第2章:理想の家庭を夢見て
第8話:銀髪襲来。もはや奇襲。
「うわぁ、人いっぱいっすね」
「あの、俺必要だった?」
「保護者同伴OKなんで必然っす」
俺と飛鳥は大学のオープンキャンパスに来ている。と言っても俺の大学ではない。飛鳥はこれでも理系女子だ。必然的に志望校は理系大学になってくる。今日は千葉県の有名私立大学にお邪魔していた。
「私としては探偵活動に活かせる学部学科があるといいっすね。希望の職業は探偵なんで」
「学校の先生に探偵とか言って困らせてないだろうな?」
「……困ってるかどうかは知らないっす」
「言ってるのか」
「口に出したら夢叶うんで方々に言ってるっす」
おー、周りの人間が優しいのはわかった。よかったね。
「早速、研究発表のブースに行くっすよ」
「学部説明が先だろ」
「……私、頭いいんでどこでも入れるっすよ」
どこから湧いてくるんだその自信。本当に入れるんだろうけど。
「勉強面での心配はしてねぇよ。俺はお前に合った学部に入って欲しいんだ。概要だけでも聞きに行くぞ」
「えー、まぁ、千秋くんが聞きたいなら着いていくのもやぶさかではないっす」
「お前不器用拗らせすぎだろ」
なんで大学生の俺が他所の学部説明聞きたくなるんだよ。おかしいだろ。
学部説明は大きな講堂で全学部まとめて行うらしい。俺たちは真ん中あたりの見やすい席がたまたま空いていたのでそこに腰を下ろした。
「はえー、12の学部学科ですって。偏差値にもグラデーションがあるっす。多くの人間を集めるための私立特有の手法かなんかっすかね」
「周りの人がこっち見てるから静かにしような」
「意外と面白いっすね学部説明。なかなか楽しめそうっす」
「それお前だけな」
周りに漂う緊張感など微塵も感じないのか飛鳥は呑気に話し始めた。
俺はそんなソワソワして落ち着きのない飛鳥を落ち着かせたくて手を握る。
すると飛鳥はピタリと動きを止めて繋がれた手をまじまじ見つめ始めた。もしや効果あったか?
「これ、求愛行動っすか?」
「……お前はどうやったら黙るんだ」
壇上で説明している教授がこっち見てるって。ずっと目があってるもん。飛鳥はそんなことも気にせず嬉しいのか楽しいのか分からないけれど頬を上気させながら髪をピコピコ揺らしてる。
──学部説明よ早く終われ。
「いやー、結構面白いものっすね。大学。ちょっとワクワクしてきました」
「そりゃようござんした」
学部説明が終わり、生物学部の研究棟で行われる研究発表を聞きに行くことにした。人気の学部なだけあってかなりの人が見にきている。
そこでは、研究内容をまとめたA0サイズのポスターの前で大学生が楽しそうに発表していた。
「千秋くんは興味ある研究ありますか?」
「俺、研究とかに縁ないから難しいな。強いていうならあの、ファイトレメディエーション? なんか名前がかっこいいな」
「あー、植物を使った環境浄化の研究っすね」
「お前、そんなことまで知ってるのか」
「知識だけっす」
その知識幅広すぎだろ。
「とりあえずじゃあその研究に突撃するっす」
「了解」
鼻歌を歌いながらポスターの正面に立つと飛鳥はじっとポスターを読み込み始める。
あの、飛鳥さん。大学生の説明聞かないんですか? 横の大学生のお兄さん困ってますけど。
「えぇっと、研究の説明してもよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします。ほら飛鳥。ひとまず話聞くぞ」
「……了解っす」
なんで少し不満そうなんだこいつは。きっとポスターを自分で見た方が早いとか思ってるんだろうな。これだから天才さまは。
研究内容は文系の俺でもわかりやすいものだった。
俺なりに簡単にまとめると、土壌や水中、排気ガスなどの中には人体に有害な金属元素が含まれている。それらを植物に吸収させ環境を浄化させる。そしてあわよくばその金属を回収することを目標にしているのだという。
