弱肉強食の世界2

「‘さて……お前らはどうするつもりなのかな?’」


 コボルトとの間には距離がある。


「コボルト……ですか……」


 クリアスは悩まし気に目を細める。

 コボルトなら戦ってもいい相手だ。


 一体ならたとえ片腕でも勝てる自信がある。

 捕まえて無理矢理従えることも難しくはないだろう。


 群れで活動することも多いので、近くにまだコボルトがいる可能性はあるものの、それでもあまり脅威的な相手ではない。

 ただコボルトはコボルト。


 弱い魔物だ。

 それは身に染みて分かっている。


 合成に掛け合わせる相手として相応しいのか、少し疑問がある。

 そういえばウルフを使って追いかけてた連中も、コボルトは合成の相手として良くないようなことを言っていた。


 同じ魔物同士を合成することに制限もないだろうが、コボルト同士はどうなのだろうと思ってしまう。


「‘まあ仲良くするつもりはなさそうだな’」


 相手のコボルトは牙を剥き出して、うなっている。

 しかも視線を向けているのはクリアスではなく俺の方。


 人間よりも人間といるコボルトの方が気に入らないのだろうか?

 どの道、コボルトの気持ちは分からない。


「むむむ……コボルトさんはどうですか?」


 コボルトがいいのか悪いのか分からないクリアスは俺に尋ねてみることにしたらしい。


「‘嫌。なんか嫌’」


 俺はちょっとしゃくれるような顔をして首を振る。

 どうせなら違うモンスターがいい。


「うーんじゃあコボルトは無しにしましょうか」


 ジェスチャーのみならず顔でも伝えようとしてるから、だんだんと自分でも表情が豊かになってきた気がする。

 クリアスも俺の意図を上手く汲み取ってくれる。


「あっ、どっか行っちゃいましたね」


 睨み合っているうちにコボルトの方がどこかに走り去ってしまった。


「‘争いにならなくてよかった’」


 契約もしない相手と戦うことはない。

 倒したところで素材としても高く売れはしないのだから、互いに戦わずにいることが互いのためでだった。


「それじゃあ他の魔物を探しましょうか」


 近くに他のコボルトの気配もない。

 なので魔物探しを再開する。


「‘ん?’」


「コボルトさん? どうかしましたか?」


 ふいに立ち止まる俺をみて、クリアスは不思議そうに首を傾げる。


「‘何かが走る音が聞こえる’」


 俺の耳に何かの音が届いてきた。

 草を踏み締め走る音。


 足音のタイプが二つある。

 逃げる何かと、追いかける何かだと音から判断した。


「‘あっちの方か’」


 音が近づいてきて、方向も分かった。

 俺はクリアスを手招きして呼び寄せると、木の影に隠れて周りの様子をうかがう。


「あれは……」


 魔物が走ってくる。

 俺とクリアスは息を潜めて、気配を殺す。


「ホーンフォックスと……ゴブリンですね」


 走ってきたのは予想通り二種類の魔物だった。

 先を走るのはホーンフォックスという魔物。


 頭に一本のツノが生えているキツネのような姿をした魔物で、大きめの個体一匹と何匹かの小さい個体がいる。


「‘チッ、相変わらずブサイクだな’」


 対して、追いかけているのはゴブリンという魔物だ。

 くすんだ緑色の肌をしていて、子供ぐらいの細い体格と醜い顔の弱小魔物である。


 コボルトと並んで弱い魔物だけど、身体能力的にはコボルトの方が強く、ゴブリンの方がちょっとだけコボルトよりも賢いぐらいの差はある。

 正直ゴブリンもあまり見た目が好きじゃない。


 コボルトになって最悪だと思ったけど、ゴブリンじゃなくてよかった。

 まだコボルトの方が可愛らしい。


 獲物を前にしてニヤつくような顔をして追いかける様は少しムカつく。


「ゴブリンが……ホーンフォックスを追いかけてるんですね」


 クリアスは意外そうに呟いた。

 ホーンフォックスとゴブリンならホーンフォックスの方が強い。


 ただそれは通常の状態で一体ずつ比較した時の話なので驚いたのだ。

 コボルトもそうだが、弱い魔物ほど少ない知恵を働かす。


 つまり群れてなんとかしようとするのだ。

 ゴブリンも単体では対処の難しくない魔物だが、群れを作って何体かで行動する。


 それでもホーンフォックスなら負けないだろうけれども、今は事情が違うのだと俺は様子を目を細めてみていた。


「子供……のためですかね?」


 クリアスがどうしてホーンフォックスが追われているのか理由を予想する。

 生き物的な側面を持つ以上、弱い時や不利な状況というものはどうしても存在してしまう。

 

 昨日までの捕食者が一転して、狙われる立場になることも珍しいとは言い切れない。

 俺もクリアスの言葉に頷く。


 大きなホーンフォックスは小さいホーンフォックスの後ろから守るようにして走っている。

 体の大きさからすると簡単に追い越せそうなのに、そうしないのはきっとホーンフォックスが親子だからだろう。


「‘子供を産んだ個体を狙ったんだな’」


 ホーンフォックスたちは息が荒く、大きなホーンフォックスは後ろのゴブリンをチラチラを気にしている。

 小さなホーンフォックスたちは息が荒く、舌が横から出ていた。


 弱いゴブリンが普通にホーンフォックスを狙うことはなく、狙われたとて追いかけられることもない。

 だが今はホーンフォックスの方が確実に追い詰められている。


 小さい個体を見れば、その理由が推測できる。

 ホーンフォックスは子供を産んだばかりなのだ。


 出産は力を使う。

 大きく体力を落とし、さらには子育ても加われば余計に体力を奪われる。


 子供もすぐには戦えるようにならない。

 仮にそんな時に狙われたら?


 たとえ相手が格下でも、ホーンフォックスは不利な戦いを強いられることになるだろう。

 子育てにおいてちゃんと隠れなかったホーンフォックスの落ち度であり、相手が弱っている隙を狙うゴブリンの知恵である。


 良いも悪いもない。

 弱い方が強い方にやられるというのは自然の摂理なのだ。


 ただ、冷たいルールだよなとは思ってしまう。


「‘つがいはどうしたんだ?’」


 親のホーンフォックスがオスかメスか知らないが、対応する相手となる個体もいるはずだ。

 だがそんな個体も見当たらない。


 何かの事故で死んだのかもしれない。

 これもまた自然の厳しさである。

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