佐藤シナが感情に身を委ねた結果
都内某高速道路。
二トントラックにて、犯人グループは逃走中。
「クソっ!
「いや、弾は本物だ。天使の障壁を貫通してただろ。だが障壁を貫通した際に、弾の軌道がわずかにズレた。それでも標的に向かって行ったが、肉の壁に阻まれたな」
「クソ! 次は確実に仕留めてやる!」
「……じゃ、じゃあ今すぐ仕留めてくれよ……」
「は?!」
「追いかけて来てる……」
「何が?!」
「あのガキだよ!!!」
中央の席に座っていた男は、トラックに仕込んであるカメラで背後を見る。
見ると背後を走っているのは車ではなく、素足の人間――自分達が殺そうとしていた青年だった。
「馬鹿な!? 時速百キロ出してんだぞ!!! 天使の力か?!」
「いや、あの天使は速度に特化した力じゃなかったはずじゃ……」
「じゃあこの状況をどう説明すんだよ!」
「うるさい! ブラフロス! 荷台を開ける! 蹴散らせ!」
トラックの荷台が開く。
入口を埋めるような巨体が出て来ると、翼を広げて飛び上がった。
「もう俺様の出番かよ。人間どもはだらしねぇなぁ」
トラックの荷台に降り立った悪魔――ブラフロスは大きく開いた口から何かを吐き出す。
それは粘土とセメントを混ぜたような液体であり、それらが自立して人型になって固まった。
悪魔によって作られた
飛び掛かって来た
爆風を目くらましに駆け抜けたシナの足は遂にトラックを追い越し、飛び膝蹴りで咄嗟に銃を構えた中央席の男へと飛び込んだ。
それでも尚銃口を向けようとする男の腕を掴み、折り曲げる。
このまま男を蛸殴りにしようとするが、先に助手席に乗っていた男が発砲。
銃撃を躱すために外に出るしかなかったシナは、高速道路に投げ出されながらすぐさまトラックを追い掛ける。
「い、生きてるか……?」
「んの、やろ……ぜっれぇ……ぉろす……」
鼻は陥没。
前歯は上下共に四本ずつ折られ、顔面は血塗れの惨劇だったが、男は辛うじて生きていた。
「ブラフロス! 甘い仕事してんじゃねぇ!」
「黙れ人間風情が! 黙っててめぇは運転してろ――!?」
鉄を抉るように刺さる指。
自らを引き上げたシナは悪魔の前に立ち、獣のような牙鳴りを聞かせていた。
「てめぇ……人間風情が、この俺に牙を剥けるか。自惚れるなよ、雑魚が!」
「5、6、3!!!」
両者の間に立ちはだかる
だが、シナはそれらを全て凍らせ、氷塊にした次の瞬間に爆破。
連続攻撃によって脳を揺らされ、高速で流れていく景色がドロドロに溶解していく中、シナは首に足を絡め、両手を絡めて振り下ろす。
振り下ろされた拳を受けた脳天が炸裂。頭蓋を曝け出しそうになるほど削られた頭を押さえながら悪魔が倒れようとするが、後ろから何かに支えられる。
辛うじて振り返ってみると、シナと同じ形の
「コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ……!!!」
「てぇめぇえええぇぇぇ!!!」
振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。
爆発。爆発。爆発。
両拳を固めて振り下ろす度、ブラフロスの頭が爆発する。
自分を見上げる眼球を鷲掴むと同時に爆破。目を蒸発させられて悲鳴を上げる悪魔の口内に氷塊を突っ込むと、
頭を再生させたブラフロスが氷塊を噛み砕くと、自分の足にへばりつく氷塊を砕こうとするが、そんな暇など残されていなかった。
目の前に広がる、シナの形を模した大量の
本物のシナは跳び上がって視界を塞ぐ
「2、5、0、0、3……!!!」
「おまえ、一体何なん――?!!」
今までの規模を遥かに超える勢いでの爆発。
氷によって冷やされていた空気が、爆発の炎で以て一気に膨張。水蒸気爆発の何十倍という威力を叩き出し、トラックを宙に跳ね上げ、高速道路から外へと突き落とした。
落ちた先の樹海がクッションとなり、更にはハンドルから出たエアバッグにまで守られた運転手は、さっきまで生きていた男の全身にガラスが突き刺さっているのを見て、絶命を察する。
ブラフロスの気配も感じられない今、自分だけ助かったのかと安堵の吐息を漏らした瞬間、天井に穴が開いて伸びて来た手が男の襟首を掴んで引っ張り上げた。
「3? 4? 9? 10……?」
唇が震え、舌が麻痺して上手く言葉が発せない。
するとわざと黙ってると思われたのか、男の顔面にシナの鉄拳が叩き込まれた。
「3? 4? 9? 10……?」
「あ、あぅ……」
再び鉄拳が刺さる。
鼻が折れ、前歯も折れた。
だがまだ、血塗れの拳は止まる事を知らない。
「3? 4? 9? 10……?」
「な、何を言ってるのか――!!!」
「3? 4? 9? 10……?」
「だ、だから……言葉、が、わから……な――!?」
問われ、答えられず、打たれる。
これを延々と繰り返される。
一人だけ助かった事に安堵したが、自分だけ地獄に残された事を教えられる。
「調子に……」
「ブラ……」
「乗るなぁぁぁあああ!!!」
消滅していたと思っていたブラフロスが奇襲するが、その前にシナによって爆殺される。
ほんの一縷の望みを見せられて跡形も無く滅せられた男は、遂に感情が崩壊した。
「た……けて、くぁ、さ……ぃ……たすけぇくぁさぃぉねあいします……おね、が、ぃ……た、す、け……?!」
「3、4、9、7、1」
「シナ!」
最後に拳を突き立てたシナへと、ルシフェルが飛び付く。
ルシフェルは彼の襟首をシナに離させ、もう殴れないように抱き締めた。
「ルシィ?」
何で泣いてるの、と問いかける。
ルシフェルは答えない――いや、答えられなかった。
シナと出会った時、見た光景。
一方的に蹴られるシナと、感情のままに暴力を振るう彼の父。
抵抗する力もないのかなと最初は思ったけれど、自分を見つめる隻眼を見た時に知った。
抵抗する力がないのではない。
抵抗する気力がないのではない。
抵抗する術を知らないのだ。
抵抗する、という事そのものを知らないのだ。
愛を知らない。
自分が受けている物を暴力だと理解していない。
自分が両親に愛されていない事さえも知らない。
そんな彼が、染野の怪我に激怒し、初めて感情を発露した。
愛故の憎悪。愛故の憤怒。
そうして感情を発露した彼の姿が、皮肉にも彼の父親と重なって見えた時、ルシフェルはこのまま彼に暴力を振るわせる訳にはいかないと飛び込んだ。
そんな彼女の葛藤を、シナは知らない。
自分の姿が、かつての父親と重なって見えたなんてわからない。
だけど自分と相手の間に入ってやめてという彼女を剥がしてまで、相手を殴ろうとは思えなかった。
「6、4……ルシィ。ルシィ」
その後暫く、ルシフェルに抱き締められて動けないシナは、自分が今まで何をしたのか忘れてしまったくらい元に戻ってしまって、二人はずっと動けなかった。
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