――第8章・高まる賭け――

トモコはニシの頭めがけて蹴りを放った。

 だがニシはあっさりと身を沈め、その勢いを利用して腹に拳を突き入れる。


「うわ、そこまでして負けたいわけ?」


「フッ。今のは“基礎ムーブ”にすぎない……ここからが本番だ。スピニング・バックキック!」


 トモコはくるりと一回転し、顔面めがけて後ろ回し蹴りを繰り出す。

 しかしニシはそれもひらりとかわし、その足首を掴むと、そのまま地面に叩きつけた。


「もう終わり? てか何で技名いちいち叫んでんの、映画のアクションヒーロー?」


「地獄のフィスト・オブ・ヘル!」


 右ストレートがニシの顎を狙う。

 ニシはそれを受け止め、トモコの拳ごと自分の顔面にぶつけた。


「ぎゃっ!」


 彼女はくすくす笑いながら言う。


「面白。あんた、かなりおバカでしょ?」


「今、俺の失敗を笑ったな……その油断こそ、“スリー・バイ・シックスコンボ”の隙だ!」


 トモコは跳びかかる。

 ハイキック、ローキック、ボディへの蹴り。

 そこから右ジャブ、左ジャブ、アッパー――


「はいはい」


 ニシはその胸を押し返し、トモコを十メートルほど吹き飛ばした。


「おい! 今ので“スリー・バイ・シックスコンボ”が中断されたぞ! こうなったら奥義を出すしか――!」


「思い出した。あんた、去年も一昨年も、その前もいたわよね? ずっと落ち続けてる人間。よく飽きないわね」


「俺は人間だが、この一撃だけは魂の奥底から来る……必殺技、《スタン&カウンター》!」


 ニシは声を上げて笑った。


「は? 何それ」


 トモコは走り出す。

 またバカみたいな突進――かと思いきや、直前で低く潜り込み、そのままニシの太ももに噛みついた。


「いだっ……なにすんのよアンタ!?」


「今だ、カウンターの時間だ!」


 噛みつきながら顔を上げ、満面の笑みでキメにかかる。


「やあベイビー。調子はどうだい?」


「……は?」


 観客全員が、同じ顔で固まった。

 寡黙なアトムも、感情を表に出さないアカリも、いつも無表情なツグミですら、思わず顔をしかめる。


「さて、とどめだ!」


 ニシの目が光った。


「いい加減、ブチ切れてもいいわけね」


 トモコがピョンピョンと跳ね始める。

 その動きを追えないほど小刻みに跳んだあと――ニシの背中に飛び乗った。


「おりろ変態ガキ!」


 ニシが怒鳴る。

 トモコは懐から何かを取り出した。


「奥義その二、《ダウン&ダーティ》!」


 彼は掴んでいた砂を、ニシの顔めがけてぶちまけた。


「ちょっ、目ッ……! はぁ? マジでやったなコラ」


「視界を奪った! これで勝利は俺の――」


 ニシの全身から、白い渦巻きが立ち上る。


「――動けなくしてから、じっくり殴り飛ばしてやるわ」


 瞬きする間に、トモコの腕がビタリと固まった。

 両腕が宙に固定され、ピクリとも動かない。


「おおっ!? どうやら私は拘束されてしまったようだ!」


「そうよ、そのまま一生そこにいなさい、このバカ」


 ニシは勢いよく蹴りを放ち、トモコはリングの端近くまで吹き飛ばされる。


「さてと。今度こそ終わり」


 彼の目の前まで瞬時に詰め寄り、場外へ蹴り落とす体勢に入る。


「ところで、この麻痺ってどれくらい続くんだろうな?」


「知るか。心配しなくていいから、さっさとリングから消え――」


「じゃあ、今がその“切り替わり”タイムだと信じよう!」


 ニシが蹴りを放った、その瞬間。


 トモコの体が、ふっと自由になった。


 彼はニシの足を掴み、そのまま一緒に転がる。


「必殺奥義、《ドラッグ&テイクダウン》!!」


 ニシが先にマットへ叩きつけられ、そのすぐ横にトモコの体が落ちる。


「よしっ、倒した!」


 トモコが両手を上げて喜ぶ中、ジュカイが半分呆れた声で叫んだ。


『ま、まさかの番狂わせ……勝者、タカモト・トモコ!』


「やったあああああ! イエスッ! YES! 長い修行の日々は無駄じゃなかった!」


「はあああああ!?!?」


