第18話
♢
珍しく、今日は放課後は予定が何もない。ここ二週間ちょっとの間、毎日エルシィとの鍛錬だったが、今日はおやすみにしようという咲奈の提案だった。で、咲奈とエルシィは二人してショッピングにでも行くらしい。二人の親睦を深めるのには良い機会だろう。ということで、俺はこれから完全フリータイムだ。
そうだと思っていたのだが。
「おお、零夜殿」
廊下で背後から呼び止められると、武士澤だった。手にはいっぱいの書籍とプリントを抱えている。
「どうしたんだ?」
「いや、ちょっと鳥人間部と園芸部から別途に頼まれごとをしていて」
「なにを頼まれたんだ?」
「鳥人間からは、昔の飛行機などのことを知りたいから資料を集めて欲しいとのこと。園芸部からは、このアマテラス・シティの植生やこの十年のペイタロン樹の広がり方などを知りたいと。で、こうして拙者が集めて回った資料をまずは鳥人間に持っていっているところなのだ」
なるほど。なんだかんだ武士澤は大忙しだな。
「そういえば、零夜殿も鳥人間部や園芸部とは仲が良かったな?」
「仲が良い、というより頼まれごとをよくする、という感じだな」
それもこれもコードの力、というわけだが。「零夜殿。ちょっと拙者とご同行願えないかな?零夜殿がいてくれたら、鳥人間部も話がしやすいと思うし」
「うーん・・・・・・よしわかった」
放課後、特にすることもないしな。
「では、それならそれで・・・・・・」
俺は武士澤についていく。
「おお、零夜。ちょうどいまから
鳥人間部に入ると、開口一番そういうことを口にする鳥井烏丸。
「は?つーか部外者の俺が、そんな簡単に操縦していいものでもないだろう」
「いや、そうでもない。なんたって、零夜はアセンブリ・コードの達人だ。飛行中なにかあっても、すぐにコードの力でなんとかできるだろう」
「コードの力は万能じゃない」
「零夜殿。せっかくだから、引き受けてみてはどうだ?なにかあっても、こちらが責任をとってくれるだろう」
武士澤までそんなことを言う。
「・・・・・・分かったよ」
俺は結局、承諾する。
弓月丘。アマテラス・シティの南側に位置する、丘というより小さな山で、市内が一望できる。あの大災厄以前からあったらしい。
「よし、準備完了っと」
鳥井率いる部員たちは、蒼鵬Ⅲの最終チェックをしている。
蒼鵬Ⅲは、その名の通り青を基調とした色合いだ。大きく横に広がった翼が、印象的。
「それじゃ、零夜」
「む~・・・・・・」
色々と言いたいことはあるが、引き受けた手前しかたない。俺は蒼鵬Ⅲのコックピットに乗りこむ。
内部は簡素なつくりで、レバーとペダルがひとつあるだけだ。
「零夜。この蒼鵬Ⅲは、全身がペイタロン製だ。もしなにか不満があったら、遠慮無くコードを打ち込んで改変してくれ」
「ああ、言われなくてもそうするよ」
ふと気付いたが、ひょっとして鳥井たちはこの俺に試運転をさせることによって、蒼鵬Ⅲの調整をしていく魂胆ではないのだろうか。となると、今日俺が武士澤に誘われたのも、すべては計画されていたことなのかもしれない。だが、いまになってそれに気付いても、もう遅い。
「それでは、メインエンジン点火。しっかりつかまっていてくれ、零夜」
ガガガガガ、と鈍い音がして、青色の小型飛行機は、走り出し、そして離陸する。
段々と高度を上げていく蒼鵬Ⅲ。
「おお・・・・・・」
十分な高度に達したとき、窓から見える景色に思わず声をあげる。
アマテラス・シティ。十年前の大災厄以後にゼロから創り出された、復興都市。周囲は大災厄により一時的に荒野となっていたが、生命の力というものは底知れないもので、今では一面に緑が広がっている。その中心にあるアマテラス・シティは、その街のあちこちにふんだんにペイタロンが使用されている。ペイタロン特有のきらめきが、周囲の緑と鮮やかなコントラストをなしていて綺麗だ。
そして、その広がる緑の彼方には、うっすらと日本海が見える。深い青をたたえた海のその先には、アセンブリ・コードによって人工的に生み出された珊瑚礁が形成するグランド・バリア・リーフが、この国の防衛を果たしている。
蒼鵬Ⅲは、大空を悠々と滑空していく。翼が少しずつまるで生き物のより動きながら、その勢いを調節する。この辺りは、俺がコードを打ち込んだんだよな。
「おお・・・・・・やって良かったかもな」
俺は思わず溜め息を漏らす。この光景を、咲奈やエルシィにも見せたかったな。
今彼女たちは、眼下に広がるアマテラス・シティのどこかでショッピングを楽しんでいるだろうか。あとで、彼女たちにこの感動をたっぷりと聞かせてあげよう。
ガコンッ、という鈍い音がする。そして蒼鵬Ⅲの機体が段々傾いていく。
「うわ、やべえ。姿勢制御か何かに問題があるみたいだ。早くコードで修正しないと・・・・・・」
まだまだ課題はあるみたいだな。
12
トラブルもあったが、空の旅も無事に終えて、俺は学校へと戻る。
さて、もう家に帰っていいだろうと思っていたとき、再び武士澤に遭遇した。
「おお、零夜殿。いかがでしたかな、鳥人間部は?」
「お前も一度ぜひ連れて行ってやりたいくらいの素晴らしい経験だったよ」
「うむ・・・・・・しかし拙者は高所恐怖症ゆえ、ご遠慮願いたい」
「てめえ、それで俺にあれを薦めたのかよ」
「よいではないか。結果おーらいであったろう?」
そりゃあそうだが・・・・・・なにか、不満が残るな。
そのとき、背後から声がした。
「武士澤くーん、さっきはありがとねー、あれ、もしかして零夜くん?」
振り向くと、そこには園芸部の
「おう、小此木。元気しているか」
「うん!そういえば、このあいだはありがとね。おかげですっかり校門前の木々も元気になってね・・・・・・」
「いや、別に大したことではないから礼はいらないが」
「またまた~、すぐ謙遜しちゃって。でさ、せっかくなんだけれどもう一件、お願いしてもいいかな?最近、どうも中庭の花壇に、変なのがあってね・・・・・・」
「了解だ。いまからいいぞ」
「ありがと~」
小此木は元気よく俺を案内する。武士澤が、こっそりと俺に話しかけてくる。
「零夜殿は、小此木殿に親切ですの」
「そうか?単に、あいつがいいやつだから、割と協力しているだけだが」
「鳥人間部とは随分と違うような・・・・・・」
「そりゃ、あいつらは俺を当てにしすぎているからだな」
「零夜くーん。いくよー」
「了解」
俺は小此木に着いていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます