第30話 終わる夏
運動して腹ペコになった俺たちは、バーベキューをするため黙々と準備をしていく。
具材や材料は爺さんが車で持ってきてくれた。
「腹減ったな~、もういけるだろ」
爺さんは用事あると言ってどこかへ行ってしまったので、変わらず五人で網を囲っている。
そして我慢できなかったのか、焼き始めたばかりの肉をジャノメ先輩が取ろうとしたその瞬間。
「まだ駄目だよ、ジャノさん」
「いやあたしは腹強いからだいじょ――」
「駄目だよ」
「いや」
「だ・め」
テンちゃんがジャノ先輩を笑顔の圧力で制した。
(テンちゃん強い……!)
「ジャノ諦めろ。 食に関しては誰もテンに敵わないさ」
「テンちゃん……意外と奉行なんだね」
「ああ、まあ優秀な奉行だから任せておいて間違いない」
テンちゃんは料理が得意なようだ。
確かに食べるなら美味しい方が良いに決まってる。
しかしこれはバーベキューだ。
みんなでワイワイしながら、取った盗られたで言い合ったり、焦げた、美味い、まずいなどで言い合うイベントだと思っていた。
(だけどこれじゃ、ただのシェフ随伴の外食だよ……)
俺は何とも言えない気持ちになりながらも、焼いただけなのに驚くほど美味な食事を味わう。
「チギリこれ美味しいぞ」
「チギリくん玉ねぎ好きだよね、あ~ん」
「そこ、食事中にイチャイチャしない」
テンちゃん は天真爛漫なイメージだったけど、意外と世話焼きで家庭的な一面を知って、俺はママみを感じてしまうのであった。
その後、俺たちはスイカ割りしたり、海に入ったり、木陰で休んでおしゃべりしたり、砂浜で城を作ろうとして失敗したり、時間が許す限り夏の海を目一杯楽しみ尽くすのであった。
そして俺は防波堤の端っこに座り、心地よい疲れを感じながら沈む夕日を一人で眺めている。
「チギリくん? もう戻るって」
セイカはそう言いながらも、俺の隣に腰を下ろした。
「……今日、楽しかったね」
「うん」
「トラブルはあったけど、私ここに来れて良かった。 だから誘ってくれてありがとう」
「うん」
「それに……助けてくれてありがとう」
「うん」
セイカが何か言って、俺が相槌を打つ。
そんなぎこちないやり取りをしていると、視界の端でセイカがもじもじしている姿が映った。
「ごめん、ちょっとぼーっとしてて……どうした?」
苦笑いしつつ言うと、セイカは嬉しそうにほほ笑んで上目遣いで両手を合わせた。
「お願いがあるんだけど……部活の合宿に人が足りないから、少し手伝いに来てくれないかな?」
「部活って女子バレー部だよな……男が混じるのってアカンのでは……?」
セイカの提案を受けるつもりはない。
しかし断り文句の前に、純粋な疑問が思わず口から出てしまった。
「ははは、実は合宿って言ってもそこそこ緩い感じなんだよね。 それでみんな一人二人くらい友達とか彼氏とか連れてくるから……できればチギリくんに来て欲しいなって」
「ああ、そういう」
それで俺に声を掛けてくれたのか、と思うと嬉しさが込み上げてくる。
今までだったら絶対誘いに乗っただろう。
望まれて参加する男女混合の合宿なんて優勝確定のイベント、行かないなんてもったいない。
しかし俺には先約が――イカイとの契約がある。
「ごめん!! 実は夏休み結構忙しくなりそうで、参加できない。 行きたいんだけど本当に申し訳ない、ごめんね」
「……え? あ、うん。 ならしょうがない、ね。 うん。 別の子誘うからそんな謝らなくて大丈夫! 気にしないで!」
結果的に楽しんでくれたから良かったものの、島に付き合ってもらったから出来れば協力したかった。
(ごめん、セイカ)
本来であれば残りの夏休み、セイカともっと色んなとっころに行ったりして想い出を作れたのかもしれない。
その未来は、あの瞬間なくなったのだ。
だけど後悔は――ない。
俺の夏休みが、モラトリアムがまもなく終わろうとしていた。
○
「……私、嫌われた?」
海から戻ってきて、私――セイカはベッドに体を投げ出してため息を吐いた。
「いやいや、そんな感じじゃなかった……よね。 極端に考えるな、変にネガティブ良くないね」
断られたのはいい、突然誘ったのだから当然だ。
だけど昨日からチギリくんのふとした時の表情が、憂いを含んでいる気がして、用事とは何か違う特別な事情があるんじゃないかと思ってしまう。
(なんだろう……あ)
どこかで見覚えがあると思って考えていたら思い出した。
「お休み最終日のお父さん、みたいな」
惜しむような、それでいて何かを受け入れたような、そんな表情だ。
「理由は分からないけど……嫌われてるわけじゃないならっ――」
私は跳ね起きると、チギリくんのいる部屋に突撃に向かう。
「たのもーう!」
「うえ? ちょ、ノックしてぇ!!!?」
「あはは、今日は寝かさないよ」
そして驚いているチギリくんにニヤリと笑って、私は最後の最後まで楽しもうと彼を巻き込むのであった。
私はこの旅をまだ終わらせたくない。
惜しむように、浸るように、私は残りの時間を過ごす。
願わくば、チギリくんも同じ気持ちでいてくれたら――。
そして翌日、私たちは家へと帰る。
結局、全員夜更かししたためみんな居眠りしている静かな船旅となるのであった。
○
島から家に帰り、自室に行くとイカイが待っていた。
「おかえり。 最後の夏は楽しめた?」
「お待たせ。 おかげさまでね」
俺のベッドに座って読んでいた漫画本を置いて、イカイは手を差し出した。
その手が誘うのは終わらぬ戦いの日々。
先にあるのは地獄か、救いか。
ただセカイたちと出会ったこの数か月よりは、孤独になるのは間違いなかった。
「行こう」
後ろ髪引かれる想いを振り切って、俺はイカイの手を取るのであった。
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二章タイトルの合宿は、展開上やめましたすみません。
感想ありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。
今は執筆を進めることを優先しているため、落ち着いたところで修正していきます。
カクヨムのコンテスト終了まで三週間、年明け忙しいですが頑張って投稿していきますのでお楽しみくだされば幸いです。
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