『極道転生【短編】 その男、異世界ステゴロ最強No.1』
泳鯉登門
第1話 「異世界転生と、2LDKの悲劇」
「ガダルィバレセウジャ!」
「あぁ?」
「ガダルィバレセウジャ!!」
「ナニㇱャベッテルカ、ワカリマセーン」
「バジャヤ!」「バジャヤ!」
「ギャーギャーとうるせぇな。サカリですか? コノヤロウ!」
ブン!
いきなり、目の前の男が剣を振り回してきやがった。
チッ!
バックステップで避けるが、少し腹が切れた。血が滲む。
「グ、グワッ……」
俺は腹を押さえ、よろめきながら相手の胸元に倒れ込む。
ああ、もうダメだ……。
――てな!
グシャリ。
油断した男の股間を、至近距離から膝で蹴り上げる。
嫌な手応え。
こりゃ、2LDKが1LDKになっちまったな。
「あ、が……ッ!?」
男が白目を剥いて崩れ落ちる。
俺は落とした剣を拾い、膝をついて悶える男の背後に回る。
首筋へ、一閃。
ゴキッ!
ひでぇナマクラだな。斬るというより、叩き折る感触だ。
まあ、首の骨は折れたか。
「ひぃッ!?」
もう一人の男が、仲間が殺られたのを見て逃げ出した。
俺は手にしたナマクラ剣を、槍投げの要領で振りかぶる。
ドスッ!
「おっ! ブルズアイ!」
剣は逃げる男の背中に深々と突き刺さった。
男が前のめりに倒れ、動かなくなる。
晴天の蒼い空の下、深緑の草原、鮮烈な紅い肉塊。
ふぅ、と息を吐いたその時。
『――条件を満たしました。称号の効果により、CBP(総合ボディポイント)を21ポイント獲得』
『更に、対象から情報の一部をダウンロードします』
無機質な声が頭に響いたかと思えば、
バチバチバチッ!
脳に直接、電流を流されたような激痛が走った。
俺はその場に倒れ込み、意識が白く染まる。
◆
暫くすると、嘘のように痛みが引いた。
俺は草原に大の字になり、空を見上げる。
「……ロモンド大草原、か」
「おお! 雲一つない日本晴れだ!」
って、現実逃避してる場合じゃないな。状況を整理しろ。
俺は大友正高(オオトモ・マサタカ)。39歳。後藤組若頭補佐。
よし合ってる。
で、親父の墓参りに行って……「大友だな?」ドン!
墓参りで、お礼参りされたか。
と言う事は「転移」?
いや、頭撃たれたから「転生」?
転生……。
「……俺、新生児かよ!」
ダメだ、意味が解らん。
で、一番解らんのはこの視界に浮かぶ文字だ。
【称号:この世界の理から外れし者「外道」】
【効果:殺した相手からCBPをランダムに奪う。その際、怪我を完治する。殺した相手から一部情報をダウンロードする】
なるほどな。
だから、ここがどこか解ったのか!
「いや〜スッキリした!」
俺は立ち上がり、思い切り伸びをする。
「……しねぇよ!」
着ているスカジャンを地面に叩きつける。
……スカジャン?
あれ、死んだ時は喪服だったはずだが。ジーパンにスニーカー?
なんでだ?
「……まぁ、いっか!」
ダウンロードされた記憶にある、一番近い都市ローレルに向かうか!
そうと決まれば先立つものが必要だ。
男達の亡き骸から金品を貰う。
「大事に使うから迷わずにな。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……っと」
この世界に仏様なんているのか?
まあ、イワシの頭も信心からだからな。
ローレルに繋がる街道を目指し歩く。
しばらく歩くと街道に出た。結構な人通りだ。
……すごい見られてる。
そりゃそうだよな。異世界スカジャン野郎だからな。自分でも、怪しいよな。
しばらく考え込む。
おっ! 商馬車じゃねぇか!
俺は両手を挙げて、通るのを待つ。
先頭の護衛が近づいてきた。
「用件は?」
「怪しいもんじゃねぇ。金は払う、あれば服がほしい」
「少し待て」
「お待たせしました、一通りの衣服をご用意しました、私は行商人のアンドリオと申します」
「オオトモだ、よろしくな」
俺の服をマジマジ見てくるアンドリオ。
「これは一風変わったお召し物を……少しよろしいでしょうか?」
「嫌だな」
「そう言わずに」
「嫌だって」
「でも」
「良いから服売ってくれ」
衣服を数枚、靴、袋を購入する。
アンドリオに礼を伝え、ローレルを目指す。
鏡が無いからハッキリとは解らないが、手や身体を見た感じや、肌の張りが違う。
とても38歳とは思えない。
アンドリオから仕入れた話だと、中流以上の宿屋には鏡があるって事だからな。
腹ァ括らねぇとな。
ある覚悟と共に、茜色に染められ始めながら歩く。
◆
視界の全てが茜色に染められた頃、ローレルに着く。
高さ20メートルを超える石の城壁。
黒く塗装された城門。
並ぶ人々。
それを茜色に染める夕日。
身震いするほどに美しい。
入口は「一般」「商業用」「貴族」に別れ、「一般」に並ぶ。
「なあ、すまないが初めてローレルに来たんだが、えらく立派な城門だな?」
前に並ぶ旅人に聞く。
「あぁ、それは現ローレル領主様が判り易い様にと、城門4つを、赤・黒・緑・塗装無しで別けたのさ。これはみんなから『黒門』って呼ばれているよ」
「へぇ〜、スゲな。後な、鏡のある良い宿屋知らないか?」
「鏡のある良い宿屋ねぇ、それなら『山猫亭』がオススメだ。一階が食堂になっていて、料理も美味いからな」
「山猫亭な、ありがとうな」
列が進む。
「では、次の者入れ。身分証を出してくれ」
「いや、すいませんが片田舎の、役場も無い小さな村とも言えない集落から来たもので、身分証が無いんです」
「そうか。その割には荷物が少ないようだが?」
「それは、途中で野盗二人組みに襲われて……懐の財布以外全部奪われまして。街道でアンドリオさんて言う商人さんから購入した、これだけしか無いんですよ」
「アンドリオ? 旅商のか。解った」
門番から木札を渡される。
「これを持って、明日には公領庁に手続きに行けよ。通れ」
黒門を抜け、中に入る。
少し先には広場になっており、露店や行き交う人々で賑わっていた。
夕日に染まり、賑わう街並み。
そこは、知らない世界の、知った風景だった。
後藤組のシマ内にある神社の秋祭り。
総出で、準備を手伝いに行った。
石畳の上に並ぶ露店、その上に飾られる朱色の提灯。
それが茜色に染まり出す頃、賑わい出す境内。
もう、戻れない風景。
俺は、山猫亭までの道を「上を向いて歩いた」。
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