恋愛偏差値0の俺が、クラスの美少女に告白するまでの100日間

コテット

第1話「決意の日 ―あと100日―」

春の陽射しが、教室の窓から差し込んでいる。

高校2年生になって、三日目。

俺――水瀬陽太は、自分の席で小さくため息をついた。

「……変わらないな」

周りを見渡すと、クラスメイトたちが楽しそうに話している。

女子たちは、春休みの思い出を語り合っている。

男子たちは、新しいゲームの話で盛り上がっている。

そして、俺は――その輪に入れず、一人で窓の外を眺めていた。

「……このままでいいのか?」

高校生活も、もう半分が過ぎた。

このまま何もせず、卒業するのか。

何も思い出を作らず、ただ時間だけが過ぎていくのか。

「……嫌だ」

俺は小さく呟いた。


その時、教室の扉が開いた。

「おはよう」

柔らかい声。

俺は思わず、そちらを見た。

――桐谷美月。

クラスの清楚系美少女。

肩まで伸びた黒髪、整った顔立ち、上品な雰囲気。

クラスでも目立つ存在。

彼女は、いつものように穏やかな笑顔で、友達に挨拶をしていた。

「……」

俺は、彼女を見つめた。

(……綺麗だな)

そう思った瞬間、彼女と目が合った。

「――っ!?」

俺は慌てて視線を逸らした。

心臓が、バクバクと音を立てている。

(……ダメだ、また目を逸らしちゃった)


俺が桐谷さんを意識し始めたのは、高校1年の夏。

文化祭の準備で、偶然彼女と同じ作業グループになった時だった。

「水瀬くん、これ持ってもらえる?」

彼女が、俺に段ボールを手渡してくれた。

その時の笑顔が――今でも忘れられない。

(……あの時から、ずっと)

ずっと、彼女のことを意識している。

でも――何もできなかった。

話しかけることもできない。

目を合わせることもできない。

ただ、遠くから見ているだけ。

「……情けない」


昼休み。

俺は一人で、購買のパンを食べていた。

「よう、陽太」

声をかけてきたのは、親友の高橋達也(たかはし・たつや)。

明るくて社交的、女子とも普通に話せるタイプ。

「おう」

「一人で飯食ってんの? また?」

「……悪いか」

「悪くないけど、もったいないぞ。せっかく高校生なんだから、もっと青春しろよ」

「……青春、か」

俺は小さく呟いた。

「なあ、達也」

「ん?」

「お前、恋愛したことある?」

「は? 急にどうした?」

「いや……ちょっと聞いてみただけ」

達也は少し考えてから、答えた。

「まあ、中学の時に一回告白したことあるけど、振られたな」

「……そうか」

「でも、後悔はしてない。ちゃんと想いを伝えたから」

「……想いを伝える、か」

俺は、桐谷さんの顔を思い浮かべた。

(……俺も、伝えたい)

でも――

(……どうやって?)


放課後。

俺は図書室に向かった。

ここなら、一人で落ち着ける。

本棚を眺めながら、適当に本を手に取る。

『恋愛心理学入門』

「……何これ」

思わず手に取っていたのは、恋愛本だった。

(……まあ、読んでみるか)

俺は、その本を借りて、図書室の隅の席に座った。


【恋愛心理学入門】

「恋愛において最も大切なのは、『行動すること』です。

どんなに想いが強くても、相手に伝えなければ意味がありません。

まずは、小さな一歩から始めましょう」

「……小さな一歩」

俺は、ページをめくった。

「ステップ1:相手の名前を呼ぶ

ステップ2:挨拶をする

ステップ3:会話をする

ステップ4:共通の話題を見つける

ステップ5:連絡先を交換する」

「……」

俺は、自分の現状を振り返った。

(ステップ1:名前を呼ぶ……できてない)

(ステップ2:挨拶……できてない)

(ステップ3:会話……できてない)

「……全部できてないじゃん」

俺は頭を抱えた。


でも――

(……このままじゃ、何も変わらない)

俺は、本を閉じた。

(……やるしかない)

そして――決意した。

「100日後に、桐谷さんに告白する」

期限を決めた。

100日あれば、少しは成長できるはず。

彼女と話せるようになって、笑顔を見られるようになって、そして――想いを伝える。

「……よし」

俺は拳を握った。


その時、図書室の扉が開いた。

「……あ」

入ってきたのは――桐谷さんだった。

彼女は、本棚を眺めながら、ゆっくりと歩いている。

(……桐谷さん、図書室に来るんだ)

俺は、彼女を見つめた。

そして――

(……今だ)

勇気を振り絞って、立ち上がった。

「……き、桐谷、さん」

声が震えている。

彼女は、俺の方を見た。

「……?」

「あ、あの……」

(何を言えばいいんだ!?)

頭の中が真っ白になる。

「……その、本……探してるの?」

「……え?」

桐谷さんは、少し驚いたように俺を見た。

「あ、はい……『星の王子さま』を探してるんですけど」

「あ、え、えっと……」

俺は慌てて本棚を見渡した。

「た、多分、あっちの……文学のコーナーに……」

「ありがとうございます」

桐谷さんは、柔らかく笑った。

「……水瀬くん、ですよね?」

「……え?」

(……俺の名前、知ってるの!?)

「去年の文化祭で、一緒に作業しましたよね」

「あ……う、うん」

「覚えててくれて、嬉しいです」

桐谷さんは、もう一度笑って、本棚の方へ歩いて行った。

「……」

俺は、その場で固まっていた。

(……話せた)

初めて、桐谷さんと会話ができた。

しかも――

(……俺のこと、覚えててくれた)

「……よし」

俺は、小さく拳を握った。

(100日後、絶対に告白する)


その日の夜。

俺は自室のノートに、大きく書いた。

【告白まで、あと100日】

そして――小さく呟いた。

「……頑張るぞ」

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