第11-3話 遭遇、リサイクル不可の粗大ゴミ


ホテルの一件から数日後。

メゾン・ド・カミキも、あの日がウソのように落ち着き、神木社長の完璧なマンション管理が戻っていた。


社長のフォローがよかったこともあり、退去者はゼロ。変わらず人気マンションの満室経営をキープ出来た。


私は社長から頼まれた「おつかい(備品の買い出し)」の帰り道を、鼻歌交じりにフワフワと浮遊していた。


「ふふふ~ん♪ 社長ったら、私がいなきゃ何にもできないんだからぁ、フフフ」


赤備えさんとの一件以来、社長は私を少しだけ頼りにしてくれるようになった。

それが嬉しくて、ついついスキップ(空中)してしまう。

このまま事務所に戻って、美味しいお茶でも淹れてあげよう。


そう思った、その時だった。


「……あ?」


交差点の雑踏の中、見覚えのある後ろ姿を見つけた。

金髪に、少し猫背な歩き方。

安っぽいシルバーアクセサリーをジャラジャラとつけたその背中。


「……ケンちゃん?」


心臓がドクリと跳ねた。

私が死ぬ原因になった元カレ。

私から金と時間を散々捻出させて、最後は別の女を作って私を捨てたように見せかけ、またしばらくしたら、私から金を巻き上げようとしていた最低のクズ男。


でも、彼を見ても不思議と胸の痛みはなかった。

あるのは、「うわ、きったねぇ生ゴミ落ちてる」くらいの感覚。


でも、怖いもの見たさというか、あんなことがあった後に、アイツはどう生きているんだろうと、どうしても気になってしまう。


私は吸い寄せられるように、後を追った。


アイツは駅前のオシャレなカフェに入り、奥の席へ座った。

向かいには、清楚でおとなしそうな女の子が座っている。


当時の浮気相手だった『エリちゃん』でもない。


「ごめんごめん! 待った?

 リハが長引いちゃってさー」


馴れ馴れしく席に座る。

私は堂々と二人のテーブルの真ん中に浮きながら、会話を聞くことにした。


「ううん、大丈夫。……で、ケンジくん、今日のお話って?」

「ああ、実はさ。ついに俺のバンド、メジャーデビューの話が来そうなんだよ!」


――は?

 私の眉間がピクリと動いた。

そのセリフ、一年前、私にも言ってたよね?


「えっ、すごい! おめでとう!」


「だろ? プロデューサーも俺の才能に惚れ込んでてさ。 でも、契約金とか機材車とか、どうしても最初の資金が必要なんだ。

 ……分かるだろ? 俺の夢、一番近くで応援してくれてるマイちゃんにしか頼めなくてさ」


出た、夢を人質にした集金活動。


マイちゃんと呼ばれた女の子が、困ったように眉を下げる。


「でも……私、もう貯金ないよ?

 先月もお金貸したし……」


「そこをなんとか頼むよ!

 デビューすれば当然返せるし!

 俺はマイとのこれからの事もちゃんと考えてる! 

 俺、マイの事、本気で愛してるし、一生守りたいと思ってる。」


アイツはテーブル越しに、マイちゃんの手を握る。

その手つき、その目つき。 全部、私に見せていたものと同じだ。


「……あーあ」


私は天井から冷めた目で見下ろした。

少しは私の死で反省してるかと思ったけど。

こいつ、マジで更生不可能な粗大ゴミじゃん。


私、こんなやつのために命を絶ったの?

私の人生の最後は、こんなやつのために消費されたの?


――ふざけんじゃないわよ。


悲しみよりも先に、腹の底からマグマみたいな怒りが湧き上がってきた。

私が騙されたのは、もういい(よくないけど)。

でも、これ以上、被害者を増やすのは「管理会社(神木不動産)」の従業員として見過ごせない!


「……マジでクズ男。絶対に許さない」


ブワッ


私の感情に呼応して、店内の照明と観葉植物がガサガサと揺れた。


「え!? なに!?何かいる!?」


マイちゃんがビクリとして周囲を見回す。

彼女、少し霊感があるのかもしれない。

たぶん、私の気配に気づいている。


「おいおい、ただの風だろ? それより金の話だけどさ」

クズ男は気にせず話を続けようとする。


私はテーブルの上に降り立った。

当然、私の姿は見えない。 でも、今の私ならこれくらいできる!


「この……クズの詐欺師野郎ォォォォッ!!」


ガシャァァァン!!


私は渾身の力で、テーブルの上のアイスコーヒーをひっくり返した。


「うわぁっ!?」


黒い液体が、ケンちゃんの白いパンツにドバッとかかる。


「な、なんだ!? 急にコップが倒れたぞ!?」

 割れたグラスの音と、クズ男の叫び声でざわめく店内。


まだまだ、こんなもんで済まないわよ?

どうせ、ここの代金だって、この子持ちにする気なんでしょう?


次はケーキを掴み、クズ男の顔めがけてぶつける。


べちゃあ。


「わっぷ、……な、な、なんだ!?」


だっせぇ金髪の髪型もぐちゃぐちゃ、いけ好かない顔に生クリームがべっちゃりとついて、私はプププッと笑えた。

騒ぎに気づいた店員が、慌てつつ、何が起きたのか分からないといった顔をしながら、こちらに向かって来ている。


「え?……誰か……いる?」


マイちゃんが、何もない空間――私の方をじっと見つめた。

目と目が合う。

見えてはいないはず。


でも、伝わった気がした。


私は彼女の耳元で囁いた。 精一杯の警告を込めて。


『……騙されちゃダメ。その男は、史上最悪の欠陥住宅(クズ)よ』


「え……?」


マイちゃんの目が大きく見開かれた。

この子、見えてないけど、聞こえているね。


私は話を続けた。

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