町と少年
「こ、これが町ってものなんですか……!」
行き来する人々、立ち並んだ家。
大きいものから小さいものまで色々だ。
まっすぐに作られた一本の道の先に、普通の家5つ分くらいの大きさの建物がある。
「こう見ると、あまり変化していないように思えますね。」
「そうね…私たちがいた時の時代とそこまで変化はしていないような感じがするけど。
ほら、馬車を使っているところとかも変わってないし。」
そう言ってセルフィスさんが指差した先には、大きな動物が四角い箱?のようなものを引いている。
そしてその箱の下方部の横には、円形の何かがついている。
よく見ると回転しているため、あの円を利用して地面を滑らせている?
「ルーベルナさん、あれはなんですか?」
先ほどバシャと言われたものを指差して問いかける。
「あれは馬車と言って、前にいる動物が馬です。馬に車がついているから馬車。
後ろの……あそこに扉がありますよね。そこから中に乗り込むんです。
丸くて回転しているのが、車輪。
車輪がついているものを車と呼ぶと思っておいてくれれば十分です。」
僕の興味に答えるように、彼女は詳しく教えてくれる。
「魔法は使ってないんですね……」
魔法で効率化できるのではないかと思ったが、そこの点に関しては2人も疑問そうだった。
「私たちがいた時代では、馬に身体強化を使ったり、それ以外の部分を軽くさせたりということもありましたけど…
そういうことはしてなさそうですね。」
「もしかしたら、私たちがいた時代よりも魔法技術は低いのかもしれません。」
「まぁ、行ってみればわかることじゃない?聞き込みよ聞き込み。」
そう言って前へと歩いていくセルフィスさんの後を追って、僕たちは町に入っていく。
入り口から見えていた一直線の道以外にも、いくつもの道が枝分かれになっていることがわかる。
歩いている人たちの姿形は僕や2人の神にそっくりで、なんとなくだけど安心感を覚える。
でも……なんか視線を感じるような…?
すれ違う人たちが、みんなこっちを見ていくのだ。
というか……ルーベルナさんとセルフィスさんを見ている?
「とりあえず、泊まる場所を探しましょうか。」
すぐ近くで野菜を売っていた人のところへ行って、ルーベルナさんが声をかける。
しかし、そこの店主は首を傾げるばかりで話が通じていない。
店主が口を開いても、今度はルーベルナさんが首を傾げている。
30秒くらいのやり取りの後、何かを思いついたようにルーベルナさんは小さな魔法術式を描く。
状況から察することで、その魔法がなんなのかは理解できる。
ちょっと前まで話ができていなかった店主とルーベルナさんが話をしているからだ。
丁寧にお礼をして、彼女が布でできた袋から金貨を一枚取り出して渡そうとすると、店主は数歩距離をとってすごい勢いで首を横に振った。
体が震えていることからも、普通じゃないほど驚いていることが簡単にわかる。
それならと銀貨を取り出して渡すと、まだ少しを悩みながら店主はそれを受け取り、売られている野菜をいくつかルーベルナさんに渡してくれた。
「宿の場所を教えていただいたので行きましょう。」
ぺこりと僕も店主にお辞儀をして、また歩き出す。
「さっき作ってた魔法陣って、言葉を通じるようになる魔法ですよね?」
「その通りです。この時代の世界と私たちがいた場所では言葉が違うようですね。」
なでなでと頭に手を乗せられたに僕にチェッと言いながら、セルフィスさんは腕を組んで少し頬を膨らませていた。
「3名のお泊まりですね。ダブルベッドの1部屋でよろしいですか?」
「それでは、そこでお願いします。」
やった!できた!
さっきの魔法術式を解き明かし、僕は魔法を似せて作っていた。
「それでは、##の部屋になりますので、#階へどうぞ。」
あれ?なんか話が途切れて聞こえる………
「それは魔法術式に流し込む魔力の制御が上手くできていないからよ。」
先ほどのことをまだ気にしていたのか、セルフィスさんが少し自慢げに言う。
「やっぱり、術式を作るところはすごい上手なんだけどね……
その後の魔力の入れ方にムラがあるんだと思う。
って、私は3歳のお子ちゃまに何言ってんだろ……おかしくなってきちゃったかも。」
苦笑するセルフィスさんを見て、僕も笑う。
あ、そういえば。
「それじゃあ行きましょう。」
「何階まで上がるの?
5階くらいまでありそうだけど。」
「2階の1番奥の部屋です。メルペディアくんを抱っこしたいなら今だけは譲ってあげますよ?」
「今だけじゃなくていつでも権利があると思うんだけど。」
そんな言い合いをしている間に、魔法術式が壊れないように落ち着きながら受付の女の人に言葉をかける。
「あのぉ、なんかここに来るまでの間、2人がすごく見られてて……
なんでなんでしょうか?
ここには外からの人は来ないんですか?」
………………
受付の人は、目をぱっちりと開いて何も言わなくなってしまった。
あれ?聞こえてない?
