第15話 社長の謎対応

翌日水上は決心した。

 あれ以上お気楽息子に探りを入れても埒は空かないだろう。

 

 社長にストレートに聞いてみよう。あのカズトのニンゲン以上の働きぶりを目の当たりにしてしまってからは、疑問が解決しないと気持ちが落ち着かない。


 幸い本日午前10:00より、半月に一度の事業部報告会である。水上は資料を携えて社長室に入った。

 「失礼します。」


 「ご苦労様。入りたまえ。」

 今年で65歳になるが本山社長は快活である。大柄な体をゆっくり起こして水上を招いた。

 水上は事業部の今月の売り上げ状況から、現在の課題点、店舗の人員の問題、店舗修繕個所の状況などをいつも通りに一通りの報告を行った。


 「…………という感じでして、まとめると、とくにこのゴールデンウイークの売上はサイタマ新都心オオミヤ店の売り上げ進捗率が136.8%と目を見張るものがあります。」


  「要因は?」水上社長のいつもの問い掛けだ。

 良いことも悪いことも突き詰めていく、叩き上げの社長のスタイルだ。


 「カズトであると言えると思います。」

 水上はきっぱりと言い切った。


 本山社長の答えは水上の想像とまったく違った。

 「カズト?って、ナニ?誰だっけ?。


 水上は数秒凍りついた。

 「この間オオミヤ店の店長になった、ヒト型AIロボットのカズトですよ。」


 「えっ、ロボットが店長やってるの?それダイジョウブなの?」


 水上は驚きが止まらない。

 「この間の店長会議で辞令を出しましたよね。ZOOMですが。ご覧になっていると思いますが。」

 「あれロボットって、冗談じゃなかったの? ロボットみたいにマジメな奴という例えだと思ってた。」


 いや、絶対に社長はとぼけている、昔から社長は都合が悪くなるとタヌキになるからな。

 どう考えてもC3POみたいな見た目のカズトをニンゲンと思う訳ないじゃないか。


 本山社長は正面に向き直り、クリッとした目を見開き、水上部長の目をとらえただした。

 「それで、君はどうしたいのかな?」

 

 出た!あの求人広告会社を大企業に育てたカリスマ経営者のマネ。


 あなたはシャインに当事者意識を埋め込み、タスクを自分事とさせて成果につなげさせるのがうまいあのカリスマ経営者か?

 

 そもそも、こちらの問い掛けとあなたの返事がずれてきているではないか。


 「水上君、事業部責任者はね、事業部内の人員構成を正確に把握し適材適所に各人の能力が最大限に発揮されるように考えるのがシゴトなのだよ。将棋の駒を進めて行くようにね。

 水上君の一手一手が株式会社スタイルイーツ新世紀事業部の命運を握るのだよ。もし、人事に問題があつたら、責任はすべて事業部長だからね。わたしは、社長として、このスタイルイーツ丸という船の進むべき方向性をさだめるのがシゴトだ。

 いわば船頭だ。水上君たち事業部長はその船員を統括するのがシゴトだ。ヒューマンリソース上に何か問題があったら、その責任は事業部長だからね。」


 「……はい。……かしこまりました。ココロします。」水上の声はだんだん小さくなった。


 また覚えたての横文字を何となく並べて逃げようとしている。

 趣旨を聞かされずにあなたの一存で導入されたものの責任を何でわたしが追わなきゃいけないの?と言いたい。

 しかし、経営者の圧を前にそれは言えない。


 過去に社長の放言に堪えきれず、何度か言い返してみたこともある。


 しかし、社内に居場所がなくなりホント辛い思いをした。

 あれを二度と経験したくないので、余計な反論をしないのが、水上がここまで出世した処世術だ。


 でも、水上も現場からたたき上げで事業部長にまでのし上がった男。

 簡単には引き下がらない。

 

 ここは論点を若干ずらして、違う方向から攻めてみる。

 

 「ところで今年の当社の決起大会にもハードバンク社の秘書の香山さんにお越しいただきましたけど、配膳ロボットがAI知能を有したロボットに進化するなんて何も言ってなかったような気がします。社長は別途、何か聞きましたか?」


 水上は社長の表情の変化を1mmたりとも見逃すまいと凝視した。

 本山社長の顔が一瞬凍りついたのを本山は見逃さなかった。でもすぐに本山社長の顔は平静を取り戻し、いつもの経営者オーラでこの場に空気を支配した。


 「わたしは知らんよ。配膳ロボットの導入は専務が勝手にやっていることだからな。うちの息子もそろそろ結婚してもらわんと困ると思ってたら、ハードバンク社の秘書さんがなかなかいい感じの方だったんでね。何とかならんかなという親心であいつを担当に就かせたんだよ。」


 やはりこのタヌキ親子たちどちらかが絶対に嘘をついている。

 そしてそれを経営者の圧で絶対に探らせない。ズルいのだ。


 「いずれにせよ、ロボットだろうがニンゲンだろうがガイコクジンだろうが新世紀事業部の人事のことは本山くんに任せているんだから。

 全責任を持ってシゴトにあたってくれ。

 わたしは舵取りだから。船頭だから。細かいことは水上君に一任してあると自覚してくれ。」


 結局、何か問題が起きた時はトカゲのしっぽを切ってお茶を濁して逃げ切ろうとする。


 「かしこまりました。」

 水上は諦めて深々と頭を下げて、踵を返して社長室を出てその足で庭山統括スーパーバイザー席に向かった。


 庭山は相変わらずいつもの感情の無い表情でパソコンに向かっている。

 「庭山君、ちょっといいかい。」

 「あっ、水上さんすぐ終わらせますので少々お待ちください。」


 なにぃ、なにが少々お待ちくださいだ。水上は生理的に庭山を好きになれない。

 部下に待たされるつもりはさらさらない。水上は構わず話し始めた。


 「庭山君、カズトに関することは君に一任する。社長もそのご意向だ。」

 庭山は固まっているが、剛腕水上の知るところではない。


 「君の想いを形にしてみたまえ。」

 

 「……?」

 庭山はそのセリフの意図がよく分からなかったので余計に固まった。

 それはどういうことだろう。カズトに関することが、.....想い?よく分からない。


 「カズトに関しては君が全責任を負う形で推進してくれたまえ。」


 「水上部長、それはどういうことてすか?わたしは、カズトに関して何も知らされてません。せめて‥」


 水上事業部長は、庭山の話の途中でさえぎった。

「君の統括エリアの問題は君の責任で考えてくれなくちゃ。私が考えるのは事業部の全体感だから。

 言ってみればわたしは事業部の船頭だ。私の舵取りがこの居酒屋”新世紀”事業部の命運を握っている。

 『経営はマクロに宿る』ってあの伝説の経営者の名言知らないの?

 仕入とかヒューマンリソースとか細部を考えるのは君たちの責任だから。

 つまりカズトにまつわることは、君の責任範疇に収まるのだからね。」

 自分の主張をまくし立てるときの水上の顔は眉が逆立ち目が血走り相手を寄せ付けない。

 

 庭山はこれ以上何か反論するのは諦めた。


 持病の痛風が急にうずき始めた。

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