第5話 バイト探し


 モブキャラである新道春樹になってから三日が過ぎた。

 その間、特に何事もなく穏やかな学校生活が送れている。

 三人のヒロイン達とも、再び接点を持つ事が出来た。

 まぁ、彼女達をもう一度攻略する事にはならないだろうけど、三人とも、もちろん大好きなキャラなので、これからも普通に仲良くしていきたい。

 それと、以前との変化を挙げるとすれば、休み時間中に、そのヒロインの一人である隣の席の宮澤によく話しかけられるようになった事がある。

 あれから宮澤も何かと忙しいらしく(Vtuberとしての活動があるためだろう)、一緒にFPSゲームであるAREXで遊ぶという約束はまだ果たされてはいないものの、彼女との仲は深まっている。


「スマホで何見てるの?」


 昼休み、隣の席に座って弁当を食べながら、宮澤が尋ねてきた。


「バイトを探してるんだ」


 先に学校に来る途中で買った惣菜パンを食べ終えた俺が、スマホの画面に目を向けたまま、その問いに答える。


「遊ぶためのお金が欲しいの?」

「まぁ、そんなところだ」


 以前主人公の周防だった頃は、ヒロイン達の攻略には何かとお金が必要だったので、必死にバイトに励んでいた。

 モブキャラの春樹となった今、その必要はないのだが、自由にできるお金は多いに越した事はない。

 月々の小遣いはもらってるわけだし、これ以上、親にお金の無心をするなんかして、余計な負担をかけたくはないもんな。


「ふ〜ん······良いバイト先がなくって困ってるんだったら、私が紹介してあげようか?」

「宮澤が?」

「うん。私の従姉が、この学校の近くで『ルーエ』っていう喫茶店を経営してるんだけど、そこで私のすすめでバイトしてた新太が、夏休みの終わり頃に突然辞めるって言い出したらしくてね。それで急に人手不足になって困ってるんだって」

「周防が?」


 確か俺が周防だった時はキッチンを任されていたからな。

 あいつ料理が出来ないからって逃げ出したんじゃないか?


「キッチンを任されて頼りにされてたみたいなのに、どうしちゃったんだろうね。まぁ、それはいいとして、で、どう? 即戦力が欲しいって事だったけど、とりあえず面接だけでも受けてみない? 時給はそんなに高くないけど、雰囲気が良くて働きやすいところだよ?」

「そうだな。そういうことなら、お願いしようかな。それで、募集しているのはキッチンなんだよな?」

「そうだね。新道君は料理の経験ってある?」

「一通りのものなら作れるぞ」


 料理なら、この『たましき』の世界に転生する前の社畜時代に、一人暮らしで毎日のように食事を作っていたから、それなりのレベルだと思う。

 それに喫茶店『ルーエ』では、周防だった時にキッチンを担当していたから、どの料理も完璧に作ることができるはずだ。


「自信ありそうだね」

「まぁな」

「うん。それなら合格間違いなしだ」

「でも、宮澤はそこでバイトしようとは思わなかったのか?」

「私? 私は、色々と忙しいから時間がとれないっていうか······それに私が料理するとダークマターが精製されちゃうから······」

「お、おう······そうか」


 ──そう言えば宮澤はメシマズキャラだったな······


「とにかく、私が連絡入れといてあげるから、今日学校が終わってからでも面接受けにいってあげてよ」


 そういう事になり、俺はその日の放課後、宮澤に住所を教えてもらった喫茶店『ルーエ』を訪れる事にした。



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