第11話「一学期終了と友達の始まり」
「――それで、明日から夏休みだけど、みんなちゃんと課題もやっておくようにー」
先生の一言に、みんなが「はぁーい」と気だるそうな声を出す。
今日は一学期の終業式。体育館で校長先生の長い長い無駄ば……おっと違う、ありがたいお話を聞いた後、ホームルームで通知表が配られた。俺の成績は想像していた通りそこそこ。可もなく不可もなくといった感じ。まぁそのくらいがいいのだ。変に目立つようなことはしたくない。
「じゃあ、今日は終わりよー、みんな元気に楽しく過ごしてねー」
先生の言葉が若干小学生に向けてのような子どもっぽい感じがするが、気にしないでおこう。みんなが「終わったぁー」「帰ろ帰ろー」と楽しそうに帰って行く。俺も席を立とうとすると、
「藤崎くん!」
と、声をかけられた。見ると鎌田くんがいた。
「ん? どうかした?」
「いや、帰るのであれば、一緒にどうかなと思ってね!」
ん? 一緒に帰る……? 誰と誰が?
「……ん? 誰と誰が?」
「もちろん、僕と藤崎くんに決まっているだろう! たまにはいいんじゃないかと思ってね!」
僕と藤崎くん……なんと、俺のことを誘ってきたのか。これまでそんなにクラスに話す人もいなかった俺が、誘われるようになったとは……。
……しかし、俺は今日の放課後、行くところがあった。
「ごめん、この後ちょっと一人で行くところがあって」
「なんと、そうなのか、昼休みによく消える藤崎くんらしいね! もしかして、人には言えない大きな秘密があるとか?」
「あ、その……なんて言えばいいんだろう……ちょっとね……」
「ああ、いいんだ、人間秘密の一つや二つあるものだよ。しかしいつかその秘密とやらを聞いてみたいものだね!」
「いや、そんなに大したことではないんだけどね……」
……この秘密はいくら真面目な鎌田くんでも、知ると飛び上がって上の階まで突き抜けそうなので、言うことはできないだろう。
「まぁ、そのうち話してくれると嬉しいよ。そうだ、せっかくだしRINE交換しないかい? 話しにくいことも話せるだろう」
「え、あ、RINEか……まぁいいか、ちょっと待って」
俺はスマホを取り出し、鎌田くんとRINE交換をした。
「よし、ありがとう! じゃあまた二学期に!」
手を振って教室を出ていく鎌田くん。悪い人ではなさそうだ。この俺なんかでも声をかけてくれるとは……これが友達の始まりというやつなのかなと思っていた。
* * *
「――へぇ~、太陽くんもクラスで話せる人ができたんだねぇ! いいことだと思うよぉ~!」
いつもの校舎端の階段の一番上で、楽しそうな声を出す二ノ宮先輩だった。
実は昨日二ノ宮先輩からRINEが来ていて、『明日の放課後、いつもの場所にお昼ご飯を持って集合!』と言われていたのだ。終業式の日くらいさっさと帰りたい気持ちもあったが、まぁいいかと思って俺は二ノ宮先輩に付き合うことにした。
「はい、クラスの学級委員なのですが、真面目で周りの人のことよく見てるなぁと思っていました」
「そっかそっかー、やっぱり一人よりも話せる人がいる方がいいでしょ?」
「うーん、どうなんですかね。でも、そうかもしれませんね」
いつもの赤い花柄のお弁当箱から、のりっこチキンを取り出して美味しそうに食べる二ノ宮先輩。俺も焼きそばパンを食べる。
「うんうん、いいことだと私は思うけどねぇ~。あ、その学級委員って、もしかして女の子……?」
「いえ、男ですよ。背が高くて勉強ができそうな感じがします」
「……あ、そ、そうなんだねー、それはよかった。うんうん、よかったよかった」
どこかホッとしている様子の二ノ宮先輩だった。何かあったのだろうか。
「……ん? 二ノ宮先輩、どうかしましたか?」
「ああ! いやいや、なんでもないよー」
「何か隠してるって顔しています」
「うっ、なんで太陽くんはこういう時に限って鋭いの……その、女の子だったら、その子と仲良くなって、ここにも来てくれなくなるんじゃないかなーって思って……」
人差し指をちょんちょんと合わせて、恥ずかしそうに言う二ノ宮先輩。もしかして嫉妬……というやつなのだろうか。もごもごと口にする二ノ宮先輩が可愛く見えた。
……ん? いやいや、俺と二ノ宮先輩は友達だ。俺に他に友達ができたからって、その関係が変わることはない。それに嫉妬というのはちょっとおかしい気がするな。俺も考えすぎなのだろう。
「いえいえ、俺と二ノ宮先輩は、これまで通りですよ。関係が変わったりしないです」
「そ、そっかー、ありがとう! あーなんか私も変なこと考えちゃうみたいだなぁ」
「そんなに変なことだったんですか?」
「ああ! いや、その……なんでもないっ!」
二ノ宮先輩はそう言って、食べ終わったお弁当箱を片付けていた。今日の二ノ宮先輩、なんか変だな……と思ったが、それ以上は詮索しないことにした。
「あー、それにしても一学期が終わったねぇ! 明日からは夏休みだね!」
「はい、思いっきり遊ぶようにします」
「くっ、二年生はいいなぁ。私は明日からさっそく課外授業だよ~。まぁ仕方ないけど」
「課外授業、頑張ってくださいね」
「うん! まぁでも途中で休みの期間もあるから、そこで楽しむようにしようかな! それでさ、その休みの時に、太陽くんと一緒に遊べたらなーって思ってるんだけど、どうかな?」
「あ、はい、いいですよ」
「やったー! じゃあ今度はどこかに出かけてみようか! どこがいいかな~ふんふーん」
急に楽しそうな二ノ宮先輩だった。まぁいいか。
明日から夏休みに入っていく。課題はやるとして、それ以上に楽しんでいこうと思っていた。
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