模擬デートに乱入者、妹(コーチ)の監視


模擬練習に降臨した監督官

玲司の家で「デート模擬練習」の開始が宣言された日の夕方。玲司は作戦に必要なアイテム(デート雑誌、ファッション誌、評価用アンケート用紙)を並べ、真剣な表情で華恋を待っていた。


華恋が玄関のチャイプを鳴らし、玲司がドアを開けると、そこには顔を真っ赤にした華恋と、その背後で腕を組みニヤニヤ笑う妹の白石光の姿があった。


「え、光?なんでお前がここにいるんだ?」


「失礼な!」光はすたすたとリビングに入り、玲司が広げたデート雑誌の上に座った。


「私はコーチ兼監督官よ。恋愛経験皆無の姉一人に、こんな重要な打倒・天堂沙耶香作戦を任せられるわけがないでしょ」


玲司は感心したように頷いた。


「なるほど!光、お前は確かに客観的で、恋愛シミュレーションでいうところのデバッグテスターに適任だ!助かる!」


「デバッグテスターじゃなくて、キューピッドよ」


光の真の目的

光が模擬練習に参加した真の理由は、姉である華恋の恋愛における足踏み癖を矯正することだった。


(お姉ちゃんは、玲司先輩が天堂さんにフラれるのを見ても、自分が天堂さんより劣るってだけで動かない。だから、強制的にデートの状況にぶち込んで、アタックする機会を作ってあげるしかない!)


光は玲司と沙耶香の勝負の行方には興味がない。彼女の関心は、華恋が玲司にどれだけ近づけるか、その一点にあった。


光は早速、指導を始めた。


「じゃあ、模擬練習スタート。まずは服装の選定ね。お姉ちゃん、さっき着てきたそのカーディガン、無難すぎ。もっと明るくて、デート感がある服に着替えて!」


「ええっ、でもこれ、玲司に一番可愛いって思われたくて選んだ服なのに…」


「ダメ。玲司先輩をドキドキさせる服じゃなきゃ、天堂さんには勝てないわよ」


華恋は光の勢いに押され、渋々、持参した予備のブラウスに着替える羽目になった。


模擬デート:待ち合わせ編

次に、待ち合わせの挨拶のシミュレーションだ。光は玲司を玄関前に立たせ、華恋をリビングのドアの裏に隠した。


「玲司先輩、私は天堂沙耶香役。お姉ちゃんは彼女役ね。華恋、ドアを開けたら、最高の笑顔で『お待たせ!』って言いなさい!」


玲司は真剣な顔で壁の時計を見ていた。


「よし、待ち合わせ時間のマイナス5分だ。天堂は時間厳守で来るだろう。俺は余裕のある笑顔で迎え入れるぞ」


華恋が意を決してドアを開ける。


「お、お待たせ!玲司!」


「ん、おう。華恋。予定通り5分前の到着、パーフェクトだ。よし、次は会話の引き出しに移るぞ」


「ちょっと待った!」光が玲司の前に立ちはだかった。


「玲司先輩、今の満足度はゼロね!」


「なんでだよ!時間厳守だぞ!?」


「デートの待ち合わせで、彼女をタスク完了みたいに扱うのは最低よ!『お待たせ』って言われたら、『全然待ってないよ、むしろ会えて嬉しい』って感情のデータを返さなきゃダメ!」


光は玲司に、デートで重要なのは論理ではなく感情であることを叩き込んだ。玲司は頭を抱えながら、必死に感情論をメモした。華恋は、玲司が自分のために真剣に恋愛を学ぼうとしている姿を見て、胸が締め付けられた。


キューピッドの仕掛け

そして、光は最後に、最も重要なシミュレーションを提案した。


「次が最終シミュレーションよ。お姉ちゃん、あんたはちょっとだけ体調が優れないフリをしなさい。玲司先輩、あなたは最高の気遣いで彼女を喜ばせなさい」


玲司はすぐにメモを取った。「病弱ヒロインへの対処法…」


華恋は演技をするフリで、玲司の肩にそっと寄りかかろうとした。


しかし、その瞬間、光が華恋の背中をぐいっと押し込んだ。


「うわっ!」


華恋はバランスを崩し、玲司の胸元に真正面から突っ込んでしまった!


「わ、わああ!ご、ごめん玲司!」


「お、おい華恋!?大丈夫か!?」玲司は反射的に華恋の体を支え、華恋は玲司の心臓の鼓動を直接聞いてしまった。


光は、完璧な「アタック」の瞬間を演出したことに、満足げに微笑んだ。


(これで、デートはただのシミュレーションじゃなくなったでしょ、お姉ちゃん)


華恋の頭は真っ白だった。これは最高のハプニングであり、最高のデートイベントだ。玲司は純粋に心配しているが、華恋の胸は、もう限界まで高鳴っていた。


「よ、よし!休憩だ!休憩!」


玲司は混乱し、華恋は恋の熱にうなされながら、次の模擬練習へと進むのだった。

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