第2話 お願いと献身

 優雅にお茶をしながら話しを聞く。

 よくある話のように、王が謁見の間で見下ろしながらの理不尽な命令などは無かった。


 伝承の勇者。

 それは人知を超えた力を持ち、ひとたび怒らせれば、大陸そのものが更地になるほどの力を持つと言われている。


 だがその力は、遺伝をすることなく一代のみ。

 神が与えた世界を救う力。


 地球で言う、使徒のような扱いらしい。


「魔王が?」

「はい。こことは別にある魔大陸、其方から時折やって来ては作物を燃やし、人を攫います」


「智のある者達は、それは偵察であり、近く本格的な侵攻をこの地に及ぼすつもりだと」

「ほう。どんな奴?」

 相手をしてくれている王女様は、この国の第一王女様で、マリッカ=リーア=ヴィンクヴィストと名乗った。


 侍女が走り回り、絵を持って来た。


「これが、魔王でございます」

 絵に描かれたそれは、どう見ても鬼。


 真武の知識において、鬼は悪者。

 桃太郎よろしく、問答無用に退治する生き物である。

「判った退治しよう」



 ―― その頃。

 真武を殴った女はオロオロしていた。

 だが陣はすでに消え、その中央にいた男もふらふらと立ち上がり、困ったような不思議な様子で周りを見ている。


「お前が行っていた所はどこだ?」

 いきなりつかみかかる彼女。


「えっ? ヴィンクヴィスト王国。ここは?」

「ここは日本だ。近くにパウリーナ国は無かったか」

「日本の近くは、確か台湾とか」

「こっちじゃ無い。向こうだ。思い出せ」

 そう言うと、両肩をもたれてガクガクとシェイクされる。


 半端じゃない力。首が折れそうになる。

 だがそのおかげなのか、真武は思い出した。

「確か、第二王妃様が、元パウリーナ国第二王女だったと聞いた」

「なに? 教えろ。その王妃の名は?」

 うーんと思い出す。


「ヴァリーン=アデラ=パウリーナ?」

 その名を聞いて、一瞬だけ彼女は脳内に残る情報を検索する。

 向こうの名前は、女性の場合。母親の名前をミドルネームにする。


「ヴァリーン=アデラ? アデラと言ったのだな」

「うん」

 仲の良かったアデラ。娘が出来たと言う事は、無事だったのだな。

 彼女に残る最後の記憶。

 共に戦った仲間だけでは無く、最悪王国すらも、蹂躙をされたのだと思っていた。


「そうか、彼女は生きて…… それで魔王はどうなった?」

「殺した」

 彼は、力なく答える。

 今となっては、彼の意識を変えたトラウマ。


「そうか。よくやった。そうだな御茶に行こう。私は現世うつよ 未希みき。君は?」

四方しほう真武まなぶ

「そうか、良い事を聞いた」

 そう言って、ご機嫌に成った女に捕まり、真武はファミレスへと引きずられて行った。

 重大な秘密を隠し、言えぬまま。




 ―― 真武は、姫から話しを聞き、鬼退治のために努力をする。

 せめて桃太郎クラスに強くならなければ……

 桃太郎ってどのくらい強かったんだろうか?

 ものすごく気になる。


 絵本だと、鬼を泣かせていた。


「まあ強くなって、なりすぎは無いだろう」

 飯はあまり美味くないのだが、姫様達の献身により、彼は上機嫌で特訓を受ける。



 その頃、魔王は異様な時空揺らぎを感知して、斥候を放っていた。

 人間どもが使う召喚。


 使う魔法陣によって、凶悪な物が呼ばれる可能性がある。


 大体は、人の力に少し力が乗ったくらい。

 言わば、人がライスだとすれば、親子丼を基準に、増えても牛丼とかカツ丼。

 その特性は変わる。


 それがたまに、おかしなことが起こる。

 肉だくとつゆだく牛丼、それに生卵のせがプラスされ、さらに味噌汁とサラダ付きセットの様な規格外な奴がやって来る。


 魔法適正プラス、体力。それに加えて精霊の加護とか、知識チート。


 そう魔王が危惧する相手、それは真武のことだ。


 彼は特殊な魔法陣で呼ばれて、全部が増し増しだった。

 これにより星の寿命が、五十億年ほど短くなった様だが、誰もその事は知らない。


 これは神のミス。

 人類などが知り得てはいけない禁呪集を、拠点にしていたダンジョンの奥地に、つい置き忘れていた。


 ダンジョンは、神が生物創造の実験拠点にしていた場所。

 まだ実験用の魔道具が動いていて、モンスターが湧き出している。

 各階層は、色々なテストモデルである。


 人類は長い年月を掛けて、踏破する者が現れた。

 そして、神が残した禁書となるレベルの情報を、持ち帰ってきてしまった。


 当然だが、彼等はそれを使ってしまった。



「うふっ。真武さま。お疲れ様です」

 美女達に囲まれて、彼はご機嫌だった。


 この世界では、少子化などはなく、税収も硬調だそうだ。

 数年前から始めた生糸生産や木綿の生産も好調で、国外への輸出も順調だということ。


 懸念点は、魔王の侵攻のみだそうだ。

 だが、詳細な情報がない町中で、民達は恐怖から逃れるために、王都でさえ中央部を離れれば、魔窟と呼ばれそうなほどの退廃した様子を見せ、人々は疲れ切っていた。

 人は弱く、何かに頼る。

 その辺りに生えている毒性のある草花を燻し、吸引して恐怖から逃れようとする。



「真武さま。お疲れ様でした。お湯をお持ちいたしました」

 城と言っても上水設備などは無いために井戸からの組み上げ。当然の様に大量に水を使う浴場は無く、お湯を湧かして桶で体を拭く。


 本来は侍女達の仕事なのだが、なぜか第一王女であるマリッカが世話を焼きに来る。


 王国にも、比較的黒髪黒目などはいるのだが、平たい顔はあっさりとしていて、好みに合ったこと。

 それと、姫と知りながら、なれなれしく対応をする態度が新鮮で、彼女は興味を持った。

 無論現れたときに、いきなり御茶を飲もうと誘うのも、貴族的には、まあ優雅なお方なのねと好意的に取られた。


 そんな周りには絶対居ない人物。

 姫が興味を持ち、政策上のコマという身分から解放してくれる人として、彼は目を付けられた。

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