 ニシが跳ね起き、トモコをボコボコ蹴り始める。


「納得いかない! やり直し! もう一回よこのクソガキ!!」


「いたっ、痛い! さすが強者、その蹴り、鋭い! でも勝ったのは俺だ――いっだだだ!」


 ニシが本気で暴れ始めたので、ガードたちが慌てて飛び込んだ。


「落ち着いてください、ニシヤマさん! 席に戻ってください!」


「ニシって呼べって言ってんのよ! もう一回! もう一回やらせなさいっての!」


 引きずられていくニシを横目に、トモコは勝ち誇った顔で自分の席へ戻っていく。


「やりました、友よ! あなたたちの犠牲は無駄ではなかった!」


 どこで手に入れたのか、また銀色のリンゴをしゃくしゃくかじりながら腰を下ろす。


 そこでようやく、フジイがマイクを取った。


「ふむ……これは予想外だな。人間が試合に勝ったのは、何十年ぶりだろうか」


 本来なら歓声が上がってもおかしくないが、飛び交うのはひそひそ声ばかりだ。


「ニシヤマが遊びすぎたんだよ。なんで人間なんかに負けてんのよ」


「しかも、あのタイプの人間に、ね」


「まあいいでしょ。あいつが次のラウンドに残れるとは思えないし。もうトリックも割れたわけだし」


 審査員席でも、意見が割れていた。


「でも、あの子、ちゃんと“勝った”よね?」ヒメカが言い、トモコに向かって手を振る。


 トモコは満面の笑みで彼女を指差した。


「次はあなたが相手だ! 覚悟しておくといい!」


「うん、すっごい自信だけはあるね」


 シンジイは鼻を鳴らす。


「あんなもん、小細工だ。トリックで勝っても俺は認めねえ……が、勝ちは勝ちだ。そこだけは文句ねえ」


 トオルは冷え切った視線でトモコを見下ろす。


「ヴォルティアンが人間に負けるとは、嘆かわしい。勝てる人間は一人でいい。その“一人”の時代は、もうとっくに終わったはずだがね」


 ナカダはニシの方に視線を向けた。

 彼女はまだヒカリとカズエに押さえられ、トモコに飛びかかろうとしている。


「負けん気は強い。能力も悪くない。……ただ、頭がちょっと」


 ナイトウは目を閉じたまま、何も言わない。


 フジイは小さく息をつき、マイクに向かって言う。


「ここで一旦、広告を挟もう。次の試合の準備だ」


「はいはーい!」


 ジュカイもマイクを握り直す。


『視聴者の皆さん、このあともお楽しみに! CM明けは――ルカ vs カズエ! チャンネルはそのまま!』


 ルカは腕立て伏せのラスト一回を終えると、立ち上がる。


「……ようやく、出番か」


 カズエはまだニシを押さえている途中だった。


「はぁ……よりによってターザンだなんて。最悪」


「離せって言ってんでしょーが!」


 ヒカリは片腕でニシを引き留めながら、空いた方の手でカズエの肩をぽんぽんと叩いた。


「大丈夫大丈夫、カズエならやれるって」


「できればそうであってほしいわね……」


 アカリは静かにトーナメント表を見つめている。


「アトムとテツヤ、その勝者が次の相手……ふうん。楽しみ」


 対照的に、ツグミはあからさまにため息をついた。


「どう考えてもボロ負けするのよ、あいつ。何回言っても帰らないし」


「自分の弟にそこまで言う?」とアカリ。


「事実よ。あなたはお兄様を信じてるの?」


「強いのは認めるわ。でも、もっと強いのは私」


「……そういうところ、似てるのかもね」


 遠くを見ながら、ツグミはぼそっと呟く。


「まあ、うちのバカ弟に、いい薬にはなるでしょうね」


 そのころ、当の二人は別の場所で話し込んでいた。


 アトムは、テツヤの肩に手を置き、視線で姉たちを示す。


「見ろよ。お前の姉は、お前を見くびっている。うちの妹は、自分を過大評価している」


「……っ」


「だからこそ、俺たちの戦いで証明する。俺は全力を出す。だからお前も、出し惜しみはするな」


 テツヤは拳を握りしめた。


「当然だ!」


 アトムは視線をアカリに戻す。


(生まれながらに与えられた“あの力”。それは偉業のための力でもあるが……傲慢の温床にもなる。兄として、そこだけは叩き直さねばならない)


