たぶん、王様と、僕

江東うゆう

第一章 クリスマスパーティーの殺人

第1話 クリスマスツリーと殺人(一)

「ブドウジュース、もう紙コップについでいいかな?」


 図書委員長・なみの声を耳にして、僕は振り返った。

 壁際の会議机には、銀色の丸盆があって、紙コップが十三個、円を描くように並べられている。真ん中にある一つを囲むように四つのコップが置かれ、さらにそのまわりを八個のコップが囲んでいる。

 司波さんは赤味がかった紫色のペットボトルの蓋をひねろうとしていた。ジュースなのだが、ワインのような色合いだ。

 彼女は長い髪を、髪色に合わせた焦茶色のゴムで緩く結んでいる。


「いいんじゃないかな。こちらはビスケットを配り終えたし」


 僕は生徒会室の真ん中にある丸テーブルの紙皿を確認しながら言う。

 だが、司波さんからアクションはなかった。何も聞こえなかったように突っ立って、他の人の返事を待っている。


「ついでもらって大丈夫です、司波先輩。こっちも飾り付け、終わりました」


 生徒会の書記で一年生のたかすぎつむぎが言った。笑顔で顔を傾けると、ボブの髪が揺れる。

 司波さんが笑顔を向け、ジュースの蓋を開ける。

 紙コップに赤紫色の液体が注がれた。

 僕は、ビスケットの袋の口を輪ゴムで閉じ、うつむいた。

 こんな雰囲気で今年の会議を締めくくるのは嫌だな、と、丸テーブルの上の小さなクリスマスツリーを見下ろした。

 ささやかながら、今日はクリスマスパーティーなのに。

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