第21話 泥船からの脱出と、勘違い社長への「契約解除通知」

【カイの視点】

 エリナによる買収から半年。

 ついに、例のインフラ会社(俺の元・雇用主)の精算日がやってきた。

 本社ビルの会議室。俺は「再生企画室長」としてではなく、K&Rソリューションズの代表として、かつての仲間たちと向き合っていた。


 目の前にいるのは、高木(たかぎ)班長率いる、現場叩き上げの精鋭チームだ。  彼らは不安そうな顔で俺を見ている。


「……というわけで、高木さん。この会社は今日で解散になります」


 俺は単刀直入に告げた。

 ざわめきが広がる。だが、俺はすぐに新しい契約書をテーブルに滑らせた。


「ですが、皆さんにはK&Rの専属チームとして移籍してもらいたい。……給与はドル払い。年俸は今の3倍です」


「さ、3倍!?」


 高木さんが目を丸くする。

 彼らの技術(現場力)は、世界基準で見ればそれだけの価値がある。

 今までが安すぎただけだ。


「おい! 何を勝手なことをしているんだ篠田ァ!」


 突然、会議室のドアが乱暴に開かれた。

 怒鳴り込んできたのは、この会社の社長だ。

 顔を真っ赤にして、俺に掴みかかろうとする。


「貴様、会社の社員を勝手に引き抜くとは何事だ! 恩を忘れたか!」


 俺は冷静に、彼の手を払いのけた。


「社長。……いや、元社長」


 俺は冷めた目で彼を見下ろした。


「『恩』? 笑わせないでください。あなたは彼らを社員として守ろうとせず、都合よく『個人事業主(委託)』として切り捨てたはずだ」


 俺は契約書の束を叩いた。


「彼らはフリーランスだ。誰と契約しようが彼らの自由。……今まで安値でこき使っておいて、いざ逃げられそうになったら『社員扱い』するなんて、虫が良すぎるでしょう」


「ぐっ……! だが、彼らが抜けたら現場が回らん! 損害賠償を請求してやる!」


 社長が喚く。

 かつての俺なら、この恫喝に怯えていただろう。

 だが今は、哀れな負け犬の遠吠えにしか聞こえない。


「どうぞ。……ただし、相手はエリナ・クロフォードになりますが?」


 その名前を出した瞬間、社長の顔から色が消えた。

 親会社(オーナー)に喧嘩を売れるわけがない。


「……高木さん、行きましょう。泥船は沈みます」


 俺は背を向けた。

 高木さんたちは、顔を見合わせ、そして決意したように社長に一礼すらせず、俺の後ろについてきた。


「ま、待ってくれ! 給料は上げる! いや、正社員に戻してもいい!」


 背後で社長が叫んでいる。

 だが、誰も振り返らなかった。  「正社員」という言葉が、もはや何の輝きも持たないゴミ屑だと、全員が知ってしまったからだ。


「カイ、ありがとうな……」


 エレベーターホールで、高木さんが俺の肩を叩いた。その手は震えていた。


「礼はいいです。……これからは、世界中があなたたちの現場ですから」


 俺は微笑んだ。

 こうして、俺たちは「高木チーム」という最強の現場部隊を手に入れた。

 K&Rソリューションズは、もはやただの偵察部隊ではない。

 実働部隊を抱える組織へと進化したのだ。



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