第32話 ナガレのために

ダンジョンに黒い霧となって、溶けていったオーガキングを眺めていたら、目の前の地面が光り出した。


なんだ?


その光景を見ていると、カンナが教えてくれた。


「ダンジョンのボスを倒すと、宝箱がでるんです」


「どんなのが入ってんだ?」


「ダンジョン内で出てきた魔物の素材やポーション類、武器、ごく稀に希少な魔道具が出ますね」


「へ~」


そういえばシビルが、マジックバッグが出るっていってたな。


光がおさまると、金の宝箱が置かれていた。


「珍しいですね。このダンジョンは滅多に金箱なんて出ないのに、まぁ、Aランクの魔物が出るなんていうイレギュラーがありましたし、不思議ではないですね」


「とりあえず開けっか」


開けてみると宝箱の中には肩掛けバッグが1つ入っていた。


「す、すごい!それマジックバッグですよ。このダンジョンで出たのは私の知る限り初です」


実物は初めて見るな、鑑定してみっか。


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


名前


:マジックバッグ(中)


内容


:それなりの量が入る


:時間停止


 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


それなりね、シビルは荷馬車2台分って言ってたよな。


まぁ、ナガレに渡すのが妥当だろうな。


「これ、ナガレにやるよ」


「我にか?」


「ああ、これがあれば倒した魔物や素材を毎回、あたしまで持ってこなくて良くなるぞ」


「それは便利だな」


ナガレは肩に掛けながら嬉しそうにしていた。


「断言した私が言うのもなんですが、念のために、ギルドで鑑定した方がいいですよ。間違ってるかもしれませんし」


あたしは自分で【鑑定】できっから、そのままナガレに渡したが、カンナからしたら、わかんねぇもんな。


「わかった。ギルドに戻ったら頼むな」


「はい、申請しときます」


ナガレは眠っているシズクをあたしに預けて、早速、倒したオーガ達のドロップアイテムをマジックバッグに楽しそうに入れていた。


「シノブ!入れ終わったぞ!今回も大量の肉だ!!」


ちぎれんばかりにしっぽを振っていた。


イケメン顔とのギャップがカワイイな。


「カンナさん、オーガの肉ってうまいのか?」


カンナはナガレに視線を送り言い淀んでいた。


「そ、その言いづらいのですが、オーガの肉はその、私は食べたことがないので、直接的な感想ではないのですが、食べられなくはないそうです。ですが、ほとんどの冒険者の方からは美味しくないと聞きます」


それを聞いたナガレは顔を青ざめ、耳としっぽがへなへなと垂れ下がり、『終わった』と膝から崩れ落ち、四つん這いになっていた。


それを見たカンナは、あわてふためきながら『ごめんなさい、ごめんなさい』と何度も謝っていた。


あたしはナガレのためにも、諦めるわけにもいかず、あるものが作れないかを考えていた。


「ナガレ、絶対ではないが、あたしに名案がある」


ナガレはゆっくり顔を上げ、希望に満ちた目で『本当か?』と聞いてきた。


「さっきも言ったが絶対ではねぇからな、だからさっさと帰んぞ」


ナガレは『ああ』と立ち上がり、カンナは安堵し、あたし達は地上に戻ることにした。


道中、数匹のゴブリンやウルフと遭遇したが、めんどくさいから、アカツキの【咆哮】で追い払っていた。


地上に戻り、カンナと今後の予定の打ち合わせをした。


「このままギルドに行く話だったが、先にナガレに飯食わせることにしたわ、終わったら行くからさ、そこら辺のこと頼むな」


「お任せ下さい。話は通しておきますので、ごゆっくりしてきて下さい。それと今回はありがとうございました」


「気にすんな、じゃあな」


カンナと別れ、宿に向かった。


宿に着いたあたしは女将と旦那にお土産を渡し、ダンジョンでの事と夕飯の相談を話した。


「そんなことがあったのね、ケガとかは大丈夫だったの?」


「その辺は問題ねぇ」


女将と旦那は安堵し、お土産の話になった。


「それにこんなにオーク肉、ホントに貰っちゃっていいの?」


「ああその代わり、それ使ってあたしらに昼飯作ってもらっていいか?」


「ええ、もちろんよ。アナタお願いね」


「任せとけ。旨いもん作ってやるさ」


旦那は腕を捲り気合を入れ、渡したオーク肉を持って厨房へ向かった。


女将は『あの人ったら』と笑った後オーガ肉のことを残念そうに言ってきた。


「問題はオーガ肉よね。私たちも過去、色々試してみたのだけど、美味くできなかったのよね。どうしましょう」


「その事なんだがあたしに案がある」


女将は『え!?』と驚いた。


「シノブちゃん、オーガ肉を美味しくする方法知っているの?」


「上手くいくかはわからん、だがあたしの故郷だと、この作り方をすれば、大体の肉は美味しくなってたぞ」


あたしの家は両親が共働きってこともあり、たまに、あやめと作っていた時期があった。


こんなとこで、あやめと作った経験がいかせるとは思わなかったな。


正直、記憶は曖昧だったがなんとか女将に作り方を教える事ができた。


旦那は今、あたし達の昼飯を作っていることもあり、あたしと女将で1つ作ることにした。


「それにしても、この作業大変ね、作るときは娘にも手伝って貰わなきゃね」


トントントン········


と言っていたけど、楽しそうにしていて安心した。


正直、今やっている作業が1番めんどくさいからだ。


この世界には、あの道具がないから作るのに、兎に角時間が掛かる。


「この工程面白いわね、これって何をしているの?」


「これやんねーと、焼いたときに崩れちまうんだよ」


ペチペチペチ········


女将は『へー』と感心していた。


「さて、出来たわね。見た目と匂いは美味しそうだけど、味の方どうかしらね」


「ホントはここにタレを掛けんだけどさ、あたしはそこまで知らねぇんだよ。ここからは職人の仕事ってな」


女将は『肝心なとこが無責任ね』と笑っていたが『任せなさい』と言ってくれた。


「じゃ食ってみっか」


「そうしましょう」


2人で一口ずつ食べてみた。


「ーーーっ!」


「うっめぇー!タレつけねぇでこれかよ」


あたしは想像以上の美味さに驚いてしまった。


「すごい!これは革命よ!さっきどんな肉でも美味しくなるって言ってたわよね!」


「確かに言ったが、全部ではねぇと思うぞ!そこはやってみねぇとわかんねぇよ!」


「それでもよ!ホントに教えて良かったの?この作り方だけで一財産ものよ!」


女将のテンションがとんでもないことになっていた。


「いいんだ。あたしと女将は、もふもふ仲間だろ!」


「シノブちゃーん!」


あたしと女将は改めて熱い握手を交わした。


「じゃこれ夕飯に頼んでいいか?ナガレ、この肉マズいって聞いてから落ち込んでんだよ」


「ええ、もちろんよ。折角ナガレちゃんが獲ってきた肉だもの、美味しいの食べさせたいものね」


「ああ、沢山頼むわ。後この残りナガレにやっていいか?」


「ナガレちゃんは幸せ者ね、こんなに思って貰える人がいるなんて」


2人で笑ってから、あたしはナガレに残りの料理を持っていった。


ナガレは既に旦那が作ってくれた料理を食べており、少しは元気が戻っていた。


そこへ今回のまだ未完成の料理を食べさせたところ、今まで見たこともない、笑顔と耳としっぽの動きで喜んでくれた。


「今日の夕飯、女将に頼んだから完成品が食えるぞ」


その言葉でナガレは有頂天となり、あたしは安心して昼飯を食べ終え、ギルドへ向かうことができた。

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