第23話 偵察
夜空に煌々と浮かぶ満月を眺める暇すらなく僕たちは森の中を歩いていた。
「うぅ…肌寒い…」
時より吹いてくる夜の冷たい潮風が体にまとわり付き、肌が次第にべとついていった。昼はあれほどカラッと暑かったのに、夜だとこうも違うのか…。
それは、これ以上この先には行くなと暗示しているようだった。
しばらく歩くと、森を抜け、遠くに岬らしきものが見えてきた。
「あそこ……明かりがついているのが見える」
レータが指差した方を見ると、何だか明かりが灯っているようにも思える。
「よし、ここから警戒して行くぞ」
ドクは、剣を鞘から抜いて、その明かりに向けて歩き出した。
その砦は岬の先端、小高い丘の上にあった。
眼下の街道と海を見渡せる場所にあり、監視には最適な立地だ。ざっと見ると、大きさは港町の広場ほどで、周りは土嚢で囲まれている。特に見張りもおらず、近づくと中からは嬌声と飲みかわす声、笑い声が聞こえてきた。
恐らく、宴会か何かをしているのだろう。
誰かに攻め込まれるということは想定していないようだった。
「レータ、危ないって…」
僕が静止するのも振り切って、レータは土嚢に近づこうとしていた。
「大丈夫。こっちは見えてやしない…」
ドクも背後を気にしながら、レータの方へと近づいていく。
その言葉を信じて、僕も土嚢の隙間から中の様子を伺った。
「何よこれ……」
レータが驚くのも無理はない。
そこには、五十人ほどの兵士と若い女性たちが、ジョッキを手に笑いあっていた。
「彼女たちが、連れて来られたという…」
僕の呟きに、ドクが頷いた。
「恐らくそうだ…」
「でも、なんで笑ってるの?」
僕の目にも異様な光景が映っていた。この砦にいた女性たちは…笑っていたのだ。誰よりも、穏やかに。
「見て…焼いたリンゴを食べている」
レータが指摘するまで、僕は気づかなかったが、確かに彼らはリンゴを齧り、そして酒を浴びるように飲んでいた。
「あの目…あの頬の紅潮…まるで、白雪の城で見た人たちと同じだ…」
ドクはすぐに白雪が生みだしたリンゴの影響だと指摘した、その時だった。
「お前ら、もっと飲め!飲め!」
一人の男が立ち上がって、兵士を鼓舞したのだ。
その男は、ドクよりも大きな体躯だった。煙で焼けた皮膚に、鋲付きの皮鎧を誇らしげにまとい、まるで暴力に祝福された神のような面構えをしていたのだ。
「あいつがヨハンだ…」
そうドクが小さく呟いた瞬間、その男は大きく腕を広げて兵士たちの前に立った。
「見ろ!ここにいる全員が選ばれし者だ!」
ヨハンは怒鳴るように叫んだ。
「白雪姫様に選ばれ、力を授かり、この腐りきった国を正す権利を持つ!俺たちは浄化者だ!わかるか?救うんだよ!」
兵士たちがどよめき、沸き立つ。
ヨハンは大剣の柄を地面に打ちつけた。兵士たちは歓声を上げ、足で地面を踏み鳴らす。
この光景を見て、僕は一瞬で分かった。
この男たちから部品を取り戻すことが、如何に難しいかということを。
そして、この世界の闇が想像以上に深いということを。
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