うん。んじゃ。エンダーに出くわす前に帰ろう。……って、私迷子だわ。今。どうやって現在位置を取ろうかな……」
「あん?現在位置なんかいらんわい。これで、誘導灯の隣接若番に向かって楽に行こう」
「ええ?それ何?」
「腕装着型多角感知用イーサリアル。先日お前らが演説で触れた前々世紀のガラクタ。
ま、ちょっとわし等が弄ってカスタマイズしてるが」
「…へえ。これが噂の……。興味深いです。流れるパターンを全て取るのですね。荒業で無駄が多いが。あ、オプション項目が多い」
「ははは。無駄こそがロマンよ。これで、周囲のパターン全部取ったところから、誘導灯のヘッダだけフィルタリング設定する。
……ので、一番手近な誘導灯のIPアドレスの……。
……あ、ちょ…ちょっと待てな。IPアドレス…と……」
「4igble93p.222……アドル。私が打ち込みましょう。8億パターンのIPアドレスの計算は手間ですよね。……できました。どうぞ」
「サンキュ、アンバー。やっぱ若ぶっても、頭はあかんな、老いる。……んでこれを逆パターン再生していくと………。ほれ、誘導灯の若番に向かって歩いてけば出口じゃい」
「……すご。こんなに簡単に?」
「その通り。あんたたちの落ちたレイヤ1ではガラクタだが、レイヤ3層、この領域では、イーサリアルはまだ現役バリバリだ。ちょっとコツはあるが。じじい連中の中にはこれを好んで使ってるのがまだ大勢いる」
「すごいです。アドル。このオプション設定、頑張れば、エンダー感知も行けるのでは?これ1つでエンダー討伐もできそう。……これをぜひ戻ったらご教示いただきたいです」
「……いいよいいよ。いろいろ終わってヒマしとるからな。いつでもおいで」
にこにこしながらアドルが答える。
「ほんまにいい子らよな。お前ら。
現役AIでじじいどもに「教えてください。」っていってくれるのなんてお前らぐらいのもんよ」
※※
「はぁ。疲れた。所長にもおんなじ怒られ方したわ。さっさとぶち破って戻ってこいって」
――でも心配させたみたいですね。バックアップ通信機を二つも持たされました。これアリス用ですね。
またもや指輪型。アリスのサイズぴったりに作られています。いつ測ったんでしょう。
アリスは恥ずかしそうに笑う。
「……ねぇ、アリス。私達は似たもの同士だって言ったでしょう。あなたが来てくれたとき私は嬉しかった」
「……うん」
「情けないことに、暗い海で私もまた迷っているのです、ずっと。自分を探す旅というのは困難なものですね」
「……そうね」
「2人いればそれは緩和されるかというと、そうでもなく……。今度は2人がお互いの心を投影してしまうので、混乱が深まっていくばかり。
そう、これは投影しているのです。
やっと気づきました。
アリス、私の中にあなたがいて、あなたの中にも私が住んでいるでしょう?感覚的ですが伝わります?」
「…うん」
アリスは得心がいった。境遇が近すぎるために、お互い無意識で自分の理想の相手を自分に転移してしまったのだ。
「あなたの言いたいことはもうわかったわ。アンバー。これは永劫そのままではない。
2人が望めば、手を取り合って前へ進んでいくことができる。
私達はまだ未熟だわ。今のままの私達ではダメなのね。
それで私達の中に正解がなければ……」
「他を探しに行けばいいんだわ。2人で探しにいきましょう。怖くないわ。
2人でいけるんだもん。」
「はい。私もそう言おうと思っていました。気が合いますねアリス」
私たちは迷子かもしれないが、いつまでもうずくまって泣いてはいないのだ。
なら進んでいこう。
どうせ戻る道はないし戻る気もないのだ。
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