第10話
ウグとトランスは授業終わり、図書室に集まった。
備え付けられている机に集まり、教科書を広げて勉強をしている。ただ、一方は課題を終わらせ別のことをし、一方は課題に追われていた。
「……ねえウグ、さっきの魔女さんは誰だったの?」
トランスは頭を抱え、困った顔でウグに声をかけた。ウグはそれに対しため息で返す。
「もう飽きたのか?もう少し頑張ってみてくれ」
「うぅ……いや、現代の魔女についてって大切だと思うし?ちょっと休憩がてら聞いてみたいな~?」
目で訴えてくるトランスに、仕方がないと言わんばかりにペンを置く。何を話せばいいかを考えている間、トランスはいそいそと教科書などを整理しておく。これ以上はもう勉強をしないという固い意志だ。
ウグは机に裏返しておかれた手鏡を無意識に触りながらルドのことを思い出す。
先ほどのことを思い出してイラついて、手鏡を握る。
「……先ほどの魔女は、私の師でもある二十二番目の魔女ルドだ。節操なしでなんでも自分の好きなように動かすうえですべてが急。森で過ごしているくせして世界の事情に詳しい」
「なんか、変な人?」
首を傾げ、純粋な疑問をぶつける。ウグはそれに深くうなずき、言葉をつづける。
「魔女の個人なんてそんなもんだ。聞いても無駄だな」
「じゃあ、魔女についてもっと詳しく聞きたいな。確か、面倒なことがいろいろあるんでしょ?」
「ああ。魔女の制約かな?魔女が持つ力を抑えるため、国とかわした制約があってな……合計すると頭がいかれるほどの数がある」
「どれくらい?」
「言っても、五十くらいか?まあ、その中で重要な三つを覚えていれば大体は大丈夫だ」
そう言って、ウグは三本指を立てる。立てた指を一本ずつ数えて折っていく。
「三名以上が明確な意思をもって一つの国にとどまらないこと。国の問題時には必ず力を貸すこと。人の形をし、意識を持った生命体を殺さないこと。これだけ覚えていれば、何とかなる」
「へぇー。そういや、魔女って世界を滅ぼせるって聞いたけど、それって本当?」
「ああ、本当――――」
「君たち、少しいいかな」
声をかけられ、ウグは振り返る。その姿を見て、トランスは驚愕の表情をした。その人の正体は、バイカ・ヒーメロス。この国の王子だ。なんと、そばにはあのアザレアがいる。
面倒ごとの気配を察知したウグらは、何を言われるか身構えた。
絶対にろくなことではないことは確かだ。
「公共の場に魔女と忌み子がいると集中ができない、と苦情が来ましてね。のいていただくと助かります」
「そうよ。視界に入らないでほしいわ」
詰められたが、ウグにとってはいつものことなので何も感じない。それよりか、王子、お前もかという気持ちが強い。トランスは隣で疑問が生じている。
(忌み子?誰のことだろう)
結果的に言えば、二人にはノーダメージだった。
それでもこの状況を何とかしなくてはならないので、ウグは黙って机に広げていたものを片付け始める。その様子を見てトランスはまとめていた教科書類を持って立ち上がる。
さっさと退散しようと立ち上がると、バイカが目を細める。
「――礼儀を知らないのか。魔女も、それにつるんでいるものも、程度が知れている」
「――」
「その紙束も、何かやましいことを書いていたのではないか?」
「――――はぁ?」
黙って退散しようとしたが、煽りに乗ってしまった。背を向けていたが振り返り、王子を見る。
聞いてあきれる。こんなものが王子とは。
「――礼儀を説くならば、そちらのお嬢さんに言った方がいいですよ」
「は?なんで私なんですか!」
思わず口を押える。うっかり口が滑ってしまった。
これはウグが、アザレアに対して普段から思っていることだ。目上の人にもため口で、礼儀を知らぬ行動を繰り返す。先日は婚約者のいる男子生徒と過剰な接触をしたりと、問題行動を起こしている。ただ、受け答えとしてはもっとも最悪なものを選んでしまった。
思った通り、アザレアは顔を真っ赤にさせて、今にも叫びだしそうになっている。
ウグは素早くトランスの後ろに隠れ、盾にする。トランスがギョッとした表情をしたが、今は一刻を争うので頭の中で謝っておく。
「そもそも、何で部屋の中から出てくるんですか!疎まれてることくらいわかっているくせに!」
「あのー、僕が言っときますんで、今日はこれくらいに……」
「人の後ろに隠れて。魔女としての自覚がないですよ」
「えっとー」
非常に困って反論すら許されない状況になってきて、焦る。だんだんとエスカレートしていき、アザレアの声が大きくなる。
トランスがウグに助けを求めようとしても、背中に隠れて姿を見せようとしない。
「魔女なんて完全に悪役のくせに―――!」
「――すみません。図書室では静かにしてください」
図書委員の生徒が、止めに入った。気づけば、その場にいた生徒の視線をすべて集めており、うっとおしそうな顔をしていた。図書委員の生徒も眉をひそめてバイカとアザレアを見ていた。
その視線に、バイカは平然とした顔で対応する。
「すみません。彼女が興奮してしまったようで。魔女がここにいては、皆さんもお困りかと」
「魔女……?」
訝しげな顔をして、首をかしげる。
「そんなの、どこにもいませんけど……」
「は」
一瞬でトランスの後ろに視線が行く。そこから出てきたのは、おおよそウグとは思えない風貌の生徒だった。
青く輝くロングの髪をおろしている、銀の瞳の少女。その雰囲気は儚げであり、少し困った顔で顔を出した。
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