年上のお姉さんに指をしゃぶられてお金を貰う割のいいバイト

いかろす

第1話

 なんでこんなことになったんだっけ。



 そんな思考を、熱くぬめる舌先が絡め取っていく。


 第二関節のくぼみから指紋の溝まで這い上がり、指と爪の際までが余さず唾液で満たされる。


 手指には神経がたくさん集まっていて、それは中枢神経を通って脳みその奥の方にまで繋がっている。たぶん、そんな感じなんだと思う。


 だからなのか、考えようとしてもひと舐めの内にさらわれて、頭がまっしろになってしまう。


 一回、四万円。


 一万円札が四枚。五千円札が八枚。時給換算したら。千円札なら──するり。まっしろになる。

 一時間にも満たない少しの時間。手を差し出すだけの割の良すぎるアルバイト。



 別に、欲しいものなんてないのに。



 不意に指を包む熱が消え去って、つめたい空気にさらされる。つ、と伸びた唾液の橋で、わたしたちは繋がっている。


 降って湧いた瞬間の、思考の空白に想う。


 なんでこんなことになったんだっけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る