第14話

 この魔女は、と呆れる。肝心なことを言わないのは今に始まったことじゃない。無茶ぶりも、今は大したことはない。それでも、たまに起きる急なお願いには、何らかの意図が紛れ込んでいた。

 今回の件も、そう言ったたぐいのものだろう。


『ウグちゃんったら、すっかり感が鋭くなっちゃって』

「御託はいいから。本題」

『そうね。世界崩壊まではいかないけれど、その国一つは滅びるわ』


 予感があたり、でかいため息をついて天を仰ぐ。

 どうして制服が見たいなどという理由で学園に入れた。普通に言ってくれたらよかったものを。


『そうそう、ウグちゃんがくれたお土産ね、ヒエロがすごく喜んでたわ~。後でお返しをするって』

「変なものじゃないことを祈るよ……というか、重大なことを簡単に流すな!」

『あら~』


 国の危機であるというのに、なんてことない反応をするルドに、思わず突っ込む。

 この国に住んでいる魔女はウグともう一人だと聞いているが、国がなくなると行く当てに困ってしまう。何としてでも阻止しなくてはならない。

 別に、この国の人間に情があるわけではないが。


『うーん。詳しく言ったら未来が変わっちゃうから言えないのだけれど……』

「言える範囲でいい。私は国の崩壊を止めるために必要なのだろう」

『そうねぇ…………あ、あの子。ピンクの髪の子に気を付けること。それと、誰も傷つけないこと。あと、友達を大切にすること。そして、ちゃんと三食食べて、早く寝て、運動して……』

「関係ないことを言うな!!」

『もう、ホントのことよ!あと、起こした問題はちゃんと自分で処理すること!』

「起こす前提か!」

『起きるのよ!!!……あら、言っちゃったわ』


 ごまかすように笑うルドに、見えないだろうが手鏡越しに睨みつける。もうこの先、問題がずっとまとわりつくことが確定した。何ということだろう。

 こうして話しているだけで疲れてくるウグは、ルドに少しだけ感心する。人を精神的に疲れさせる力を持っている。


『まあ、そういうことだから、頑張って頂戴ね。私もそっちに行けたらよかったのだけれど』

「私でなくとも、もう一人の魔女がいるはずだが。そちらではだめだったのか」

『ええ。そのままにしても進展はなかったわ。そもそも、学園内にいるわよ』

「は?」


 今度は少しうれしそうな笑い声だった。

 してやられた。そう思った。


『じゃあね~いつかぜっっっったいに行くからね~~~』

「くっ、来るな!」


 手鏡につかみかかるが、もう通信は切れたようで何の反応もなかった。

 怒りに顔を少し歪ませるが、目を閉じてため息をつく。そうして目を開ければ、落ち着く。もはや、ルドのことで怒り狂うのは意味のないことだと理解してしまっている。深呼吸をして、椅子に座る。

 いつもより疲労が激しい。慣れない運動と、ルドとの会話のせいだろう。

 仕方なく手鏡を机の上に置き、一息つく。

 力なく腕を下ろすと、杖に少しふれ、顔を向ける。白銀の杖は、静かにケースに収まっている。

 ウグはおもむろにそれを取り出し、ぎゅっと握る。まるで、それに縋るように。


(私は――――)


 このような姿は、誰にも見せられない。そもそも、してはならないと考えている。

 こんな、弱い姿は、〈魔女〉ではない。

 それでも、もう少しだけこのままで―――。誰に対してかわからない祈りをささげた。

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