そんな話を聞いて、横の銀髪は難しそうに首を傾げている。
「どうした? 俺はわかりやすかったぞ」
「私もわかりやすかったっす」
「なら何をそんなに悩んでるんだ? 質問あれば聞いていいんじゃないか?」
「いえ、それには及ばないっす。私ならどうするかを考えてたっす」
「ほう」
疑問があってもこいつは自己完結しているのかな。ポスターには目もくれず1人で唸り始めてしまった。
「君、この分野に興味あるのかい? 話聞こうか?」
大学生のお兄さん、今のこいつに話を振らない方がいいですよ。めんどくさいことになるんで。
「この研究テーマって難しいっすね。いくら環境負荷が少ないとはいえ、自然環境の変化がリスクになってくるんで、生態系に及ぼす影響も考えないといけないっす。だから。この研究で扱っているポプラの木はそういった環境変化のリスクにみあった栽培コストや成長速度のコスト、金属吸収のコスト、金属回収のコストになっているのか考えていたっす」
「は、はぁ」
ほら、めんどくさいことになった。大学生引いてるぞ。
「千秋くんはどう思います?」
「なんで俺に話を振るんだ……でもまぁ、そうだな。リスクの問題を考えるにはいろんな植物で比較するのが必須で、なおかつ植物の種類によって吸収できる金属が異なると考えるのであれば、考慮するべきことは2つだと思う」
「それはなんです?」
「まずはどのくらいの濃度を吸収できるか。そしてより多くの種類の金属吸収に対応できるか。この2つを最大化できればコストは大幅に下がると思う」
「栽培、成長速度のコストは? 植物の成長に時間ががかったり、環境の変化に弱いのは論外っすよ」
「それねぇ、難しいと思うんだよねぇ。だって、植物それぞれに吸収効率があるわけだから、その土壌、水に含まれる金属量次第で植えておく時間が変わると思うんだ。だから考えるとしたら、植物本体の回収のしやすさ、繁殖のしやすさだと思う」
「ふーん」
なんて淡白な返事なんだ。これでも一生懸命考えて話してるんだぞ。
「千秋くん、やっぱり頭いいっすね。ちゃんと思考ができてるっす」
「……どうも」
「というわけで、大学生のお兄さん。使用する植物にオオカナダモなんてどうでしょう」
「え?」
なんかこいつ提案し出したぞ。オオカナダモってよく金魚鉢とかに植えてある水草だよな。
飛鳥の唐突な提案に大学生は困惑している。
本当にうちの飛鳥がごめんなさい。もう少し付き合ってください。
「外来種ですけど、その辺の池に繁殖してますし、今更だと思うんすよ。その代わり成長速度が早く、環境を選ばず、植物本体の回収がしやすく、ほとんどが葉と茎なので焼却して金属の回収もしやすいと思うんす、今あるオオカナダモを使えば外来種駆除にもなるっすからね」
「それ金属吸収するの?」
「するっすよ。カドミウム、セシウム、銅とか」
「なぜ知っている」
「知識っす!」
「すごいな飛鳥は」
「……人前で褒めるの禁止っす」
こいつ褒められ慣れてないのか、少し褒めるだけでモジモジし始めるな。
これは飛鳥のコントロールに使えるかもしれない。
「というわけで、お兄さん、ありがとうございました。なかなか考えるのが楽しいテーマでした」
「はぁ、なら、よかったです」
大学生のお兄さんぐったりしてますやん。疲れさせてしまったな。
飛鳥の相手してくれてありがとうございました。心の中でひっそりと感謝しておく。
他の研究も見てまわりたそうだったが、お腹が空いたので学食に行くことにした。
「もし、ここの大学に入ったとしたら学食のメニューは気になるところだぞ」
「私、食べれればそれでいいっすよ」
「4年間過ごすんだから色々楽しめた方がいいだろ」
