超短編SF

@tsukumo168

無人航宙機母艦

 青い光をノズルで放ちながら加速する1隻の宇宙船がいた、神鷹(しんよう)である。神鷹は円柱が直列に2つつながったような見た目をしていて、各所に姿勢制御スラスタのノズルが見える。

 神鷹は船体中央、ちょうど円柱をつなぐ骨組みから無人航宙機を発進させていた。この無人機は機関砲と推進器、放熱板のみのような見た目で、推進剤切れ直前では50G加速が可能だ。

 発進した無人航宙機は4機、1個小隊といったところで、10G加速を初めていた。小隊は菱形のような隊形をとり母艦の赤外線カメラの視線を受けながら目標へと向かった。

 母艦内部のCICでは、3人の乗員が待機していた。神鷹はもともと長距離貨客船であったため元からの軍用艦に比べ乗員数も多く、CICの3人以外にも整備班が待機していた。


 CICのコンソールには無人航宙機の敵との会敵予想時刻と予想軌道が表示されている。約30分後に敵軌道爆撃艦隊と無人機が会敵、本艦はそれから5時間後に無人機回収の予定だ。

 コンソールを見つめる乗員の目は血走っていた、彼はもう20分もその画面と睨み合いをしていたのだ。後ろから肩を叩かれた。

「なんか薬でもキメてらっしゃる?」

叩いた女、この艦の艦長である、はそういった。

彼はやや困惑した顔で

「艦長、日本語苦手じゃなかったんですか?」

と返す。

「たまには良いでしょう?勉強に付き合って。」

「今は作戦中ですよ?」

そう返し終わるか終わらないかのところで背後のコンソールから警戒音がなった。

 振り返った彼はコンソールを見る。そして英語で報告する。

『艦長、無人機が会敵。敵の伏兵です。』

『社会主義者も頭を働かせてるわね。』


 無人航宙機小隊は敵艦隊の先行部隊と会敵していた。距離はまだ10万キロほどはある。しかし秒速200kmで慣性航行している無人機にとって10万キロは10分にも満たない時間で通り過ぎてしまうような距離だ。

 なぜこの距離になるまで敵が先行部隊を出していたことに気づけなかったのか。それは分からないが、戦闘ははじまろうとしていた。

 先攻を取ったのは敵だった。自走爆雷と呼ばれるものを発射したのだ。発射されたそれはコンマ数秒ほどで加速を開始、わずか数秒で秒速200kmに達し、爆散した。

 爆散した際にでた破片は、そこまで散らばらずに爆散前と同じような速度で無人機群の前方に展開した。これで無人機群は相対速度秒速400kmで破片の中に突っ込むことになった。

 もちろん突っ込むわけにはいかない、無人機は全力で回避行動に入った。隊形を崩し散開し始めた。無人機はわずかな抜け道を探し、見つけたところに全力で移動した。


「あぁ、まずい。避けきってくれ…」

神鷹のCICに響く、彼はハッとして口をきゅっと閉じる。彼の視線の先にあるコンソールでは何機かが被弾して被害が出たことを告げていた。一機はもう加減速ができないというところまでいっていた。

 無人機群が攻撃を開始したという報告が届いた。またほんの数十秒かしたあとに、攻撃を終了したという報告がまた届いた。彼は背もたれに身体を大きく預けた。

 戦果不明、帰還不能1、予定帰投時間に変更なし。その結果が、またコンソールに表示された。


−−−−−−

 神鷹

正式名称:ガダルカナル級仮装航宙機母艦5番艦神鷹

武装:35mm単装機関砲 4基4門

エンジン:リヒテン式N-130核融合炉 1基

 ドイツ製長距離貨客船シャルンホルストを日本が購入、改装した艦。A規格航宙機を運用できるように改装されている。

 ドイツ製と元の名前がシャルンホルスト、航宙機母艦として改装されるということから、帝国時代の神鷹になぞって神鷹と命名した。

 A規格航宙機を運用できるよう改装された元民間船は全てガダルカナル級として扱われる。


 無人航宙機

正式名称:スピアフィッシュⅡ無人攻撃機

武装:60mm機関砲

   ASSM-12

エンジン:M22一液式ロケット

 英国で設計された無人航宙機で、汎太平洋条約機構宇宙軍で広く普及する機体。その設計はシンプルかつ拡張性を持たせて設計されている。

 本機を基準とした大小4m範囲の大きさを持つ航宙機をA規格と呼ぶ。

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