不安な夜に(気持ちだけ)寄り添う
何かに集中していたくて午前中はずっとエッセイを書いていた。そう言う時は他には何も気にならない。仕事をしている時も同じだ。何か憂いている事がある時は別なことに集中するに限る。
月曜日は何かと片付けなければならない仕事が多いので、夕方からパソコンの前に座っていた。合間に夕食の支度をして、両親と一緒に食べた後また仕事に戻る。そういう生活をもう一月近くしている。
私が夕食後に仕事に戻ると彼は残業中だった。彼は今日は一日自宅から仕事をしていたので、珍しくメッセージを頻繁にくれた。久しぶりに飼い猫の写真も見せてくれた。相変わらず可愛い。私は彼の退勤時間には出来るだけお疲れ様と言ってあげるようにしている。だから今日もそうした所、残業だという返事が来た。なる程、本当に忙しい時に来てしまったのだと、改めて思った。
夜の11時過ぎにそろそろ仕事を終えようかと思った時、大きくはないがかなり長い間揺れた。階下で父がニュースを見ていたので、その内容が二階にいる私にも聞こえた。アナウンサーの声がだんだん逼迫したものになって、この地震が大きなものの余波である事に気付いた。
情けない話だが、私は日本人であっても日本から離れて久しいので、地震に慣れていない。震度2くらいの地震でも二階にいると揺れを感じやすいのか、怖くてその度にLINEにメッセージを入れる。そして彼は地震と雷の時にはすぐさま返信してくれる。今夜も同じだった。私は雷はそれ程怖いと思わないし、むしろ綺麗だと思うが、そういう時にも必ずLINEにメッセージを入れるので、一種の習慣になったのかもしれない。地震は本気で怖いと思っている。
今日の地震は何だか嫌な感じだった。長い間カタカタと揺れ続けたので、いつもの小さい地震とは少し違うと感じた。私が動揺が治まらないと言うような事を言うと、彼は本気で心配してくれているようだった。ニュースを見ていると余計に不安が増すが、大切な情報なので父としばらく一緒に見ていた。余震は来ないようなので、二階の寝室からあちらの家族に大丈夫だと伝えた。同僚たちも心配していると思ったので、一言メールを打っておいた。
仕事を終えて、またLINEにメッセージを書いた。私は何だかすぐには眠れそうにないので、彼は眠れそうかと訊いてみた。彼の方は大丈夫だと答えてから私は大丈夫なのかとまた心配してくれている。そんな風に気にかけてもらえたのは、正直とても嬉しかった。どういう形でもこうして誰かと気持ちが繋がっているというのは何だか心強い。
喧嘩をしたわけでもないのに振り出しに戻ったというのは大袈裟だが、またやり直したいという気持ちになったのは確かだ。とにかく一旦帰って仕切り直しをしようと思った。
もちろんこれから大地震が起きて日本からしばらく出られなくなるような事態にならなければ、だ。縁起でもないが、彼は少しスピリチュアルな事を信じているようなので、もしそうなれば私も少しはそのような力があるのだと信じるかもしれない。
そうならない事を願いつつ、小さな地震であればまた構ってもらえる口実になるとあざとく思ったりもする。今回時間がなかったせいで、私たちはまる一年間会えない事になる。最後に会ったのが今年の五月で、今度日本に帰ってくる予定も来年のその頃だ。
そんな無意味とも思われる関係を彼がどうして続けているのか、分かるようで分からないと思う。そしてそれが分からないから不安になるのかもしれない。前にも書いたが、お互いをよく知らないうちから深入りしすぎてしまったようだ。
半年後にまた同じ目にあったら、その時にまた考えれば良いのかもしれないと今は思える。地震のおかげで(?)少しだけ霧が晴れたような気持ちになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます