四季は時々咲き乱れる

文幸

第一章

第一話 桜は咲き乱れる季節 一

この世界は五百年前に壊れた。勉強ができない僕でも、それくらいは知っている。大戦争が起きて、文明という文明が全て消えてしまったらしい。

生き残った人々は、未来の技術で作ったタイムマシンを使って、戦争が起きる前の文明を少しずつ再築したよそのおかげで、人間はなんとか生きられるようになった…と、授業では習った。

西暦二七三〇年。僕は『和平国島わへいこくとう』に住んでいる。昔の呼び方では、日本という名前だった場所だ。

この世界には、神様が『見えるかたち』で存在している。きっと、科学の力で魔法まで使えるようになったせいだろう。

そんな、不思議な地球の物語。これはちっぽけで、だけど壮大な物語である。



黒髪を不器用に分けていて、少し癖っ毛。目の色は黄色っぽい。つり目とも、タレ目とも言いずらい目の形状。

かんなぎの服装をしている。中には黒いインナーを着ている。それが僕の姿だ。

森の陰に隠れている…まるでかくれんぼをしているような奴に声をかける。


ちらっと顔を見てきたのは白い狐。

先程神様が見えると言ったが、妖怪も見える。ついでにそれは霊感があるなどではなく、誰でも見ることができる。それも魔法とやらのおかげらしい。僕は彼が神なのか、妖怪なのか、よくわからない。大きな神様ではないらしい。


「なんだ。ご飯を求めているぞ。」

そう彼が言った。この白い狐…コンが、尻尾をフリフリとしながら近づいてくる。

「いや、お食事会があるらしくて、よければコンくんも来ないかなって。」

天邪鬼な彼だが、今日はついてきてくれるようだ。


改めて僕の名前は仁。苗字はない。孤児だからないっていうのが正しい答えだ。

年齢は、十六歳程度に見えるらしい。正確なものはわからない。

この場所は『伏見稲荷神社』って呼ばれている。

そして、ここの旧名は『京都』という。今の名前は『京師島けいしじま』という。

昔は…戦争が起きる前は、赤い千本鳥居が有名だったみたい。今となっては半壊状態。なんとか直そうとはしてるが、千本まではとても遠い。量産が簡単に出来るものでもないのだから難しい。

そんな世界でも、自然に囲まれていて、旅人にたまに話しかけられる日々は面白い物だ。

きっと戦前もそうだった気がして。


木々がゆらゆらと揺れる。ビューと風も吹く。寒すぎない風だ。

春が近づいているのか、植物が生えてきて。雪も溶けて姿を消していく。


「コン。今日はお食事会なんだけど、役人の方々との決め事みたいな感じみたいだよ。」

まるで友達のように話した。

静かな、だけど少し暖かい風が吹いて来る。

冷たい風と暖かい風が交差するように吹く。

春がきたと伝えるように。

人里離れた神社から、一般的な小狐ぐらいの大きさのくらいのコンを連れ、そのお食事会場に向かう。


山を降りていくとそこには、神職で僕を拾った張本人のおじいさまが待っていた。

僕はコンを抱きながら走っていく。

その近くには、まるで山車みたいな馬車が待っていた。馬車の馬は黒いが、所々に白い毛が混じっているように見える。

金色や赤などの縁起のいい色合いが使われている。

キラキラと輝きを放つ。僕はいつのまにか足を止めていた。その姿を見て、おじいさまは、にこにこ微笑む。恥ずかしいと思いながら、足を一歩一歩進める。子鳥のさえずりを聞きながら。


どんなお食事会なんだろうか、誰がいるのだろうか。そんなことを思いながら、おじいさまの後に続くように、対面に座り、その馬車に乗り込んだ。


キラキラと輝く装飾。音を鳴らしながら出迎えてくれる。

なぜかはわからないが、お茶菓子までついている。コンのためのいなり寿司まであった。

「あまりにも豪華すぎる。おじいさま、この山車みたいな馬車は一体。」

首をブンブンと動かすように隅々まで見る。だがその正体には気がつけない。

装飾を眺めていると、おじいさまが鼻で笑う。

「流石に子供すぎましたね。ごめんなさい。」

謝るがおじいさまは「良いんだよ。」と言いながら何かを渡してきた。

細長い木製の箱。重さはそこまでないため金属製ではないだろう。

「これはなんですか。」

目線は箱に釘付けのまま、恐る恐る聞く。

「首飾りだよ。魔除けみたいな意味だよ。」

古い箱だが装飾がほとんど剥がれていない箱を、ゆっくりと傷をつけないように開ける。

そこには、赤い首飾りが二本入っていた。それを確認し始めると、馬も準備が出来たのか、少しずつ動き始める。

馬のスピードは思ったより速い。

「片方はコンのためのもの。もう片方は仁。お前のためのものだ。」

「…チョーカーみたいですね。この結びは…二重叶結びですか。」

そしてその結び目の先には鈴がついていた。

歩いていると目立ってしまいそうだ。

「つけてあげるから少し後ろを向け。」

軽く後ろを向くと、おじいさまがぴったりのサイズの首飾りを僕につけた。

コンもご飯を食べ終わったらしく、おじいさまにお揃いの首飾りをつけられていた。

鈴の音は思ったよりも音がしない。

「おじいさま。僕たちは今どちらへ向かっているんですか。」

馬車が揺れる。スピードが上がる。いや、心臓が速くなっているからそう感じるのかもしれない。痛いのかもしれない。

そういえば僕こう言う乗り物苦手で早すぎると気分が悪くなることを思い出す。

心臓が痛い中思いもよらないことを言われた。

「天皇家だよ。」

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