第5話「覚醒」

 白い光の中で、声が聞こえた。


『——汝、真実を見る者よ』


 誰だ。


 俺はどこにいる。


 意識がぼんやりとしている。体の感覚がない。


『長き眠りから覚める時が来た。汝の眼は、ただ見るだけのものではない』


 見るだけではない?


 どういう意味だ。


『見て、理解し、そして——奪え』


 光が弾けた。


---


 意識が戻った瞬間、俺は現実に引き戻された。


 オーガの棍棒が、俺の頭上に振り下ろされようとしている。


 ——死ぬ。


 そう思った瞬間、視界に見慣れないウィンドウが表示された。


『スキル進化


 【鑑定】Lv.MAX → 【真・鑑定眼】


 新機能解放:【スキルコピー】

 効果:鑑定した対象のスキルを一時的にコピーし、自身のスキルとして使用可能

 現在のストック枠:1』


 ——は?


 スキルコピー?


 俺の【鑑定】が、進化した?


 混乱する頭で、オーガを見た。


 自動的に【真・鑑定眼】が発動する。


『オーガ Lv.28

 スキル:【剛力】【再生】

 →【剛力】をコピーしますか? [はい/いいえ]』


 コピーできる。


 こいつのスキルを、俺のものにできる。


 迷っている暇はなかった。


「はい!」


 声に出した瞬間、体に力が漲った。


『【剛力】をコピーしました

 効果:筋力が3倍に上昇

 持続時間:コピー元を上回るまで永続』


 筋肉が膨張するような感覚。


 全身に、今まで感じたことのない力が満ちている。


 棍棒が振り下ろされる。


 俺は——横に跳んだ。


 さっきまでとは比べものにならない跳躍力。


 棍棒が地面を砕く。俺がいた場所に、巨大なクレーターができた。


「グオッ!?」


 オーガが驚愕の声を上げる。


 さっきまで動きの鈍かった獲物が、突然回避したのだ。


 俺も驚いていた。


 この力——本物だ。


 体が軽い。さっきまでの恐怖が、嘘のように消えていく。


「お前のスキル……もらったぞ」


 ナイフを構える。


 刃が頼りなく見えたのは、もう過去の話だ。


 この【剛力】があれば——戦える。


「グオオオォォッ!」


 オーガが怒りの咆哮を上げ、再び突進してくる。


 棍棒が横薙ぎに振るわれる。


 俺は身を低くして、その下を潜り抜けた。


 ——今だ!


 【真・鑑定眼】が表示した情報を思い出す。


 弱点:左膝(古傷あり)。


 俺はオーガの足元に滑り込み、左膝めがけてナイフを突き立てた。


「ギャアアアッ!!」


 悲鳴。


 古傷を抉られたオーガが、膝から崩れ落ちる。


 だが、まだ終わりじゃない。


 こいつには【再生】スキルがある。時間をかけたら回復されてしまう。


 俺は倒れたオーガの首筋に飛び乗った。


 ナイフを逆手に持ち替え、渾身の力を込める。


「終わりだ……!」


 刃が、オーガの首に深々と突き刺さった。


「ガ……ッ」


 オーガの体が痙攣し——動かなくなった。


『オーガを撃破しました

 経験値:3500獲得

 レベルアップ:Lv.8 → Lv.12』


---


 俺は、その場にへたり込んだ。


 全身から力が抜けていく。


 勝った。


 俺が、オーガに勝った。


 Fランクスキルの【鑑定士】が、中層の魔物を単独で撃破した。


「はは……」


 笑いが込み上げてくる。


「なんだよ、これ……」


 見上げたウィンドウには、新しいステータスが表示されていた。


『アルト・レイシス Lv.12

 HP: 280/280

 MP: 150/150

 スキル:【真・鑑定眼】

  ├ 鑑定(効果強化)

  ├ 看破(隠蔽無効)

  └ スキルコピー(1/1枠使用中)

 コピー中スキル:【剛力】』


 これが、俺の本当の力。


 ただ見るだけじゃない。


 見て、奪って、自分のものにする——。


「最弱職なんかじゃ……なかった」


 俺は、ゆっくりと立ち上がった。


 オーガの死体を見下ろす。


 こいつの素材は高く売れるはずだ。牙、皮、心臓——すべて回収しよう。


 【真・鑑定眼】で素材の価値を確認しながら、俺は黙々と作業を始めた。


 手が震えていた。


 興奮か、安堵か、それとも——喜びか。


「見てろよ、ヴァン」


 革袋に素材を詰め込みながら、俺は呟いた。


「俺を追放したこと……後悔させてやる」


 これは、始まりに過ぎない。


 俺の逆襲は、ここから始まる。


---

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