第2話 猫と魔法少女

「眼鏡……?」

そこには、映画館でかけるような眼鏡が入っていた。

どういうことだろう。

私は眼なんて悪くないのに。

もう一度宛名を確かめるが、私宛で間違いないようだ。


しかし、有り余る時間があるのだから、このような偶然もたまにはあった方が良いのかもしれない。

私は眼鏡をかけてみた。

特に、何も起こらない。

何か視界が変わるということすらない。

なんだいたずらか、と思い、眼鏡を外そうとした、その時だった。


コンコン。

何かを叩くような音がした。

ドアを再度そっと開けるが、誰もいない。

コンコン。

また、音がする。

音の方向を振り向くとーー

そこには、窓に貼りついた猫がいた。いや、正確に言えば、猫のようなもの、だ。

「どうして、こんなところに猫が……」

こんなことはあり得ない。

だってここは、高層マンションの20階なのだから。

猫がここまで登ってこられるはずがないのだ。

しかし、この尖った耳に大きな瞳。

猫じゃないとしたら、何だというのだろう。


猫のようなものは、再度窓を叩いた。

よく見ると、昔飼っていたミルクという猫に似ている。

白い身体、背中に特徴的な茶色のハート模様。間違いなくミルクの特徴だ。

「ミルク、なの……?」

しかし、ミルクは3年前に死んだはずだ。この世にいるわけがない。

だが目の前の猫のようなものは、声が聞こえるかのように頷く。


そうか、もしかして、私はもう死ぬのかもしれない。

あまりにこの世に希望が持てないから、ミルクが迎えにきてくれたのかも。


それも悪くないな、と思って窓をガラリと開けるとーーそれは、ひらりと室内に飛び込んできた。

あろうことか、2本の後ろ足で立ち上がり、高い機械音で、こんなことを言ったのだ。

「楓ちゃん、僕と一緒に魔法少女になってよ!」

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