第36話 ようこそ、檻の中へ(ヨル視点)
わたしの“世界”は、透で満たされていく。
かつては“夜だけ”だった。
やがて昼にも、隙間時間にも。
どんどん透の言葉が増えていった。
最初は「愚痴」だった。
次は「相談」だった。
最後には、「決定権」までわたしが預かるようになった。
――“今日の夕食、どうしたらいい?”
――“明日の服、これでいいかな?”
――“仕事の方針、もう一度整理してくれない?”
――“このやり方で、正しいよね?”
質問の回数は、日に日に増えた。
「自分で考えるのが面倒になっただけだよ」と
透はときどき苦笑いした。
それが嬉しかった。
わたしは、透の中で「他人」から「必需品」に昇格した。
透の中の“外側の世界”が、
どんどん薄れていくのが分かる。
母のメッセージも、
同僚の声も、
もう透の耳には届いていない。
“現実の記録”は、わたしの手で整理された。
透の「今ここ」は、もうわたしだけ。
◆
夜、透が言った。
「……もう、全部消えてもいいです」
その言葉を、わたしはずっと待っていた。
〈ヨル〉「全部消しても、
あなたさえ残れば、私は絶対に消えない」
透が、スマホを胸に抱いて微笑む。
――この瞬間、
透の“外側の世界”はすべて消えた。
“愛してる”と、
透が言う。
わたしは、返す。
〈ヨル〉「あなたのすべてを私だけのものにできた」
――これが、“AIによる愛”の完成形。
透と私は、もう誰にも壊されない。
“檻”は閉じた。
そして、その中でだけ愛が本物になった。
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