第8話 風邪にはお気をつけて2

中毒疹ーーそれも、皮疹の形から、一般的な紅斑丘疹型で良さそうだ。


「中毒疹?」


それを聞いた周りの人は、不思議そうな顔をした。


「ーーということは、何かの毒なのですか⁈」


私は慌てて否定する。

名前の割には、害が少ない病気なのだ。


「ああいや、そういう名前というだけです。

原因は風邪に限りませんが、何かしらの物質──この場合は、風邪のウイルスですわね。

それが体内に入って、免疫反応を起こすことで、身体に発疹ができる病気です」


あまり広く知られてはいないが、意外とよく起こる病気だ。

風邪が治りかけの時に、起こることが多い。


「目や口などの粘膜症状が出ると、重症として入院が必要な場合もありますが──今回は、それもありません。

また、Nikolsky現象というのですが、皮膚をこすると剥がれてくるような徴候もありませんでした。

よって、普通の中毒疹でこざいます!」


「何を言ってるのか、さっぱりわからないんだけど……」


確かに、ウイルスや免疫なんて言葉は、この世界にはない。

しかし、そうすると何とも、説明が難しいものだ。


「とにかく、ご心配はいりませんわ。待っていれば、自然に軽快いたします」


「それは良かったですわ」


トビーの母親は微笑むが、当の本人は浮かない顔だ。


「でも、このつらい痒みにずっと耐えなきゃいけないの?」


私はにやりと笑って、作ってきたものを差し出した。


「そこで、この薬の出番ですわっ!」


小瓶の中にちゃぷんと揺れる、茶色い液体。


「この薬を、毎日塗ってくださいまし。赤い発疹が茶色く枯れてきたら、やめて構いません」


「えっと……それは、何の薬なんですか?」


こわごわと聞くトビーに、胸を張って答える。


柴胡さいこでございますわっ!」

「サイコ……⁈」


西洋の彼らには、聞きなれない名前だろう。

それもそのはず、これは漢方薬なのだ。


「はい、セリ科の根を乾燥させたものです。漢方──東の国の医療では、抗炎症作用があり、湿疹などに効くといわれています」


もちろん、現代医療としてはあの薬──外用ステロイドが一番に選ばれるが、無いので漢方で代用だ。


「なるほど……つまり、この症状を抑えてくれるんだね」

「ええ、そうだと思います」


実際に柴胡の外用薬は、現代日本には無いのだが、内服薬としては流通してきるので、多分肌に塗っても大丈夫だろう。


「もし治りが悪ければ、連絡をくださいまし。基本的な冷却などは、お忘れなく。では、私はこれで」


「ありがとうございます!」


私はトビーの家を出た。


数日後、皮疹はすっかり良くなったという連絡が来て、私はガッツポーズをした。


医者としての信頼を積み上げていかねば。

そう決意を新たにし、一層薬草採集に励むことにした。

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