第3話 安っぽい恋と脚本に、妹の未来は渡さない

 アリステラの愚かな商会調査が原因――

 俺はてっきり、そう思っていた。


 だが、いくつか腑に落ちない点がある。


 アルフレッドの避け方は、不自然なまでに徹底していた。

 ただ距離を置いているだけではない。


 怯え、迷い、そして罪悪感――

 それらが、態度の端々から滲んでいた。


 あの男は軟弱だ。

 だが、そこまで浅慮ではない。


 ならば、原因は別にある。

「……確認しに行くか。」


 俺は、単独で市街へと足を運んだ。

 アルフレッドは、昼間によく社交の下調べと称して出歩いている。

 行動パターンは単純だ。すぐに見つかった。


 だが――


「……ほう?」

 想定外の人物が、奴の隣にいた。


 アルフレッドが、一人の若い女を伴って歩いている。

 柔らかな光を纏ったかのような空気を持つ娘。


 市井の娘らしい、地味な衣服に身を包んでいながら――

 妙に目を引く外見。


 周囲の空気が、まるで彼女を中心に、微かに揺らいでいる。

 言葉では説明できない違和感。

 ――俺は、過去に一度だけこの感覚を覚えたことがある。

 あの冊子を開いた、あの瞬間だ。


 アルフレッドは、そんな女を連れて……どこへ向かう?


 答えは、すぐに出た。

「ヴァルドネス商会……か。」

 二人は人目を避けるように、人気の少ない裏口から商会の中へと入っていった。


「……なるほどな。」


 アリステラは確かに愚かだ。

 だが、今回に関しては――

 彼女は原因ではなかった。


 本物の火種は、

 アリステラではなく。


 アルフレッドの隣にいた、あの得体の知れない光を纏う女。

 冊子に記されていた文字が、脳裏に浮かぶ。

《ヒロイン》

《好感度+30》

《アルフレッド、彼女を庇う》


「……馬鹿げている。」


 だが。

 どれだけ馬鹿げていようとも、

 今、俺の目の前で起こっている現実は――


 確実に、冊子の記述と一致し始めている。


「まさか、こんな単純な理由で……?」


 アリステラの破滅。

 婚約破棄。

「悪役令嬢ルート」。

 その引き金が――


めす一匹で揺らぐような、安っぽい恋愛劇――!?

 アルフレッド……貴様……!」

 口にしてから、自分でも眉をひそめた。

 言葉が過ぎたか。だが、それほどまでに腹立たしい。


 俺の妹が、脚本の都合で踏み台にされる理由にはならない。

 だが、この茶番を仕組んだ「脚本家」もまた、罪は重い。


「……面白い。」

 自然と口角が吊り上がる。


「ヒロイン、か。

 ならば――その女。

 この俺が、直接確かめてやろう。」


 夜会で、全てが動く。


 アリステラの破滅イベント。

 アルフレッドの裏切り。

 そして、ヒロインの介入。


 どれ一つとして、俺は容認するつもりなどない。


「脚本通りに進むと思うなよ。」

 俺は静かに、市街の雑踏を後にした。


 この物語は、俺の手で書き換える。

 そう決めた瞬間だった。

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