あの先輩を殺してください-その報酬125万-

ホンノ ワズカ

報酬125万

"誰にだって得意はある"


これほどつまらない言葉はない。

サッカーが得意なやつは勉強が苦手?勉強してるやつは運動できない?


誤解も甚だしい。勉強もスポーツもコミュニケーションも一級にこなすやつもいる。


そしてそれら全てが苦手な人も当然いる。当然の話。これが真理


「___眩しい」


11時に目が覚める。嫌な時間だ。

オンラインゲームでは人は多くないし何より12時には親が昼飯を食べるため帰ってくる。


私は仕方ないからそれまでネット掲示板をサーフィンする。

でもどれもこれも面白いものはない。


「昔のこいつらは面白かったんだけどな」


と少し不満をこぼす。


12時に玄関ががしゃんと鳴った。親が帰ってきたらしい。

しかし、ここで顔を見せればあいつらはまたぐちぐち言ってくる。


ここは空腹を抑えて我慢、13時ごろに再び家を出るからそれまでは息を潜める。

まるで…獲物を観察する鷹のように。


が、今日は違った。親が出て行った13時ごろリビングには何もなかった。


少なくともタウンワークのページと

"働かざるもの食うべからず"

というふざけた書き置きを除いては。


「ふざけやがって 腹が減っては戦はできねえんだよ はぁぁぁくそッ」


いくら嘆いても仕方がない。今日は昼飯抜きかいやひょっとしたら晩飯も…私の親のことだ。ひょっとしたらありえる。


___バイト探すか


フラフラと歩きながら雑誌を手に取る。

にしても紙のタウンワークなんて昭和の人は鈍いな。

今の時代Webページを調べればリアルタイムで情報が更新されて___


何だこのバイト


"㊙︎バイト高額報酬"

"短期バイト1ヶ月〜2ヶ月"

"報酬125万"


一つのバイト広告に目が止まる。初めは短期バイトの報酬125万というのに目が引かれた。

だが最も奇妙なのはこの一文。


"募集要項・就職経験がない方不登校の方"


不登校から卒業後ニート直行の私にピッタリじゃないか。考えるより先に応募した。


"応募者は2日後にM県蝋巻市南風3丁目12番地のビル4階の5号室にお越しください"


隣の町か、少し遠いな。でも125万は美味しい。あと数年はニートできる。


久しぶりに外に出る。化粧はしない。やり方を知らないから。

代わりに顔を少し洗ってジャージで出かける。我ながら最低限って感じだ。


面接場所の雑居ビルに来た。あっちこっちにシミがあって蜘蛛の巣も張ってある。正直汚いな


自動ドアを抜けて扉を開けるとスーツのメガネの男性とお姉さんが談笑していた。

こちらに気づいたメガネ男性は


「応募いただいた方ですか?」


「はい ネットで見て」


お姉さんは


「今回はご応募いただきありがとうございます」


とかしこまって言う


否応なしに面接が始まる。緊張はするが聞かれたことに答えるだけ。


「早速ですが学生時代は登校は___」


私は言いにくい顔で


「拒否 してました」


彼女は目を細めて


「それでは卒業後はバイトあるいは就職などは?」


私は罰が悪そうに


「したことがありません」


と答える。お姉さんは笑顔で

「応募条件ぴったりですね。ありがとうございます」


(何がありがとうなんだ…)


と思わず心の中で突っ込んでしまう。


男性の方が書類とペンと封筒を渡してくる。


「こちらのバイトは機密性が高いものです 誰にも話さないでください」


私はふと思ったことを口にする


「もし言ってしまったら?」


声のトーンを変えず


「我々があらゆる手段を持って情報を隠蔽します また然るべき処罰を受けますね」


怖すぎる。聞かなきゃよかった


「そしてここが辞退する最後のチャンスであり 最終確認です」


「誓約書の説明を始めますね」


「本件の内容を漏らさないこと 本件で起きた怪我の責任は負わないこと 本件の成功報酬は115万 前金は10万 準備などは10万から差し引いて使う事などが書いてあります」


(難しい漢字が多いな なんでもっとわかりやすく書かねえんだよ)


字を読むのに飽きて顔を上げると、手に持っている封筒。


(あの中に10万が?)