 休憩時間の間、係の兵士たちが水を配って回る。

 ……が、トモコの前だけは、足元に雑に投げられただけだった。


「おっと、これは“拾えと言う試練”ですね」


 一方、ニシの方は、ヒカリにコップを無理やり口元まで持ってこられ、なんとか飲み込んでいる。


「もう一本撃つ! あいつ遠いだけでしょ? ちょっと近づけば――」


「今日はもうやめなって。届かない距離でよかったよ、本当に」


 男子側では、ウメダが相変わらず自慢の髪をコームでとかし続けていた。


「さあ、“メガネくん”。覚悟はいい? この美しくも危険な力で、ボロボロにしてあげる」


「へえ、そう。じゃあ勝率を計算しておく」とオバラ。


「はぁ? キモ」


 そんなやり取りを余所に、ルカはじっとカズエを見つめていた。


 蛇のように鋭い目。


 その視線に気づいたカズエは、悲鳴を上げて飛び退く。


「ひっ……! 見た!? 今の目!」


 ニシが暴れようとするのをやっと抑え込んだヒカリが、肩で息をしながら言う。


「ビビらせたいだけだよ。真に受けないの」


「わかったけど……お腹空いた……。誰か食べ物持ってない?」


 アカリが無言で銀色のマンゴーを投げてよこした。


「ほい」


「プリンセス、愛してる!」


 カズエがかぶりついているうちに、休憩終了を告げるファンファーレが鳴り響く。


 ジュカイがリング中央へ戻ってきた。


『さあ、第1ラウンドも折り返し! 続いてのカードは――ルカ vs カズエ!』


 歓声が上がる中、二人の候補生がリングへ向かう。


「カズエ、がんばって!」


 ヒカリが身を乗り出し、両手で大きく手を振る。


 男子側は、ルカを値踏みするように眺めていた。

 ルカ本人は、ポケットに手を突っ込んだまま、だるそうに自分の位置に立つ。

 Tシャツから覗く体つきは、細身ながらかなり鍛えられている。


 カズエは、ぐっと息を吸って構えた。


「……全然怖くないし」


 ルカは無言でポケットに手を突っ込んだまま、何かを取り出した。


 ――生肉。


 ボロボロの生肉の塊を指で弄び始め、観客席から一斉に悲鳴が上がる。


「きもっ!」


「うわっ、最悪!」


「躾ってものを知らないのかしら。人間そのものじゃん」


「ウメダの言う通りだわ。完全に“汚い”側の生き物」


 ウメダ本人も、あからさまに顔を背けた。


「見てるだけで不愉快。ああいうのが一番無理」


 ルカはそんな声を一つ残らず聞いていながら、表情を変えない。

 生肉をぽいと口に放り込み、またポケットに手を戻す。


 ジュカイは露骨に引いた顔で叫んだ。


『……えーと。両者、準備はいいか? ファイト!』


 カズエは指で銃の形を作り、軽く狙いを定める。


「まずは足元から、っと」


 白い光が弾け、彼女の指先からガム弾が発射された。

 それはルカの足元で一気に広がり、足をベッタリと床に貼り付ける。


 動きが止まったところへ、今度はキャンディーの棒を作り出す。


「キャンディ・ボム!」


 ぴょいと投げたそれは、ルカの顔面の前で――ドカンと弾けた。


「ナイス、カズエ!」


 ヒカリが立ち上がって叫ぶ。


 ルカは目をこすり、ガムから足を引きはがそうとする。

 しばらく試みて、うまくいかないと悟ると、大きくため息をついた。


 審査員たちは、その一つ一つを見逃さない。


「へえ。能力は悪くないじゃない」ナカダが言う。


「おおっ、いいぞ! こういうのを見たかったんだ!」シンジイがテーブルに乗り出した。


 他の将軍たちも、無言で戦況を見つめている。


 ルカは足元に目を落とし、次にカズエを見た。

 彼女はジンジャーブレッドでできた巨大ハンマーを具現化しながら突っ込んでくる。


