架空史 マケドニア大帝国
和泉将樹@猫部
第1話 自己紹介
私の名前は
日本に住む日本人――ということになっている。
年齢は六十二歳。ただ、ガンを患い、おそらくもう長くはない。
それ自体はいいだろう。
というより、私は長生きし過ぎている。
確かに年齢は六十二歳だが、私には実は前世がある。
それと合わせると、実に百五十年以上生きていた計算だ。
これは生きすぎだろう。
私の前世は――かつての暦をそのまま使わせてもらうが、王歴二三二〇年に九十七歳で死んだ。いわゆる大往生だったといっていい。
前世においては歴史を研究していたが――死んでから、気づけばこの世界に転生していた。
ああ、一つ、勘違いがないように訂正しよう。
私の前世がいたのは、間違いなく地球だった。
大きく異なるのは歴史そのものだ。
正直、驚いた。
物心ついたころに前世の記憶を思い出したのだが、その記憶とこの世界は、全く同じ地球であり、大陸の形も何もかも同じで、さらに言えば同じような事象、同じような事件、同じ名の人物が登場することもあるにも関わらず――その歩んできた歴史が全く違うのだ。
決定的なのは――宗教戦争がなかったことだろうか。
ただ、ある時点までは、この地球の歴史も、私の前世の地球の歴史も、すべて同じだ。少なくとも、記録上違うと思える場所はない。
違うのは――歴史が変わったのは、ある一点。
ある人物の死が、私のいた世界とこの世界――同じ地球の歴史を全く違うものにしている。
そのたった一人の人物の死が違うだけで、その後の歴史は全く違うものになっていた。
もちろん、この地球にとってその歴史は意味のないものだろう。
だが、私は私が『いた』ということを証明するために、この私しか知らない、もう一つの地球の歴史をできる限り書き残そうと思う。
それは、あるいは今の世界に何かしらの示唆を残せるかもしれないという、死を前にした人間の最後のあがきなのかもしれない。
この世界でいえば紀元前三二三年六月十日。
私の前世の歴史では、その日は何の事件もない、特に記録すら遺されていない日だ。
その日、この地球ではある一人の偉大な人物が死んでいる。
アレクサンドロス三世――通称、アレクサンダー大王と呼ばれ、イスカンダルとも呼ばれたその人物の死。
それこそが――二つの地球の歴史を、決定的なまでに分岐させた要因なのである。
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