研究室で待っていますー迷いながら成長する学生たちの物語

@career-lab

第1話【模擬面接で沈黙した学生へ】採用面接で言葉が出ないときに大切なこと

「それでは、自己紹介をお願いします」


ゴールデンウィークが明けた頃のことです。

短大2年生の女子学生が、緊張した面持ちで私の研究室にやって来ました。


「どうしても練習しておきたいんです。もうすぐ本番で……」


そう言って椅子に座った彼女に、私はさっそく基本中の基本である「自己紹介」を促しました。


その瞬間でした。

彼女の表情が固まり、空気がピタッと止まったのです。


視線は宙を彷徨い、両手は膝の上でぎゅっと握られ、口元は半開き。

しかし、言葉は一音も出てきません。


研究室に流れる沈黙は、たった数秒だったはずなのに、体感では数分にも感じるほど重たいものでした。


普段から真面目で、コツコツ努力できるタイプの彼女。

準備不足でこうなっているわけじゃないと、私はすぐに分かりました。


「面接」という場所に置かれただけで、たとえそれが模擬であったとしても、これまで積み上げてきた言葉はどこかへ消え、胸の鼓動だけがドクドクと響いてしまう――。


学生のそんな瞬間を、私は何度も見てきました。


声をかけようか迷いましたが、あえて何も言わず待ちました。

“沈黙”もまた、重要な学びのひとつだからです。


しばらくして、蚊の鳴くような声で彼女がつぶやきました。


「……すみません。言葉が出てこなくて……」


私はその姿を見ながら、

ここから彼女はどう成長していくのだろう……と、未来のイメージをゆっくりと描いていました。


面接で言葉に詰まってしまうのは、学生にとって大きな恐怖です。

でも、実際にその恐怖を経験することで、はっきりとした課題を見つけることができるのです。

だから、練習の場面でも、本番と同じくらいの緊張感で、言葉に詰まる体験をしておく意味はあります。


模擬面接を終えると、私はこう伝えました。


「沈黙そのものが悪いわけじゃないよ。ただ、もしその沈黙に違和感があったなら、“なぜそうなったのか”を一緒に考えてみよう。必ず、あなたにとって“やりやすい方法”があるはずです」


すると彼女は、ふっと表情を緩ませて言いました。


「先生みたいに、何も考えずに次々と言葉が出てきたら楽なんですけど……」


……いやいや、私だって一応考えて話しているんですが(笑)。


その率直な言葉のおかげで、研究室の空気は明るくなりました。

彼女自身も、少し肩の力が抜けたようでした。


「沈黙すること自体が悪いことじゃないと思えたら、気持ちが楽になります」


そう語った彼女の表情は、来たときよりもだいぶ晴れていました。


面接は“演説”ではありません。

“対話”です。


日常の会話の中にも沈黙はあります。

だから、沈黙そのものに過度に怯える必要はありません。


ただし、一つだけ避けたい沈黙があります。


――準備不足による沈黙。


「しまった……」

そんな後悔と焦りが滲む沈黙です。


彼女のようにしっかり準備をしていれば、その“悪い沈黙”に遭う確率はぐっと下がります。



毎日のように面接練習に向き合いながら、私は思っています。


研究室でときどき訪れる、あの静けさは、

きっと、学生たちが未来へ跳ぶための“助走の音”なのだと。


もし、今これを読んでいるあなたが、面接で沈黙を経験したとしても、大丈夫。

その沈黙を越えた先に、きっとあなたの言葉が待っています。

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2025年12月10日 11:00

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