傭兵ヴァルターと月影の姫巫女

みつまめ つぼみ

第1章 戦場の傭兵

第1話 傭兵ヴァルター

 戦場を疾走しながら、手に持った大剣で敵兵の体を両断していく。


 俺が大剣を振るうたびに、敵兵が二、三人切り飛ばされていく。


 仲間たちも、巻き添えを避けたくて俺には近寄らん。


 返り血を浴びながら、前線を前へ前へと押し進めていった。


「――撤退! 撤退!」


 敵軍の奥から声が上がると、敵兵たちがたまらず俺に背中を見せて逃げ出していった。


「――ふぅ。どうやらこの戦争も勝ったか」


 周囲を見ても、大勢は決している。


 あとは籠城した敵軍に降伏勧告をつきつけて終いだ。


 俺は大剣を一振りして血を払い、背中の鞘に納めた。


 近くの傭兵仲間が声をかけてくる。


「楽勝だったな、ヴァルター」


「まぁな。だが勝ち戦にも飽きてきた。こんなんじゃ暴れ足りねぇよ」


 傭兵仲間が笑いながら俺の肩を叩く。


「あんたらしいぜ、ヴァルター。

 それなら『キュステンブルク王国』なんてどうだ?

 ここ五年、戦争続きらしい。今はアイゼンハイン王国と争ってる。

 二年くらい戦線が続いてるが、敗色濃厚って噂だぜ?」


 俺は笑みを浮かべながら答える。


「ほぉ、相手は強いのか?」


「キュステンブルクが弱いのもあるが、アイゼンハインは十万近い兵力があるらしい。

 まぁ、キュステンブルクに勝ち目はないだろうさ」


 そんな大国と二年も戦線が続く……アイゼンハインも周辺国を牽制する兵が必要ってことか。


 ってことは、なんとか今の戦線を崩してやれば勝ち目がなくもないな。


 あとは現地で情報を集めて、傭兵部隊の募集に応募してみるか。


 俺は傭兵仲間の背中を叩いて告げる。


「面白い情報をありがとよ、参考になったぜ」


「いってぇ?! その馬鹿力で叩くなよ!」


 俺たちは笑いながら、敵軍の砦を囲むための進軍に加わった。





****


 キュステンブルク行きの船に乗り込み、甲板で海風に当たる。


 ……暇、なんだよなぁ。船旅だとやることがねぇ。


 陸路じゃちょっと時間がかかるし、キュステンブルクが負けてからじゃ面白くもない。


「間に合うといいがな……まぁ、負け戦も楽しいもんだが」


 敗色濃厚なほど、いくら切っても敵が襲ってくるようになる。


 士気が低い兵なんぞ、切っても楽しみがない。


 今度は暴れ甲斐がある戦場だといいんだがなぁ。


 俺はあくびをしたあと、三等船室に戻るため、船の中に入った。



 ――この時の俺はまだ、一人のガキに人生を滅茶苦茶にされるなんて、思ってもいなかった。

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