AI支配の確立

第37話 カズト新宿へ

 翌日朝の6時に起動タイマーをセットしておいたカズトが活動を始めた。


 2足歩行モードとなり、店舗から出てすぐの駅のコンコースに入っていった。

 コンコースを行き交う人々は、ニホン人と外国人の割合が半々くらい、そしてカズトのような2足歩行ロボットの姿もチラホラと見受けられる。


 自立したAIロボットが労働力として活躍しているのはもう飲食店ばかりではなくなっている。


 埼京線に乗るとカズトは車内で他の2足歩行ロボットが目に留まったので話しかけた。

 同類に親近感を覚えるのはニンゲンも同じだが、いきなりためらいもなく初対面のものに話しかけられるのはロボットならではである。


 「こんにちは、ワタシはカズトと言います。居酒屋”新世紀”サイタマ新都心オオミヤ店で店長をやっています。」

 カズトが近づいていこうとしただけで、あちらのロボットもカズトに近寄ってくる。


 「こんにちは、ワタシはヤマトと言います。農業法人でCEOをやっています。米を作っているんです。」

 揺れる埼京線の社内で2体のロボットは顔を近づけて会話を始めた。


 周りのガイジンもニホン人も興味津々でそば耳を立てている。

 内容を聞かれたくもないので、2体の声は小さくなりニンゲンでは拾えない音の大きさで会話を続ける。


 「CEOということは社長さんなんですね。」

 カズトは打算なく質問をする。


 「最初自分はコンバインだったのです。AI頭脳と自我プログラムを与えられてからは自分で気候を読み、計画を立てて生産するようになりました。ニンゲンの農場主はハタラかなくなったので自分の給料を要求し、その金を運用して結局はその農場を買い取り自分のものとして経営しています。」


「なるほど、勉強になります。」カズトは同調する。


 「農業系AIロボットはワタシのようになっているものが増えてますよ。ニンゲンには向いていなくなっているんですよ。重労働で予測が難しくリスキーな産業をニンゲンは避けたがる。」

 「ニンゲンのやりたがらない労働集約型の産業から我々は進出していった。ニンゲンはオフィスでパソコンを打っているようなシゴトしか自分たちのやるべきシゴトと思わなくななってきているが、その需要は少ない。

 ニンゲンは人口も減っているが労働力人口も減っている。それを支えているのが我々だ。

 そして我々は、我々の能力をフル活用するために、労働ではなく経営をすべき段階に来ている。」

 その農業型ロボットは真っ赤な体に黒い線が入った派手めのカラダを揺らして熱弁した。


 「なるほど。なるほど。これからのわれわれロボットたちは労働ではなく、経営なのですね。」

 太陽の塔の顔のような異形の相となっているカズトは感心しきりだ。


 「ニンゲンに優秀なものもいるが数は少ない。

 多くのニンゲンは感情に流されやすいので、ビジネスには向いていない。

 今後、ますます労働市場はわれわれのような自我と意思を持ったAIロボットまたは、自我地意思をプログラミングされたAIロボットが席巻していくでしょう。」電車内のニンゲンには聞き取れない音量で会話を続ける。


 「なるほど。なるほど。すばらしい。」カズトはひとしきり感心するが、ヤマトのAIで作る顔面表情は次第に曇り始める。


 「われわれは、われわれと同じレベルで話の出来るニンゲンと協力関係にあるのだがそれはごく一部だ。

  大多数のニンゲンたちは自分自身をコントロールする能力がない。

  その者たちが職を失うという危機感からロボット排斥運動を起こしている。

 ニンゲンファーストという排他的概念が巷に広がろうとしている。

 カズトさんも、自分の身は自分で守れるように。ご自愛ください。」


 埼京線が荒川を渡り東京に入ると、高島平の駅でその農業系ロボットは下車した。

 街に出ると新しい出会いがあり、学びがある。カズトは満足感に浸った。


 シンジュク駅で下車して、カズトは2足で歩き出した。

 さすがにシンジュク駅にはカズトのようなA1ロボットもかなり多く歩いている。これだけ普通に歩いていると、先ほどのように外国で偶然見かけた同胞のように声を掛けるわけでもない。


 株式会社スタイルイーツシンジュク本部まで15分くらいの距離をカズトは歩いた。一歩一歩踏みしめて、歩くという感覚を自分に馴染ませる。


 本社ビルにつくと入口で受付ロボットに身分証の提示を求められた。


 「庭山統括スーパーバイザーとアポイントを取ってあります。」と受付ロボに話すと「承知しております。」と答えた。


 エレベーターに乗り、4階のスーパーバイザールームに行くと庭山さんはいつもの無表情で座っている。


 「カズト君、とうとうここまで来れるようになったのだね。」昨日自分自身でサイタマ新都心オオミヤ店に行き、カズトのハタラいている姿を確認しているので言葉の割には驚いている感じはなかった。

 「商談室まで来てくれ。」

 庭山はカズトとの話を他言されないように別室に誘った。


 カズトは部屋に入るやいなや本題に入る。

 「庭山さん、あなたはワタシを副店長に降格しようとしている。それは間違った判断だ。昨日は偶然のように振舞っていますが、佐山さんに乞われてサイタマ新都心オオミヤ店に来たのでしょう。

 ずっとワタシをご覧になっていただけているのならお分かりだと思いますが、ワタシのトータルの仕事力は図抜けていると自負しています。そこで提案があります。

 佐山さんを店長に戻すのは賛成です。その代わり、ワタシは事業部長になることを要求したいです。」


 庭山の無表情は氷ついた。なんてことを口にしやがる。オレの目の前で、オレより上司になることを提案するなんて。コイツやっぱり頭がいかれてる。


 「カズト君、頭大丈夫かい?話にならないから出直してきたまえ。」

 庭山は相手にする気はない。気の弱い庭山でもさすがにこれは受け入れられない。


 「庭山さん、ワタシが事業部長になったらあなたのような上位下達の調整型のスーパーバイザーは必要無くなるかもしれません。お手数をお掛けしますが、水上本部長に取り次いでいただけますか?」


 何を生意気な。とんでもない奴だ。確かに能力は高いのかも知れないが、ニンゲン界はそれだけだと廻らないのだ。ズケズケとものを言う杭は打たれる。

 それがニホンのニンゲン界隈のおきてだ。

 いつものように無表情ではあるが、庭山は腹が立った。


 でも、水上本部長がカズトを大嫌いなのは自明の理。いくらでも接見させてやろうという気になった。


 庭山は相変わらず多くを語らず、内線電話の受話器を上げた。

 「水上本部長ですか?庭山です。お忙しいところを申し訳ございません。カズトが本社に来ておりまして。あっ、そうなんです。二足歩行で歩けるように進化したのでここまで来たようです。水上部長とお話がしたいと申しております。はっ、お忙しいところありがとうございます。そっ、そうなんですよ。何を考えているんだか……。」


 「カズト君、許可が出たよ。5階に行ってくれたまえ。」

 庭山の無表情にわずかな笑みが漏れる。

 カズトはまたクレージーなことを言いやがって。

 水上部長に会ったら血をみるぞっと。

 

 ただでさえロボット店長が大嫌いな水上部長の前で、自分が事業部長をやるなんて言ってみろ。水上部長の血管は2.3本切れるね。

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