第15話「親友と呼べる人」

「――あれ? 紗彩?」

「……え?」

「……え!? 瑠奈!?」


 二ノ宮先輩ではない、高い声が聞こえた……と思ったら、階段に一人の女子生徒がいる。二ノ宮先輩が名前を言ったということは、知り合いなのだろうか。


「また昼休みに紗彩がいないと思って探したら、こんなところにいたなんてね……おや、もしかしてそちらが話していた太陽くん?」

「る、る、瑠奈! こ、これには、ふふふ深いわけがありまして……」

「……そんなに動揺しなくて大丈夫よ。ここに紗彩がいることは誰にも言わないわ」


 そう言って階段をトントンと上がってきた、瑠奈と呼ばれた女の子……タメ口で話しているということは、二ノ宮先輩の同級生だろうか。


「はじめまして、私、紗彩と同じクラスの香月瑠奈といいます」

「……は、はじめまして、藤崎太陽です……」


 軽い挨拶を交わすと、香月先輩は俺の左隣に座った。


「噂はちょくちょく紗彩から聞いているわ。太陽くんも一人になりたかったらしいわね」

「……は、はい……」

「る、瑠奈、何もしないでね! 太陽くんに触っちゃダメだからね!」

「こら、紗彩、私が変態みたいなこと言わないの。それにしても、紗彩の機嫌がよくなったのも、太陽くんのおかげなのでしょうね」

「……そ、そうなんですね」

「ああ!! い、いや、太陽くんはとてもいい人で、ちょっと冷たい時もあるけど、優しい心を持ち合わせていて……」

「何も言ってないけど、太陽くんの情報教えてくれてありがとう。ふふふ、どうやら太陽くんは紗彩に気に入られたようね」


 そう言って香月先輩は、俺の頬を右手でちょんと触った。黒髪ロングの髪型に、目元はパッチリで右目の下に小さなほくろがあった。香月先輩も綺麗な人だった。

 それにしても、紗彩……二ノ宮先輩に気に入られた……? まぁ、よく話す友達にはなったけど、どう反応していいのか分からなかった。


「……そ、そうですか」

「ああ! ダメダメ! 瑠奈、それ以上太陽くんに近づいてはダメー!」

「紗彩は何か勘違いしているようね。でも、紗彩がもたもたしていたら、私が太陽くんを奪っていこうかなぁ、なんてね」

「!! る、瑠奈……!!」

「……冗談よ。慌てる紗彩も面白いわね。それにしても、ここで二人が会っていたなんてねぇ」


 香月先輩がキョロキョロとあたりを見回していた。校舎端の階段の一番上、俺のお気に入りスポットは、いつしか俺と二ノ宮先輩の秘密の場所となった。秘密といってもただ楽しくおしゃべりしているだけなのだが。


「お願い、瑠奈、このことは内密に……!」

「大丈夫よ、さっきも言った通り、ここに紗彩がいることは誰にも言わないわ。もちろん、太陽くんのこともね」

「そ、そっかー、よかった……」

「太陽くん、気づいていると思うけど、紗彩がみんなの前で見せる顔は、いつもの紗彩じゃないの。外向きの紗彩といってもいいかな。きっと太陽くんには素の紗彩を見せているよね」

「は、はい、俺もそのことには気づいていて、一度質問したりして……」

「それならよかったわ。たぶん素の紗彩が見れるのは、私と太陽くんくらいだと思うわ。これからも紗彩をよろしくね」

「は、はい、こちらこそ……」

「ふふふ、太陽くんとお話できてよかったわ。じゃあね、また会いましょ」


 香月先輩が立ち上がり、手を振りながら階段を下りていった。


「……な、なんか、ここにいるのがバレてしまいましたね」

「…………」

「……二ノ宮先輩?」

「……あ、そ、そうだねー、さっきの瑠奈は私の親友でね、きっと言っていたことも本当だと思う。瑠奈は他の人にぺらぺらしゃべる人じゃないから」

「そうでしたか、そういえば以前も親友がいるって言っていましたね」

「うう、でも瑠奈に見つかってしまった……はっ、実は太陽くんのことを陰からこっそりと追いかけて……ブツブツ」

「に、二ノ宮先輩? 何か言っていましたが……」

「はっ!? な、なんでもないよー! あ、そろそろ昼休みが終わっちゃう……戻らないと」

「そうですね、また学校に来ますから」

「ほんとー!? じゃあその時を楽しみにして頑張ろうかな! じゃあまたね!」


 二ノ宮先輩が元気よく立ち上がって、階段を下りていった。ここに残ったのは俺一人。


(……そっか、二ノ宮先輩も、親友がいたんだな)


 ふと、自分には親友と呼べる人がいないなと思った。二ノ宮先輩は友達……だけど、親友と呼んでいいのだろうか。まだ付き合いも短いし、香月先輩は二ノ宮先輩のこと何でも知ってそうだったし、あの二人のような関係ではないのかもしれない。


 でも、二ノ宮先輩と話していて楽しいのは、本当だ。


 その時、ポケットでスマホが震えた。何だろうと思ったら、RINEが来たみたいだ。


『藤崎くん! 学校での勉強は順調かい?』


 鎌田くんからのRINEだった。

 ……俺も、いつか親友と呼べる人ができるといいなと、ぼんやりと思いながら、俺は立ち上がって階段を下りていった。

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