試刀館学院・試験試練 二話

口の中を洗浄した後、衣服を脱ぎ捨てる少女。

衣服には自らの体液で濡れていた、衣服の下はサラシを巻いていて、胸を強制的に潰していた。


「はひゃ……さらしも濡れてる……」


気色悪そうに、彼女はサラシを解いた。

それに対して驚いたのは近くに居た千金楽燈心だった。

まだ、サラシを巻いているのならば、裸とは言い難い。

しかし、サラシを解いた状態だと、其処から先は裸だ。

流石に直視する事は出来ず、千金楽燈心は視線を逸らす。


「あ……大丈夫ですよ、見られても恥ずかしくは無いので」


余裕があるのか、あるいは、恩人に対して好感触であるのか、彼女はそう言って彼を否定する様な事は言わなかった。


「だからと言って、見ても良いと言う事にはならないよ、俺は離れているから、その隙に着替えたら良い」


千金楽燈心は自らが来ていた上着を脱いだ。

今回の試験会場では、服装は運動が出来る衣服が好ましいと記載されていた。

なので、千金楽燈心は伸縮性のある運動服に着替えていた。

上着を彼女に渡すと、その上から彼女は羽織った。


「よいしょ……ありゃ、きつ、い」


(……きつい?)


千金楽燈心は疑問を覚えた。

彼の運動服は当然、男性用の衣服だ。

ならば、その大きさも男性用に基準が定められている。

並の女性ならば、丈が長く、袖も腕まくりをする程の大きさだろう。

なのに、きつい、と言う単語が出て来たと言う事は、即ち。


「あ、ありがとうございます、えぇと」


その言葉で、千金楽燈心は彼女が着替え終わった事を悟った。

振り向き、彼女の顔を見るのだが、それよりも先に視線が彼女の胸に向かった。


(……成程、キツイか)


彼女の胸は豊満であった。

彼の上着では抑え切れぬ程の大きさ、丸みを帯びた胸をしている。

呼吸をする度に胸が動く、少し、窮屈そうに見えるのも確かだろう。


「中々、良い素材ですね、動いても、密着するので、あんまり痛く無いですし」


思い切り彼女は飛んだ。

何度も何度も跳ね続ける、胸が上下に揺れて、千金楽燈心は視線に困った。


「わ、分かった、取り合えず、それは貸しておく、と言うか、やるよ」


要らなかったら、捨てておいてくれ、と付け加えて踵を返した。

すると、彼女は彼の歩みを止める様に話し掛ける。


「あ、お名前聞いてないです、なんて言うんですか?」


名乗る者の程でも無い。

そう思ったが、それは流石に格好付け過ぎかと、千金楽燈心は思った。

なので、正直に自分の名前を口にする事に決めた。


千金楽ちぎら燈心あかし、千と金と楽でちぎら、あかしはあかりこころと書いて、アカシ」


成程、と彼女は頷いた。

ぶつぶつと、声に出して彼の名前の呼び方を覚える。


「千円の御金で楽しもう、どうだ燈るくなっただろう、心なしか……で千金楽ちぎら燈心あかし、ですか」


嫌な覚え方だと、千金楽燈心は思った。

だが、まあ、直ぐにどうでも良く感じた。

もしも彼女とまた出会う時が来れば、その時はまた、彼女の覚え方について言及でもしよう。

だが、試験では、千人を超える受験者が居る、その中で、合格出来るのは僅か三十名。

この狭き門の先に、彼女が居るとは考え難い事であったが。


「あたしの名前、白檮山かしやま雪月花せっかって言うんです、覚えてくれますか?」


彼女の言葉に、千金楽燈心は名前の漢字を脳内で羅列する。


「お前の方は……雪山を連想させる様な名前だな?」


千金楽燈心の言葉に、白檮山雪月花は真っ白な歯を浮かべる様に笑った。


「はい、自分でもそう思います、名が体を表していますよ」


真っ白な髪に、巨峰を連想させる胸。

確かに名を顕していると言えば、その通りだろう。


「それじゃあ、白檮山、試験頑張れよ」


「ありがとうございます、燈心くん」


千金楽燈心は、いきなり名前呼びかと思った。

さながら自分に好意を向けているかの様に距離を縮めてくるので、一瞬心が動いたが、千金楽燈心はそれは無いだろうと思い、首を左右に振って観念を振り落とす。


「……燈心、くんかあ」


彼女は、萌え袖となりつつある腕を自らの口元に近付ける。

千金楽燈心の体臭が微かに残る運動服に、未だ彼の体温が残り続ける衣服に、久方振りの温かみを感じるのだった。


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