「これ食らって寝ときなさい!」


「悪いな、カズエ」


「え?」


 次の瞬間、ルカの手には巨大な斧が握られていた。


 その斧で、自分の膝から下を一気に切り落とす。


「うわああああ!?」


 足だけがガムの上に残り、ルカの上半身がぐらりと崩れ落ちる。

 そのまま静止した――かと思えば、切断面から肉と骨がうねり出し、あっという間に新しい足が再生した。


 ルカは軽く地面を蹴り、ふわりと立ち上がる。


「これで動ける」


「ちょっと待って。再生した……? はあ!?」


 カズエは慌ててハンマーを投げつける。

 だがルカは軽く横に跳んで避けると、斧一本で間合いを詰めてくる。


 カズエは両手からキャンディケインの双剣を作り出し、斧と激しく打ち合った。


「スイーツ・デュエル、開幕!」


 ルカは剣戟を受け流しながら、一瞬の隙を突いてバク転で後ろに下がる。

 その勢いのまま斧を投げつける。


「させない!」


 カズエはクッキーの盾を作り出し、斧を弾いた。


「ナイス能力だな」


「知ってるわ! じゃあ今度は……これ、食べて」


 彼女は黒いゼリービーンズを何十個も生成し、ルカめがけて投げつける。


 ルカが斧で防ごうとした瞬間、黒い粒が一斉に爆ぜた。


 衝撃で斧が弾き飛ばされる。

 ルカはとっさに別の斧を呼び出して地面に突き立て、その柄を掴んで吹き飛ばされるのを耐えた。


「危なかった。今のは本気でやばい」


 カズエは息を切らしながらも、ドヤ顔を決める。


「でしょー? あたし、やればできる子なんだから」


 ルカは斧を床に置いた。


「そろそろ、こっちも本気でいく」


 四つん這いになった瞬間、彼の体が変わり始める。


 皮膚に毛が生え、歯は鋭く尖り、脚は獣の脚に変形。

 体が一気に小さくなり――


 そこにいたのは、鋭い目つきの狼だった。


「はぁ!? ちょ、オオカミ!?」


 狼のルカが、地を裂く勢いで突進する。


 カズエは慌ててブラックリコリスを生成し、ルカの体に巻きつけて拘束した。


「ふふん、スイーツ・バインド!」


 だが、ルカは噛みちぎった。


「え、食べたの!? いやいやいや!」


 カズエは急いで巨大な板チョコを呼び出し、壁のように目の前に立てる。

 ルカはそのチョコの壁に激突する――が、すぐに跳び越えてくる。


「しつこいわね!」


 カズエはクッキー盾を大量に投げつけ、なんとか距離を取る。


「カズエ、攻め続けて!」


 ヒカリの声が飛ぶ。


「攻めてんのよ! こいつがしぶとすぎるの!」


 カズエは綿菓子を大量に発生させ、ルカをふわふわの繭の中に閉じ込める。


「ふぅ……ちょっとは考えさせて。えーっと、こうして、こうして――よし、これ!」


 彼女は巨大なガムボール――否、鉄球サイズの“ジョウブレイカー”を生み出した。


「これで、場外ホームラン!」


 ルカが綿菓子を食い破っているタイミングを見計らい、

 綿菓子の塊ごと、ルカめがけてジョウブレイカーを発射する。


 直撃。


 そのままルカはリングの端まで押し込まれ、あと一歩で場外に出されそうになる。


「よし、このまま――!」


 しかし――ルカの体がまたもやうねり始めた。


 狼の姿から、一気に巨大なゴリラの姿へと変貌する。


 巨体になったルカは、両腕でジョウブレイカーを押し返した。


「――悪い」


「え?」


 ジョウブレイカーは今度はカズエ側へ飛び返される。

 あまりの速度に、彼女は防御を間に合わせることができなかった。


 直撃。


 そのままカズエは吹き飛び、無様に場外へ叩きつけられる。


『勝者――ルカ・モリ!』


「くっそぉぉぉ……!」


 カズエは地面を拳で叩き、奥歯を噛みしめる。