「確かにそれは一理あるっすね」
飛鳥は家でご飯を美味しそうに食べているから食に対しての興味はあるんだろう。でも、今まで愛情のある料理を食べてこなかったからこだわりが少ないだけだ。
食堂は大きく、大きなガラス窓から自然光がたくさん入るようになっており、解放感のある造りになっている。
なかなかいいところじゃないか。少し羨ましいぞ。
「なに食べよう。千秋くんのオススメあるっすか」
「俺もここ初めてきたんだけど……でも、無難なのはカレーかな。あとは日替わり定食。ラーメンやうどんは家の方が美味しい気がする」
「うーん。じゃあ私はA定食にするっす。千秋くんカレーね」
「なぜ」
「カレーも食べてみたいっす」
「まぁ、いいだろう。俺カレー好きだし」
勝手に昼飯を決められたが、俺もご飯にそこまでこだわりがないので許そう。
あと飛鳥が嬉しそうだし──あ、カツカレー大盛りにできるじゃん。これにしよ。
「千秋くんみて! 春巻きと杏仁豆腐がついてきたっす!」
「好きなのか?」
「どちらも1回しか食べたことないけど美味しかった記憶があるっす!」
「よかったね」
「千秋くんがどうしてもっていうなら半分こもやぶさかではないっすよ」
「全部食べな。きっと美味しいから」
「……っす」
ツーサイドアップの髪をピコピコさせ、お皿をクルクル回していろんな角度から春巻きを見てる。そんなに嬉しいのか。
俺のカツカレーも美味しそうだ。熱々のカツが分厚く、衣が立っている。カレーにつけて食べるとなお美味しい。周りに人がいなかったらかき込んで食べたいくらいには美味しい。
ただ、さっきから視界の端に映る飛鳥が気になって仕方がない。
「なんだよ。じっと見て。食べづらいわ」
「千秋くんって改めて見た目がかっこいいのだなって思って。周りの女性がさっきからチラチラ見てるっす」
「俺はとんでもないイケメンだぜ。知らんかったか?」
「私、外見で人を判断しないので。内面見ないと誰が犯罪者かわからなくなるじゃないですか」
確かに飛鳥と最初にあったとき、俺のことを品定めするように見てたっけ。
「その方が俺も助かるよ。外見以外も褒めて欲しいからな」
「千秋くんは優しいっすよ。私にここまで付き合ってくれた人は初めてっす。つまり、私の目に狂いはなかったってことっすね」
さすが私──話しながらひょいっと俺のカツが強奪される。
「カレーと一緒に食べなよ。美味しいよ」
「本当っすかぁ?」
「カツカレーがカツカレーたる所以を甘くみるなよ」
「じゃあ、スプーンください。私箸しかないんで」
「あい」
皿とスプーンを渡すと一口、また一口とパクパク食べ始めた。
美味しさに思わず破顔一笑している彼女を見ているとこちらも幸せになる。
太陽が高く昇り、食堂に多くの光が差し込んでおり、輝く銀の髪は彼女を儚く、華やかに彩っていた。
「なんすか。じっと見て。食べづらいっす」
「いや、綺麗だなって思って。銀髪」
「私は髪以外も綺麗っすよ。知らなかったっすか?」
「知ってるよ。君は誰よりも人の幸せを考えられる1番心が綺麗で純粋なやつだ。悪くいえば単純だな」
「……なんで今悪くいったんすか。せっかく感動してたのに」
言ってて恥ずかしかったのだ。俺も不器用なのだから許して欲しい。
頬を膨らませる飛鳥から皿とスプーンを取り上げると、名残惜しそうに「あぁ」と声を漏らしていた。
午後もオープンキャンパスは続く。
午前中の出来事を踏まえてこの後のことを考えると、胃がもたれるから飛鳥にご飯を分けるくらいでちょうどよかったのかもしれない。
彼女は俺の苦悩になんて気づかず呑気にご飯を頬張り続けている。
大学生の皆さん。そろそろ天才が通過するので覚悟しておいてください。
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