第9話 7人の弟子

「地図に描かれているように、俺たちグリム先生の弟子は白雪を除いて7人いる」

「七人…」

ドクの言葉にレータは顔を上げ、改めて地図を広げた。

「確かに… 名前の横に数字が振ってあるわ… 七つある…」

そこには、国内のあちこちに七つの名前が点在していた。

ドクがこの山(一)、すぐ近くの港にいるグランピー(二)。

その奥の山脈にいるハッピー(三)、さらに東の山にいるスリーピー(四)。

大きな川の側にはバッシュフル(五)がおり、スニージー(六)とドーピー(七)は、首都に近いところに名前が記されていた。

彼らが、グリム先生が遺した希望なのか?

「この七人には、白雪を倒せると言われている、グリム先生が作った最新鋭の武具の部品が預けられている」

「最新の武具!?なんですか?それは」

僕は前のめりになってドクに尋ねた。もしかしたら、その「最新鋭の武具」こそが、僕たちが生き残った意味であり、今後の使命なのかもしれない。

ムサシさんが託そうとした金属片、グリム先生から渡された、この地図と設計図も何か関係があるのだろうか。

だけども、ドクの答えは予想外のものだった。

「それが…俺たちも全く聞かされていないんだ。何ていう名前なのかも、どんな武具なのかもな」

「知らされていない…じゃあ、その部品ってのはどこにあるの?」

レータの問いにも、ドクは困ったようにため息をついた。

「俺は、何も受け取っていない…その部品の話も七人全員に預けたという話も、最近になってようやくグリム先生との手紙で知らされたばかりなんだ」

「そんな…」

早くも途絶えた希望に、僕の顔は曇っていた。

「待てよ…」

何かを思い出したように、ドクは部屋の奥へ姿を消した。その行動に、僕とレータは思わず視線を交わす。

しばらくすると、ドクは手紙を持って、姿を現した。

「グリム先生の手紙に、『お前には設計図を託した』とある」

それを聞いて、僕とレータは言葉なく目配せした。

「これ…」

レータは、すぐにもう一枚の古びた紙を、ドクに渡した。グリム先生が地図と一緒に渡してくれた、あの設計図だ。

「………これを作れということか…」

ドクは紙を広げ、真剣な眼差しで見つめる。

「これって、どんなものができるんですか?」

僕は期待を込めて尋ねた。この部品を作れば、あの「最新鋭の武具」が完成するのだろうか?

「S字で…何かを挟むもの、といったところか…」

ドクは設計図を見つめながら呟いた。

「何に使うかは全く分からないな…」

「できそう?」

「ん… どうだろうか…」

矢継ぎ早に僕たちが質問を浴びせる間にも、ドクの目は設計図に釘付けだ。頭の中で、その部品の完成図をすでにイメージしているようだった。

それが何に使うものなのか、どんな武具の一部なのか、僕たちにはまだ全く分からない。

だけど、この部品が、白雪を倒すための、希望への第一歩になるのかもしれない。

「よし。わかった。お前たちも手伝え」

「へ?」

「え?」

思わぬ言葉に、僕たちは三度顔を見合わせた。

「どうせ、出来るまで何日か時間はかかる。それまでお前たちも待ってるだけじゃつまらないだろう。だから、お前たちも手伝え」

そう言うと、ドクはにかっと僕たちに微笑みかけてきた。


そこから、しばらくの間、ドクの小屋で僕とレータを住まわせてくれることになった。

改めて、ドクの小屋を見渡すと、手前が生活スペースで、奥には広い鍛冶場があった。裏口からはすぐに小さな川が流れ、その水は鍛冶場にも引き込まれている。川の下流は次第に木が生い茂り、眼下には密林が広がっていた。

その密林で、食料と武具の部品に使う鉄鉱石を調達するのが、僕とレータに命じられた仕事だった。


「孤児院の近くにあった森とは、ずいぶん雰囲気が違うな… 生えている植物まで違うみたいだ」

僕にとって、その密林はとても新鮮だった。

植物図鑑でしか見たことのないキノコや果実がそこかしこにある。

「多分、これは食べられたはず…」

自分の記憶を頼りに、僕は背負った籠の中に次々と食料を入れていった。

「アプ~!アプ!!」

向こうから僕を呼ぶレータの声がした。彼女のところへ行くと、手には巨大な動物を携えている。

「何これ?食べられるかな…?」

背にはレータが放った矢が刺さったまま、その動物は息絶えていた。

「これは…アライグマ…初めて見た…どこにいたの?」

「木に登っていたから、後ろから射ると一発だったよ」

アライグマがいるということは、この森には彼らが食べるブルーベリーやクルミ、小魚などが生息していることを意味している。やはり、ここは食物豊富な森だ。

「確か、焼いて食べると美味しいって図鑑に書いてあった」

レータが自慢げに持つアライグマを見て、僕のお腹は自然と鳴っていた。

「で、ドクが言っていた石も手に入れたよ」

レータの足元にあったのは血のように赤い石。これこそが、ドクが求めていた部品の精製に使う赤鉄鉱だった。

「さぁ持って帰ろうか」

レータは、僕が背負っている籠に、アライグマも石も入れて、躊躇なく入れてさっさと歩き出した。

「ちょっと!僕が一人で持って帰るの?」

「女性に重いものを持たせるっていうわけ?」

したり顔でレータは言いながら、先に山の方へと駆けていった。


「疲れた~」

三十分遅れでたどり着いた僕を、レータとドクの低い話し声が迎えた。

「姿勢が悪いんだよ。きっと…」

「これから、もっとアプにも仕事を振って…」

話を聞いているうちになんだか嫌な予感がしてきた。

「何?僕に仕事を振るって何を?」

僕の帰宅に気づいたレータは、妙に話を誤魔化した。

「あ、帰ってきたんだ。遅かったね」

「ほんと、大変だったよ。重い荷物を一人で持つのはさ」

嫌味を言っても、レータは何一つ堪えていないようだった。

「何を採ってきたんだ?」

ドクが籠の中を覗き込むと、その頬が綻んだ。

「いいじゃないか。この石だよ。これ。この石を…そうだな、あと百個ほど持ってきてくれれば精錬できる」

「え。まだ百個も!?」

「頼んだぞ」

バンと僕の背中を叩いたドクの手は、思った以上に痛かった。

「うん、食料もこれだけあれば2日は持つな」

籠の中の食材を確認するドクの横顔を見て、僕は孤児院でいかに恵まれた環境で育てられたかを悟った。あそこでは食料も生活用具も全て整えられていた。だけども、もはやそんなこと言っていられない。

「それと…これ飲んでみろ」

ドクはカップに入った、謎の黒い液体を差し出してきた。

「これはグリム先生の故郷で伝わる血の巡りをよくする“カンポウ”というお茶だそうだ」

「え……飲めるんですか?それ……」

「あぁ、ちょっと変わった味はするけど、体にいいんだ」

恐る恐る、僕はそのお茶を口にした。それは不思議な味で、今までに飲んだことがない味だった。だけども、体がポカポカと温まっていく。

「よし、じゃあ食事にするか…」

その日、ドクが振る舞ってくれたアライグマとキノコのスープは絶品だった。


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