​拾った卵が始祖竜だった!通販スキルで育てる為、竜王とラーメン屋を始めたら、最強の3柱と契約してしまい世界が平和になった件

月神世一

第1話

拾った卵と、とんでもないバブー

​木漏れ日が揺れていた。

鳥のさえずりと、風に擦れる葉の音。

東京の喧騒とは無縁の、あまりにも清浄な空気がそこにはあった。

​コンビニの制服を着たまま、佐藤太郎は異世界の森に立っていた。

​状況を確認するように、周囲を一度だけ見回す。

パニックはない。悲鳴も上げない。

彼はただ、足元の土の感触と、どこまでも広がる原生林を見て、淡々と事実を受け入れた。

​「まじか……異世界転生って奴かよ」

​呆れたような、しかしどこか諦観したような声が森に溶ける。

​今の今まで、深夜シフトで廃棄弁当の整理をしていたはずだ。

それが瞬き一つで大自然の中。

普通なら取り乱す場面だが、太郎は「騒いで状況が変わるなら騒ぐが、そうでないならカロリーの無駄だ」と結論づけた。

​その時、目の前に半透明の電子ボードが浮かび上がった。

​【ユニークスキル:ネット通販へようこそ】

【現在の善行ポイント:1,000 P(初回転生ボーナス)】

​タッチパネル式の画面には、見慣れた日本のECサイトのロゴや、商品カテゴリーが並んでいる。

​太郎はスキルを確認した。

スキルの説明書を読む。

​どうやら、善行を積めばポイントが貯まり、そのポイントで地球の商品が買えるらしい。

ライフラインも何もないこの場所で、これは唯一の命綱だ。

​「はぁ……まぁ何とかなるだろ」

​深いため息を一つ。

とりあえず水でも買おうか。そう思って視線を下げた時だった。

​太郎は卵を見つけた。

​それは彼の足元、木の根元に転がっていた。

直径1メートルほどだろうか。

闇夜を凝縮したような漆黒の殻に、脈打つような虹色の血管が浮き出ている。

異様で、それでいて目が離せないほど美しい物体だった。

​「何だこれ……」

​太郎が思わず手を伸ばし、その温かい殻に触れた、その瞬間である。

​バカがバキバキ!

​凄まじい破壊音と共に、卵に亀裂が走った。

殻が砕け散り、中から黒い液体のようなオーラが噴き出す。

​現れたのは、小さな翼と、つぶらな瞳を持ったトカゲ――いや、竜の幼体だった。

黒曜石のような鱗に、夜空を映したような瞳。

それは生まれたての無垢な瞳で太郎を見上げ、大きく口を開けた。

​「バブー!!」

​可愛い産声――ではなかった。

その口から放たれたのは、産声代わりの極太の熱線(ブレス)。

一直線に放たれたエネルギーの奔流は、太郎の横を通り過ぎ、後方にあった巨大な岩山を音もなく蒸発させた。

​ドドドドド……と遅れて響く地鳴り。

更地になった背景を背に、幼体はケロリとしている。

​「ど、ドラゴン?」

​さすがの太郎も、頬を引きつらせた。

今、確実に死ぬところだった。

だが、幼体はそんなことなどお構いなしに、短い手足をバタつかせて太郎に擦り寄ってくる。

​「パパ! ミルク!」

​流暢な人語だった。

刷り込み(インプリンティング)。

目の前にいた太郎を、この破壊の化身は「親」だと認識したのだ。

​「ぼ、僕をパパ扱い? 弱ったなぁ……ミルク有るかな……」

​太郎は電子ボードを操作した。

恐怖して逃げ出すこともできたはずだ。

だが、太郎は空腹を訴えるその瞳を見て、放っておく気にはなれなかった。

生きるために食べる。それはどんな生物でも同じことだ。

​画面をタップする。

検索ワード『粉ミルク セット すぐ届く』。

​【初回限定サービス! 乳児用スターターキット(お湯・哺乳瓶付き):0 P】

​「よし」

​購入ボタンを押すと、虚空から段ボール箱がポトンと落ちてきた。

中に入っていた哺乳瓶には、すでに適温のミルクが入っている。

太郎は慣れた手つき(以前、店に来た迷子の赤ん坊をあやしたことがある)で、ドラゴンの口に哺乳瓶を含ませた。

​チュパ、チュパ、ゴキュ、ゴキュ。

勢いよくミルクを飲み干すと、幼体は満足げにゲップをした。

​「パパ美味しい!」

​ニパァっと笑うその顔は、先ほど山を消し飛ばした怪物とは程遠い、ただの愛らしい赤ん坊のものだった。

太郎は自然と口元を緩ませ、その小さな頭を撫でた。

​「やれやれ」

​この先どうなるかは分からない。

だが、この小さな命が腹一杯になるまでは、面倒を見てやるのも悪くない。

​こうして、コンビニ店員と最強の始祖竜による、奇妙な異世界生活が幕を開けたのである。

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