『「清掃係」の俺、S級ダンジョンの深層で配信を切り忘れる。~ザコモンスターだと思って瞬殺していたのが、実は「深淵の魔王」だったらしく、同接が100万人を超えていた件~』

さんたな

プロローグ『不人気職【清掃員】を選んだ日』

​世界が変貌したのは、ちょうど十年前のことだ。

​突如として世界各地に『ダンジョン』が出現し、同時に全人類の目の前に半透明のステータスウィンドウが現れた。

『大転換期』と呼ばれる時代の始まりだ。

​神とも、システムとも呼ばれる「声」は、人類に告げた。

​『生き残りたくば、職業(ジョブ)を選べ』

​勇者、聖騎士、大魔導師、剣聖。

煌びやかで強力な戦闘職のリストが並ぶ中、人々は我先にと最強の力を求めた。

当然だ。モンスターが溢れる世界で、力こそが正義であり、生存権なのだから。

​だが、当時二十歳だった神木レンは、違った。

彼は、崩れたビルの粉塵で汚れた自分の服を見て、眉をひそめていたのだ。

​「……埃っぽいのは、嫌いだなぁ」

​彼は戦闘になど興味がなかった。

ただ、平穏で、清潔な毎日が欲しかった。

だから彼は、ジョブリストを一番下までスクロールさせた。

誰もが見向きもしない、不人気職の掃き溜めまで。

​そして、見つけた。

​【ダンジョン清掃員】

説明:ダンジョンの環境を維持する裏方。戦闘スキルなし。成長補正なし。

選択者数:0人

​「お、これいいじゃん」

​レンは迷わずそのボタンを押した。

​『警告。このジョブは戦闘に適性がありません。推奨されません』

​「いいよ。掃除が好きだから」

​『警告。選択者が存在しないため、スキルツリーが未検証です』

​「構わないって」

​彼はシステムのアラートを無視して、【決定】を押した。

​その瞬間、システムログには、世界でたった一つの「エラー」にも似たメッセージが流れたことを、彼は知らない。

​『ピピッ……』

『個体名:カミキ・レンが【ダンジョン清掃員】を選択しました』

『初回選択特典により、ジョブレベルの上限が撤廃されます』

『選択者が一人のため、当該ジョブに関する全ての経験値リソースは、この個体に集中されます』

『スキル【清掃】が、概念干渉レベルまで進化可能です』

​こうして、世界でただ一人の「清掃員」が誕生した。

​それから十年。

人々がレベル上げや魔王討伐に明け暮れている間、彼はひたすらダンジョンでゴミを拾い、床を磨き続けた。

​誰も知らない。

彼が磨き続けた【清掃】スキルが、いつしか「汚れ」だけでなく「敵の存在」や「魔法の理」すらも「ゴミ」として処理できる領域に達してしまったことを。

​これは、たった一人で黙々と掃除をし続けた結果、うっかり世界最強になってしまった男の物語である。

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