第3話
担任に続いて編入生が教室に入ってくる。
周りがざわつく中悠真は信じられないものを見るように目を見開いた。
「どうして…」
思わず悠真は呟き慌てて口を手で抑える。これに気づいているのは私だけ。
「どうかした?知り合い?」
「…え、いや、なんでもなくて。」
私が聞くとしどろもどろに答える。
うっかり執事という設定を忘れている。
ますます怪しい。でも、悠真の知り合いならば私も知っているはず。さらに詳しく聞こうとしたが担任の声に遮られる。
「ほら、静かにー!確かに珍しいのもあるが編入生が緊張しちゃうだろ?じゃあ自己紹介してもらおうかな。」
編入生が静かに頷く。
「……蒼井琴乃です。よろしくお願いします」
それだけなのに、教室のざわめきがなぜか消えた気がした。琴乃の声は、やけに冷たく、澄みすぎていた。
まるでここにいるはずのない誰かが喋っているような違和感。
そして、琴乃はゆっくりと顔を上げた。前髪の隙間から覗く瞳がまっすぐ、悠真だけにしか分からないように一瞥しにこっと微笑んだ。もちろんそれを私は見逃さない。なんだか少し不気味だ。
というか不安のほうが強い。悠真がこの女に取られてしまうんじゃないかという不安。そして微笑みかけられた本人は固まっている。表情がこわばり、指先が震えている。
「……なんで、おまえ……ここに……」
悠真の声は、震えていた。私が聞いたことのない種類の震え方で。
何かが決定的におかしい。ただの知り合いの反応じゃない。私の知ってる悠真じゃない。
私が何か言おうとした瞬間担任に悠真の後ろの席を指定された琴乃が近づき微笑んだ。その笑顔は、どこか壊れているようにも見えた。
「また一緒だね。……今度も仲良くしようね」
背筋が寒くなる。意味のわからない悪寒。
気づくと、さっき廊下で揺れた影が、教室の後ろの方でゆらりと動いた気がした。
それに気づいたのは、きっと私だけだった。
その時私は確信した。この女と謎の影。
この2つが関係している気がしてならない。もちろん根拠なんて無い。女の勘てやつ。
そこでこれから琴乃と影、そして悠真について観察日記をつけていこうと思う。もちろん琴乃に悠真を取られるわけにいかないからもっと積極的にアプローチもしていくつもり。
どう転ぶか分かんないけどいい方向に進むと良いと願いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます