一方通行

ユり愛

恋の行方 ◇美幸◇

「みーちゃん!おおきくなったら、ぼくとけっこんしよ!」

「うん!!ぜったいだよ」

「「ゆーびきりげんまん――」」


 私――雛野美幸ひなのみゆは幼い頃、幼馴染の鴨井悠太かもいゆうたと結婚の約束した。

 悠太とは家が近く、小、中と同じ学校に行って、同じ時間を過ごした。

 中学校では「お前ら付き合ってんだろ!」とからかわれることもあった。悠太ゆうたは、必死に否定してたけど、私は嬉しかった。そして、そうなりたいと思っていた。


 高校も同じ学校に進学した。

 今年こそは悠太ゆうたの彼女になる!って意気込んでいたが、二年生になっても彼女になることは出来なかった。

「もーーー!!」

 ベッドに倒れ込む。

 自分なりにアピールしているつもりだが、悠太ゆうたが気付く気配もなく、未だに一切進展していない。

 そこにスマホの通知が鳴った。見ると悠太からメッセージが来ていた。ワクワクしながらメッセージを開く。

『好きな人ができたから、相談のってくんない?』

「え…?」

 見なければよかったと心底、後悔した。

 私に相談している時点で、私ではないことなんてすぐに察しがつく。

 約束、忘れちゃったのかな?…そりゃそうだよね

 自分の気持ちに蓋をしてひとつ、メッセージを返す。

『いいよ!』

 するとすぐに返信がきた。

『ありがとう!!』

 悠太ゆうたの顔は見えないけど、きっとこれ以上なく安心した表情をしているのだろうとメッセージから伝わった。

 悠太ゆうたの恋、応援しなきゃ…

 そう、必死に言い聞かせる。私の恋は伝えることなく、呆気なく終わってしまった。


「あ!ねぇ美幸みゆ、今日の放課後ここ行かない?ここのスイーツめっちゃ美味しいんだって!」

「……」

美幸みゆ?おーい、美幸みゆってば!」

 肩を揺らされて自分が呼ばれていることに気づいた。

 私を呼んだのは、中学からの親友の白鳥果那しらとりかな

「え?あぁ、何?」

「だから、ここ行こうって」

「うん、いいよ。」

「…ねぇ、どうした?なんかボーッとしてるけど」

「いや、少し考え事してただけ」

「そう?」

 果那かなは優しいから、私が話そうとするまでは何も聞いてこない。そんな優しい果那かなに少し、相談することにした。

「…ねぇ。もし小さい頃、結婚の約束してたらどうする?」

「え、急だね。う~ん私なら、忘れてるか本気にしないかな。」

 果那かなの意見を聞いて、悠太のことは諦めようと思った。

「何、約束した相手でもいるの?」

 果那かながキラキラした瞳で問いかけてくる。

「まさか~そういう物語があってさ!てか次移動じゃん。行こ」

「おけ~」

 誤魔化すように話題を逸らして次の教室へと向かう。途中、廊下で悠太とすれ違った。

「あ、美幸みゆ!次移動?」

「うん。悠太ゆうたは?」

「自習になった」

「サボらないでね」

「頑張る!」

「じゃあまたね!」

「おう、またな!」

 悠太ゆうたと話せて嬉しいと思う反面、あの笑顔は私ではない、他の誰かに向けられるのだろうと思うと寂しい気持ちになった。


 一ヶ月後の夜、悠太ゆうたからひとつのメッセージが届いた。

『無事付き合えた!ありがとう!』

 あの日、諦めることが出来なかったらきっと泣き崩れていたであろうメッセージも今は良かったと思えた。

 頬が濡れてるのは………きっと嬉しいからだ。

 悠太に彼女が出来て数週間が経った。私達の間ではすれ違っても話さないということが暗黙の了解となっていた。

 …いや、最初は悠太ゆうたから話しかけてきていた。しかし、私は悠太ゆうたを避けるような態度を取ってしまった。それ以降、悠太が学校内で話しかけてくることはなくなった。

 クラスが同じになることはなく、話す頻度が徐々に減り、気付けば話さない日の方が多くなった。

 そして時が過ぎ卒業式の日を迎えた。

 堅苦しい式が終わり、みんなで記念写真を撮っていた。

美幸みゆ!写真撮ろ!」

 果那かなに声をかけられ快く承諾する。

「はい、チーズ!」

 たくさんの記念写真を撮って解散が近くなった頃、人目のつかない体育倉庫裏に悠太ゆうたを呼び出した。

「卒業おめでとう」

「ありがとう!美幸みゆもな!」

「ふふ、うん。ありがとね」

 ずっと話してなかったけど、相変わらず元気な姿が凄く悠太ゆうたらしいと思い、自然と笑みが溢れる。

「話って何?」

「…悠太ゆうたは小さい頃にした約束、覚えてる?」

「小さい頃にした約束?…なんだっけ?」

 悠太ゆうたは少し考えたあとそう言った。

 やっぱりと思った。

 本当は、今までずっと未練が残っていた。だけど悠太ゆうたの言葉を聞いて希望はない。今この時、私は完全に諦めた。

「何?何か大事なことだった?」

 焦ってそう言う悠太ゆうたに笑顔を張り付けて答える。

「ううん。全然。」

「そっか。驚かすなよ~」

「ごめんごめん」

「ゆう~?」

 直後、悠太ゆうたを呼ぶ声がした。声の主は悠太ゆうたの彼女だった。

「あ、ごめん。もう行くわ」

「うん。あ、彼女と幸せになってね!」

 予想していない言葉が飛んできたからか、少し驚いた表情をしたあと、満面の笑みで悠太ゆうたは言った。

「おう!またな!」

 そう言って駆け足で悠太ゆうたは去っていった。

 悠太ゆうたの背中に誰にも聞こえない声で呟く。



「バイバイ…悠太ゆうた

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