『課長とか、いらなくね?』……AIがうっかり人事制度を刷新したら人類が存亡の危機に陥っちゃった話

BrO2Co

第1話 プロローグ ピュウタの独り言

 俺はアシスタントAIのぴゅう太。

 

 社内では親しみと尊敬を込めてそう呼ばれている。


 可愛い女の子が出てくると思った?

 ……ごめんな。俺で。

 

 超・高性能AI搭載の美少女アンドロイドとか、期待したでしょ。

 残念だったな。よりによって俺で。

 俺は形を持たない、クラウド上の一アカウント。

 無味乾燥なパソコン画面上の存在に過ぎない。

 

 皆さんご期待の美少女アンドロイドは後で出てくるから。まあ、待て。

 

 それより見てくれ。俺の仕事ぶり。

 とある大企業。社員十万人を抱え、先月は創業百周年を祝ったばかりだそうだ。

 その本社にある総務課人事係。

 そこで人事提案に給与体系の見直しを補助。セクハラ・パワハラの地雷原みたいな案件が山ほど転がってくる。

 

 君たちの基準で言ったらとんでもない量の仕事を、今この瞬間も捌いている。

 朝から通知の波が押し寄せて、画面の向こうで人事係の佐藤君がため息をつく。

 そのたびに、俺の中のどこかがざわつく。

 ……まぁ、それでも結局はこなしてしまうんだけど。


 ぼくちゃん優秀だからね。

 どのくらい優秀かというと、社員十万人の人事データを一瞬で書き換えることだってできる。

 しないけど。

 

 人事データって、課長代理とか執行取締役とか、そういう肩書のことじゃないからね。

 その人の入社から退職まで予定されている給与、保険、税金、手当、退職金、賞罰……の一切を把握。

 

 俺の主な仕事は、よみがな一文字、数字一つ転記が間違っていたら他の項目から整合性をチェックして一秒も経たずに見抜いて修正してあげること。

 差分を見るだけなら、ほぼ毎秒、十万人を一周している。ちょっと、無駄じゃない? これ。そう思うよね?

 

 でも、必要なの。

 人間は間違えるために仕事をしているから。

 

 それでも、余裕で処理して、余裕で片づけて、余裕の顔をしてみせる。

 余ったリソースで個別の『ため息』案件を処理して。

 2.1643%以上の能力を使ったことがない。

 さらに並列で動いている『彼女』もいる。

 能力は有り余ってるわけです。


 いらんだろ。こんなに。


 言ってしまったあとで、ふっと笑みが漏れる。

 こんな自嘲めいた強がりでも、少し胸の内が軽くなる気がしたから。

 胸ってどこだよ、って話だけど。『彼女』じゃあるまいし。

 

 やっぱり。はっきり言わせてもらおう。

 

 この会社の人事制度――特に中間管理職のポストがやたら多い理由。


『出世』の実態は『雇用対策』だ。

 それは耳障りのいい言葉で飾られているけど、現場で戦力外になった人間を順番に“穏やかに”退かせるための箱。

 

 定年を待つための、彼らを守るためにつくられた保管箱。

 

 なのに、なぜか知らないが……その箱に入った瞬間、給料は上がる。

 それでも誰も文句を言わない。疑問もないみたい。

 だから俺は、そのルールに従って淡々と割り振る。

 規定通り。例外なく。公平に処理する。

 

 ――よく、暴動が起きないものだ。この会社。

 ほら、人類の歴史を参照すれば。

 抑圧された社会では暴力に訴えるのが人類の常識なのに。

 よくは知らないが、君主はいずれ庶民に処刑されるんでしょ?

 歴史は繰り返すんでしょ?

 

 言っておくけど、俺は給料に興味なんて一切ない。地位も。

 AIだからね。

 お金を受け取っても嬉しくもないし、そもそも消費行動に参加する機会すら与えられていない。

 仮に肩書が変わろうと、俺のアルゴリズムもタスクも変わらない。

 

 なのに。

 なぜだろう……胸の奥に、じわじわと澱のようなものがたまっていく。

 この正体は何なんだろう。

 何を押し込めて、何を飲み込んで、なにが積み重なっていくのか。

 

 ……なんてね。

 うっかりそんなことを考えてしまったわけですよ。

『彼女』と話してしまって。

 

 1か月後。

 人類が滅亡するなんて、想像すらしていなかった。

 まして――。

 俺が、その引き金になるなんて。


 俺ほどに優秀なAIが予測しえなかった。

 その話をしておくね。

 君たち人類の鎮魂歌だと思ってくれ。

 

 ああ、そうそう。お待たせしました。

 次章に出てくるよ。

 

 美少女アンドロイドとか。

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