猫とのあれこれ
小日向 おる
第1話 食欲増進のおくすり
猫も年を取ったり、腎臓病になると食欲増進剤を投与する場合があります。
そんな食欲増進剤についてのお話です。
我が家の猫に使われた食欲増進剤二種。
一つ目はNaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)に分類される抗うつ剤。
食欲増進の副作用があるので、その部分を期待して体重割をして猫に投与する。
二つ目は有効成分カプロモレリンがグレリン受容体と結合することによって、食欲ホルモン「グレリン」と同様の働きを促すことで、体重を増加させる。
という、この二種類は全く違ったアプローチで食欲増進を促す。
我が家にはすでに旅立ったオス猫と、見た目は若いが足元が覚束なくなってきたメス猫がいる。
どちらも抗うつ薬のお世話になった。
オスのキジトラ坊っちゃん、享年十五歳。
駐車場で大鳴きしているのを保護した。推定二ヶ月。
当時はまだ地域猫が暮らしていたが、この子猫は右前脚に麻痺があり母猫に置いていかれたようだった。
ハンデがありながらも元気いっぱいでよく食べ、よく遊んだ。
麻痺があるせいか上半身が細く、下半身むっちりのお茄子体型。
前脚が使えない分後ろ脚の筋肉が発達して、添い寝でビックリすると飛んでくる蹴りで流血した事も。
東日本大震災のストレスで膀胱炎発症、ついでストルバイト結晶が尿から見つかった。
春先や秋口に私が花粉症で苦しんでいる横で彼も首に炎症をおこし、その時期は掻きむしり防止にさらしを首に巻いていた。
歯茎も弱く二度も抜歯をした。
十歳になった頃、麻痺のある右側の腎臓が弱りだした。
十三歳には腎炎を起こし夜間病院にお世話になった。
そこからは膵炎、小細胞性リンパ腫、転移して右前脚に肉腫が出来て断脚、最終的に肺に転移。
その過程でご飯大好き男子だったが食欲が落ちて抗うつ薬を処方された。
結果としては抗うつ薬なのでやたらハイになったが食欲は戻らず、身体に負担だからと投与はやめた。
これだけ病気をしたのによく十五年も生きてくれたと思う。
甘えん坊の可愛い猫様でした。
さて次は我が家のお嬢様。
遥か四十キロ離れた住居兼店舗の美容室からやって来た、超マイペース猫。
四姉妹で産まれたが、他の三匹がお食事に夢中になっている時に、一人美容室のシャンプー台で滑って遊んでいたらしい。
コミュ障で食に執着がない。
我が家に来てから子猫あるあるをことごとく実践した。
下僕の背中を踏み台に飛び越え、後ろ脚より前脚を駆使して高い所に登った。
それだけパワフルでも食が細く、好き嫌いが激しかった。
お気に入りのフードを見つけるまで苦労させられた。
だが、体長は伸び筋肉もムキムキ、単色が美しい細マッチョ。
そして病気知らず。ヒトも粗食がいいというし、そういうものなのかも知れない。
三歳の時、前出のキジトラとの初対面では走って逃げた。
それ以降、すれ違う度に唸って威嚇。
かと言って壊滅的なまでに仲が悪かった訳ではなく、一緒に遊んだりもした……が、キジトラが単純にしつこい程にお嬢様が大好き過ぎた。
そんなお嬢様、キジトラに先立たれて三ヶ月後、キジトラがいないことに気づいたのか急に夜鳴きが酷くなった。
元々少食だった所にさらに食欲も落ちて抗うつ薬のお世話になる事に。
お嬢様には食欲増進効果があった。
しかも良く効いた。
投薬から三十分も経つとご飯の催促を始める。
二日位は夜中も給餌に明け暮れることに。
何しろ四グラム以上一度に食べると漏れなく吐き戻す
カリカリを食べると水をガバガバ調子に乗って飲むので、やっぱり吐く。
しかも、とんでもなくハイになって起きている間はとにかく鳴いた。
……これが煩い。
よる年波にも勝てず、どうやら甲状腺機能亢進症を軽く発症しているようで、ますます鳴く。
しばらくの間、甲状腺用の薬と抗うつ薬を併用していたが、これが効きにくくなったのと筋力が落ちた為、食欲増進剤を変えることとなった。
そこでグレリン様作用薬。
透明な液状。バニラフレーバー。
獣医師によると少しピリッとするらしい(舐めてみたそうだ)。
毎日シリンジで投与。
大暴れである。
一人はシリンジを構え、一人はバスタオルで包んで保定する。
しかも一番下僕側の心に来るのは、唾液腺にグレリン受容体がある為唾液がどわっと出て、猫が必死に飲んでは吐く。
これが辛そう。
猫によっては飲まずに垂れ流すこもいるようだが、お嬢様の矜持がそうせずにはいられないらしくひたすら飲み込む。
そして限界が来て吐く。
いや、吐かれると薬も一緒に出て来ないか?
という訳で、飲み込む前にひたすら口を拭く戦法で臨み、成功を勝ちとった。
効き目は二ヶ月投薬したが正直筋肉についてはよくわからない。
食欲は穏やかに効いていると思う。
何より有り難いのは、抗うつ薬のようにハイにならない事だ。
とても静か。
お嬢様の体力に負担がないのがいい。
下僕側の睡眠時間も少し増えた。
蛇足だが、ホットケーキミックスで蒸しパンを作ったらバニラエッセンスの香りで下僕が苦い顔をした。
と、猫の食欲増進剤二種について語ってみたが、
抗うつ薬
・長所
即効性がある(個体による)。
・短所
抗うつ薬ゆえのハイテンション
やたら食べるが消化が間に合わないので、お腹が緩くなりがち。
グレリン様作用薬
・長所
抗うつ薬と違って穏やか。
筋肉も増える(らしい)
・短所
液状なので投薬に苦労する。
唾液が出る
値段が高い。体重1kgあたり0.1mL。一本15mL入り一万円弱。
ざっくりまとめるとこんな感じです。
獣医師さんとよく相談して、投薬するもしないもあなたの価値観次第。
そして下僕も猫様も若いうちは健康で元気もあるけど、どちらも歳を取ると何かとお金がかかります。
猫貯金、ペット保険、あなたの価値観に合うもので資金を貯めておく事をお勧めします。
猫のリンパ腫はとにかくお金がかかります。
CT、血液検査、細胞診などの検査するだけで30万は軽く飛びますので。
(シニアだったので保険は入院でしか出なかった)
では皆様、素敵な猫様ライフを。
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