 アカリとヒカリが、急いで駆け寄った。


「大丈夫?」


「悔しい……!」


「相手、ゴリラになってたからね? あれはずるいわよ」


「そう、あいつは“あっち側”の一人だし」とヒカリが小声で続ける。


「アカリやあんたや、さっきの変な人間みたいな“特別枠”じゃない私は、やっぱ弱いんだよ……」


 カズエが肩を落として戻ろうとすると、アカリが背中に声をかけた。


「心配しなくていいわ。もし次、あいつと当たったら、私が勝つから」


「……それ、今言う?」


 観客席からも、同情とも茶化しともつかない声が上がる。


「かわいそうに。また来年頑張れ」


「でもよく粘った方じゃない? 相手、あの“力”持ちなんでしょ」


「何に化けるかわからない分、ルカの方がやりづらいよな」


 カズエは自分の席に戻り、ルカは男子の列へと歩いて行く。


 男子たちはみな親指を立てて出迎えたが、誰も一歩以上は近寄らない。


「ナイスファイト、ルカ。あの食べ物攻撃、正直だいぶウザかったろ?」カイが笑う。


 ウメダは鼻を鳴らした。


「勝ち方はともかくとして、見た目が最悪。俺とメガネの試合を見てなさい。これぞ“優雅なバトル”ってやつを見せてあげる」


「はいはい、方程式は裏切らないからね」とオバラ。


 テツヤは、トーナメント表を見つめていた。


「次、俺の番か」


 隣でアトムが、彼の肩をぐっと掴む。


「そうだ。全力で来い」


「もちろん!」


 アラタは自分の名前と、次の対戦相手――ルカの名前を見て、薄く笑う。


(2回戦であいつか。せめて、“あの孫”よりは楽しませてくれよ)


 大きく腕と脚を伸ばしてストレッチするたびに、周りのカイやウメダやオバラの顔や頭にバシバシ当たる。


「おい、狭いんだから自重しろ!」


「筋肉アピールはリングでやりなさいよ」


 女子側では、ツグミがまだ弟を睨みつけている。


「まだ居座ってるし……。負けたあと、あの調子じゃ絶対引きずって帰ることになる」


 アカリも、自分の兄をちらりと見るが、アトムは視線を合わせようともしない。


「ふうん」


 カズエは膝を抱え込み、膝の中に顔を埋めていた。

 ヒカリは片腕でカズエを慰め、もう片方の腕で暴れようとするニシを止め続ける。


「まだやる気なんだ……」


 審査員席では、また評定が始まっていた。


「いい勝負だったわね。二人とも、伸びしろは十分」ナカダが言う。


「今のが一番好きだな!」とシンジイ。


 ヒメカは、項垂れるカズエを見て眉を寄せた。


「カズエ落ち込んでる……誰か、隊にスカウトしてあげればいいのに。慰め枠的な意味で」


「ここは慈善事業の場じゃない」トオルが冷たく言う。


「我々が選ぶのは、あくまで“最強”だ。哀れだから拾う、なんて真似は不要」


 フジイは、闘技場を見渡しながらポップコーンをつまむ。


「ラウンドを重ねるごとに、試合の密度が増していくな。次は――重量級だ」


「本気で言ってるの? テツヤがアトムに対抗できると?」とナカダ。


「さあな。やってみなければわからない」


 隣のヒメカが、いつの間にか同じポップコーンに手を突っ込んでいた。


「わーい! ありがと、ケンシさん! お腹ぺこぺこだったんだよね!」


「俺のだが?」


「将軍は器の大きさも大事なんだよ?」


 ジュカイがリング中央へ戻ってくる。


『第1ラウンドもいよいよ佳境! 次のカードは――アトム vs テツヤ!』


 アトムとテツヤが、それぞれのコーナーへ歩いていき、軽く会釈を交わす。


「準備はいいな?」


「手加減なしで!」


『レディ……ファイト!』


——

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