第8話「実家からの厄介者」
僕が作る奇跡の野菜の噂と、その土地が信じられないほど豊かになっているという話は、風に乗って、ついに僕を追放した実家、アトウッド伯爵家の耳にも届いていた。
穏やかな昼下がり、僕たちが畑仕事をしていると、数頭の馬が土煙を上げてこちらに向かってくるのが見えた。先頭を走る馬に乗っているのは、見覚えのある顔だった。
「フィン! 貴様、こんな場所で随分と優雅に暮らしているようだな!」
馬上から僕を傲慢に見下ろしてきたのは、次兄のゲオルグだった。彼の後ろには、揃いの鎧を身につけた騎士たちが数名控えている。
「……兄さん。どうしてここに?」
「決まっているだろう。貴様の噂を聞きつけた父上が、様子を見てこいと仰せになったのだ」
ゲオルグは馬から降りると、僕たちの畑を値踏みするように見回した。見渡す限り広がる緑の畑と、たわわに実る色とりどりの野菜。かつての荒れ地とは似ても似つかない光景に、彼の顔が嫉妬で醜く歪んでいく。
「信じられんな……。あの痩せ果てた土地が、これほど豊かになるとは」
彼は土を一つまみすると、その黒々とした様子に目を見開いた。
「こんなハズレスキルで、お前にこれだけのことができるはずがない! 何か特別な方法を使ったのだろう!」
「……ただ、僕のスキルで土を良くしただけだよ」
「嘘をつくな!」
ゲオルグは僕の言葉を信じようとせず、一方的に喚き散らした。
「いいか、フィン。その土地とスキルは、本来アトウッド家のものだ。役立たずのお前に与えたのが間違いだった。今すぐ、そのすべてを我が家に献上しろ。そうすれば、家の隅で下働きくらいはさせてやってもいい」
あまりに傲慢で、身勝手な言い分だった。追放しておきながら、価値があると分かった途端に奪いに来る。これが貴族というものなのだろうか。僕は怒りよりも先に、深い呆れを感じていた。
僕の隣に立つアッシュは、腕を組んだまま、氷のような目でゲオルグを黙って見つめている。その全身から放たれるただならぬ気配に、後ろに控える騎士たちがごくりと喉を鳴らしたのが分かった。
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