っと我を失いかける。


"雨坂 奈々"


久しぶりに字を書いた。印を押して契約完了する。

男性がこちらをどうぞを受け渡してくる。

1,2,3…10万円の封筒。しかもどれもピン札だ。

お姉さんが


「それでは明日は一次研修です。また同じ時間に」


と言ってその場は解散となった。


初めてのバイト代10万円。何に使おうかとホクホクした顔で帰宅。やましいことは無い。なんせ仕事を見つけたんだから。

母親には普通の短期バイトと言っているから派手に使う。


最近発売されたゲームや推しの配信者にスパチャ、気分はさながら石油王だった。


翌日、同じ雑居ビルにスーツの人とは別に十数人いた。

若いやつ臭いやつ頭が悪そうな奴が多い。


そんなことを考えていると奥から人がやってくる。前回のお姉さんとお兄さんとあとは知らない人だ。


「この研修の担当となります 津田です」


メガネの男性が自己紹介をする。

ごくシンプルな挨拶、その後スクリーンを下げてプロジェクターを起動する。


画面には同じ顔のごく一般的な男性の様々な写真が映る。どれも場所も服装も違う。

このバイトの内容はある人物を殺害してもらうことです。


「…は?」


いや、まともなバイトではないとは思っていたが、想像を超えてきやがる。


トーンを変えずに津田は説明を続ける。


「ここ日本では時折原因不明の不審な死や行方不明者がいます そしてそれらに関わる未知の存在 怪異」


「どこから来たのか何が目的なのか不明ですが明確に人を害をもたらします 我々はその怪異を捕獲あるいは殺害を目的としています」


目の前で手が上がる。質問は許されるらしい。少しでかい声で


「何でそれをバイトで探しんだよ」


頭悪そうな癖になかなか鋭い質問だ


「そうですね 当の怪異 マコト先輩はいわゆる先輩という概念を利用して認識を改竄します」


「そのため君たちのような就労経験がなく不登校な人間が最も改竄の影響を受けないからです」


確かに、理にかなってはいるが。あるのかよそんなことが。再び室内にいた皆がざわざわとし始める。


「静かに 説明を続けますね マコト先輩は見た目は173cmの一般日本人男性のようですが血を流さない 敵意緩和能力 記憶改竄能力があります」


「皆様にはそれぞれの店へ潜入していただきマコト先輩を殺害」


「その後死体を指定の場所へ移動していただければ大丈夫です」


(大丈夫じゃねえだろ)


と心の中で突っ込む。流れを止めて質問する。


「質問いいですか?」


「まず殺害ってのはまずいんじゃないんですか?」


「流石にバレると思う 次にこれマコト先輩って悪い人なんですか?」


私はぶっきらぼうに、言葉を選ばす連続で聞く

津田はメガネを掛け直して


「そうですね 放っておけば他の従業員もマコト先輩に変質します」


津田はメガネをクイッと掛け直してトーンを下げる。脅すような声で


「言い換えるならマコト先輩は増殖します」


「そしてマコト先輩の改変能力で死体やいない事すら目立つことはありません」


「それでは説明は以上となります」


再びざわつく皆飲み込めてないようだ。当たり前だ。いきなり怪異が何だと言われてもピンとこない。


別の男の人がネズミの籠を持ってくる。

ガシャンと机の上に置いた。同じようにどこからかナイフやハンマーを取り出し置く。


「これから試験を行う この試験に合格しなければ参加の資格はない」


一息置いて再三説明を始める。だが次の一言はレベルが違った


「内容はごく簡単___」


「このネズミを殺す事だ」

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