第5話FileNo.05 仮面家族の犠牲者
【プロローグ】
都心から少し離れた高級住宅街。
その静寂を破るように、赤いパトライトが夜を照らしていた。
豪邸・明石家のリビングで――
明石さとる(18)の遺体が発見された。
第一報では自殺の疑いが持たれたが、
鑑識の結果、さとるの体には“第三者が加えた圧痕”があり、
他殺であることが判明した。
容疑者は、家にいた4人の家族。
父 明石 牛太郎(52)会社役員
母 みつこ(48)主婦
兄 たかし(21)ラッパー
妹 わかな(16)学生
さらにさとるの手には――
謎の文字が残されていた。
《 うし わか らっぷ 》
まるでダイイングメッセージのような文字。
芋三郎刑事は、この謎を解き明かし犯人を追い詰めることができるのか!?
【解明編】
「うーん、“うしわからっぷ”なんて言葉、聞いたことがないな……」
広瀬刑事は首を傾げながらつぶやいた。
だが次の瞬間、手を打つ。
「待てよ!そうか、わかったぞ!」
「これは犯人の名前を書いているんだ……!
牛太郎の“牛”、わかなの“わか”、そしてたかしの……“ラッパー”……!」
自信満々の顔である。
リビングには家族が集められた。
牛太郎「私は忙しいんだ。さっさと犯人を逮捕してくれよ」
たかし「Yo!ポリスメーン。犯人は誰なんだYo?」
わかな「……さっさと終わらせてくれない?」
みつこ「そんな……まさか家族が……」
広瀬刑事が勢いよく立ち上がる。
「犯人は、この中にいます!!
さとる君の残した“うしわからっぷ”……この文字があなた達3人を指しているッ!」
ビシィィィッ!!
父・兄・妹を指し示す。
その時――
「広瀬くん、それは違いますよ」
静かな声がリビングに響いた。
キッチンから現れたのは芋三郎刑事。
なぜか手にはお玉を持っている。
広瀬「えっ、芋三郎さん!?いつキッチンに?」
芋三郎「味噌汁が冷めていたので、温め直していました」
たかし「ホワッツアップ?」
芋三郎は咳払いし、本題へ移る。
「広瀬君。さとる君の手にあった文字……
あれはダイイングメッセージではありません」
「え……?」
芋三郎はゆっくりと、“暗号”を解読するように言った。
「『うし』は“牛乳”。
『わか』は“わかめ”。
『らっぷ』は“サランラップ”――」
「つまり――買い物リストです」
みつこ「ビクゥ!!」
一同「えええええええええぇぇぇ!!?」
芋三郎はさらに続けた。
「さとる君は、よく買い物を頼まれては忘れる癖があった。
そのため、直接手にメモを書くようになっていた」
「しかし――」
芋三郎は冷蔵庫から牛乳パックを取り出して見せた。
「またやってしまった。“牛乳”ではなく“調整乳”を買ってきた。
あなたはそれに激怒して殺してしまった。違いますか?」
芋三郎の視線は、みつこに突き刺さる。
「犯人は――あなたですね。みつこさん」
みつこは膝から崩れ落ちた。
「……あの子が悪いのよ……何度言っても覚えないから……
カルボナーラ作るから“牛乳”買ってきてって頼んだのよ……!
それなのに……また……!」
広瀬「お母さん、殺人の容疑で逮捕します」
みつこはそのまま連行されていった。
パトカー「パーーーッ……プー……(いつもの古い音)」
外で一服している芋三郎に、広瀬が声をかける。
「しかし、よくメッセージの正体に気づきましたね!」
芋三郎は黙ってPHSの画面を見せた。
《 帰りに牛乳とリキュールと塩辛買ってきて。お願いね♡ 》
「私もよく買い物で間違えて……妻に怒られますから」
広瀬「奥さん……カルーアミルクの“つまみ”が塩辛なんですね……」
芋三郎は静かに煙を吐いた。
――FileNo.05 完。
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