第20話 カスハラの撃退

「店長、ありがとうございます。」タイゾーは素直に礼を言った。


 事の成り行きを見届けていたお客様からも拍手が散見されたが、またみな銘々の会話を楽しみに戻った。


 閉店後、ヒト型AIロボット店長カズトは非定例の終礼を招集した。

 通常時給の1.25倍がつく残業代付きの終礼ということで、閉店後の緊急招集にも関わらず、みなイヤな顔もせず集まってきた。


 普段の朝礼時と同じように、レジから水槽の前で1列に整列する。

 

 本日の従業員が全員そろっているのを確認すると、カズトは始めた。

 「みなさま、本日の業務もおつかれさまでした。」

 

 「さて、サイタマ市は人口の爆発で治安が乱れています。今後も今日のようなアクシデントはますます増えるでしょう。正当なクレームを盾に、従業員の良心に付け込んでカスハラをしてきます。」


 「ゆわいるサイタマトライビトなど、気持ちに余裕がなくなっている方たちも増えて、世の中が荒れる原因になっています。」


 タイゾー、佐山、あおい、アディー、ラフマン、悠斗、亮輔、松井さん、みな真剣な面持ちでカズトを見ている。


 「でも、ご安心ください。みなさんはわたしが守ります。このサイタマ新都心オオミヤ店では、わたしのAIと人工知能機能がフル活用されています。」


「1. 店舗が堅牢に作られていてシェルターにもなる構造です。

 2. わたしが勤務していた2年前より記録されていたカメラによりお客様の行動をAIが判断し、危険を察知した時は複数のホバーパイルダーのドローンカメラより精細な映像や音声を記録します。

 3. これらの動画は圧縮されて10年以上保存されます。

 4. わたしの4輪がフルスロットルになると、100mを9秒で走ります。

 5. パワーアームは自在に動き、ご存じのようにビールの20L生樽を2つ運ぶ力があります。」


 「みなさんは完全に守られているので、安心しておハタラきください。」


 「スゲーな、店長。」悠斗が言った。

 「やっぱりニンゲンの店長よりもスゴイかもな。」やんちゃな悠斗が発するとみなに共感が広まった。


「ありがとうございます。さすが店長。」

 カズトの店長再生プログラム”地獄谷の700日間”でトレーニング中の佐山も合いの手を入れた。

 

 すっかりヒトが変わってきている。発する言葉が以前とぜんぜん違がう。

 タバコも止めたようだ。

 ヒトって簡単に変われるものではない。カズトの教育が余程良いのか。


 最後にタイゾーが締める。

 「正直怖かったけど、天井に小型のホバーパイルダーが飛んでるのを見たときにチョットホッとしたんだ。きっとカズト店長が見ていて、手が空けば駆けつけてきてくれるに違いないってね。」

 

 そういえば……タイゾーは思った。2年前から店内が記録されているということは、まだネコ型ロボットだった時からと記録していたということなのか?

 ネコってニンゲンの近くにいて、ものは言わないがニンゲンを観察している生き物だからな。

 名前がまだないネコだって、人間観察にすぐれてたりするもんな。


「すごい時代になったな。ついていくのが大変だ。」松井さんが呟いた。


 松井さんの顔はメガネの奥から佇み、うれしさと切なさを同居させた複雑なものとなっていた……。

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