魔法が切れちゃった!?うーん…そんなことはないけど………なんでだろ。
「うわぁ!?」
「よーっし行こっ!お姉ちゃんがちゃんと抱っこしていってあげるからね〜」
え、ちょっと待って━━━━━━
僕の心の叫びは誰にも聞こえることなく消えていってしまった………
目を丸くして口をパクパク動かしている受付の人と一緒に。
「湯加減はこれくらいでいいですか?」
水魔法と炎魔法を活用してルーベルナさんがお湯を出し、いつものように優しい声で歌いながら僕の身体を柔かい布で拭いてくれている。
いつの間にかというか、気づいた時には一緒に入っていたお風呂の時間を、今日も一緒に過ごす。
時々セルフィスさんと言い合いをして譲る時もあるけど、それは10回に1度くらい。
そう考えると健康な頻度だな………
「久しぶりにちゃんとお風呂に入れますからね。しっかり流しますよ。」
今までずっとやってきたはずなのに、最近はちょっと恥ずかしい?という気持ちが出てきている気がする。
「はい!これでオッケーです!」
「あ、ありがとうございました。」
にっこりと微笑んでいるルーベルナさんにお礼を言ってそそくさと先に出る。
いつも通りのお風呂時間だ。
それにしても………魔法が使えない人はどうやってここでお風呂に入るんだろう。
突然発生した謎を考えながら、この建物で貸し出されている衣服を着る。
素材は……いつもの服とあんまり変わらない。
不思議だなぁ。
時代は違っても素材が似ていることに疑問を持ちつつお風呂場から出ると、セルフィスさんがいない。
1階の奥にご飯を食べるところがあるらしく、先に行くと書いてある紙が置いてあった。
追いかけて先に行ってもいいけど、ルーベルナさんが出てくるまで待ったほうがいいよね。
椅子に座って、時間が過ぎるのを待つ。
また受付を通るなら、さっきの人にもう一回聞いてみようかな?と思った時。
扉がコンコンと音を立てる。
僕しかいないし、誰が来たのか見ないと。
立ち上がって扉の前まで来たところで、僕は気づく。
……………待って!?
僕って生まれてから2人以外に話ししたのさっきで初!?
これで2回目!?
さっきは魔法のことばっかり考えてたから全然意識してなかった………
え?え?どうしよう!?
話せるかな?大丈夫かな?
魔法も使わなくちゃだし!
こ、怖いよ………
えーっとえーっと……扉開けなかったら話さなくていいよね?
でも急いでることだったらどうしよう……
えぇい………開けるしかない!
「ど、どうしまひかた?」
ま、間違えたーーーー!
魔法使っちゃったから余計恥ずかしい。
「あ、はは。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。」
聞いたことがある声にゆっくり目を開いて上を見ると、そこにはさっきの受付の女の人。
「さっきはごめんなさい。
小さいお客さんが急にすごいこと言い始めたからびっくりしちゃって。」
「す、すごいこと…でしゅか?ですか?」
震えている身体からなんとか言葉を出す。
「普通、あんなこと10歳くらいの子でも気にするかどうかわからないですよ。
3歳とか4歳に見える子が言うことじゃなかったですから。」
そう言って笑い、その女の人は続ける。
「これ、宿からのプレゼントですってお母さんたちに伝えておいてください。
金貨で代金を払っていかれた上でお釣りもいらないと言われたので…せめてこれくらいは受け取ってくださいと。
それと、綺麗な方は夜にあまり出歩かないほうがいいとも伝えておいて欲しいです。」
大きめの服を二つ僕に渡して、その女の人は頭を下げて歩いていってしまった。
いつもなら魔法が失敗しなかったことに喜んでいるかもしれないけど、僕の頭の中は色々と起こりすぎて迷ってしまう。
お母さん……他の人から見たら、あの2人はお母さんに見えるのだろうか?
家族というものが温かくしてくれる人たちであるなら、2人はそれに当てはまる。
じゃあ………お母さんと呼んでみたら喜ぶかな?
いつも何かをしてもらうばかりで、僕がルーベルナさんとセルフィスさんに何かしてあげられることは少ない。
これは、もしかしたら2人を喜ばせることができるチャンスかもしれない。
そこに、
「どなたか来ました?」と言うルーベルナさんの声が聞こえる。
僕と同じような服を着ているその人に、僕は受付の女の人から聞いた話をする。
もちろん、お母さんにという話は言わない。
「綺麗な方………それは多分言う相手が違いますね。」とルーベルナさんは笑う。
でも、僕にもわかる。
他の人と話したことも関係を持ったこともないけど、ルーベルナさんもセルフィスさんも、2人ともすごく可愛い。
大人の人たちはそういう人のことを綺麗な人と言うのだろうか。
そしてもう一つ、服のこと。
いつもの服装もなんて言うんだろう………
この町を歩いていた人や受付の人に比べるとちょっと腕とか脚とかが見えるというか……
薄い布の服1枚を上手に着ているだけだから、僕のとはちょっと違う。
僕の服はお父さんが小さかった頃に着ていたものを参考に作ってくれたと言っていた。
人間と神では考えが違うからあれなんだろうけど、うーん。
「と、とにかく。
せっかく服をもらったので明日からはこれを着ましょう!ね!」
ルーベルナさんの目を見て言うと、彼女はふふっと笑って僕の頭を撫でた。
「お気遣いありがとうございます。明日からこの服で過ごしますね。」
その一言になぜかほっとして、僕はルーベルナさんに抱き上げられてご飯に行くことになった。
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