第十三話『約束』
「――――ミネカ!! 何でここに!!?」
練習終わり、突然現れた憧れの少女に仰天する翔英。
まさかこんなすぐに会えるとは。
「ショウエイさんに挨拶をしようと思ってきました」
「挨拶? ……なんの?」
身構える翔英を他所に、何やらミネカとガロトが聞こえない声で話し始めた。
「なんやねんそれ!!」と、心の中でエセ関西弁ツッコミを入れながら、不満な様子を見せる。
すぐに二人の話は終わったが、今度はミネカがガロトに頭を下げ始めた。
ガロトは彼女をなだめているようだった。
何の話をしているのか気になってしょうがない翔英は、二人に近づいていく。
「すまない。彼女のことを兼ねて、話の続きをするから聞いてくれ」
しかし、ガロトが翔英を止め、また話を始める。
「ミネカのこと」と言われ、先の不満は消え失せた。
「――――先程言った通り、午後一時に本部に集合だ。現地集合の方が早いのだが、ショウエイはこの国についてあまり知らないらしいからね。今回は全員で向かうことにする。そしてメンバーは私とショウエイに加え、三軍のリュノン、それから、そこにいるミネカの四人だ」
「えっ!!!? ミネカも一緒なんですか!!?」
「挨拶」ってそう言うことか。
いやそれよりも、まさか『ミネカと共に戦う』という目標がもう達成できるとは。
予想外の展開に驚きながらも、それ以上に喜びと安心を滲ませる。
「私の元々あった任務とショウエイさんの任務が合同になったらしくて、一緒に行けることになりました!」
「調査はペアで行くことが多かったのだが、前のようなことがあってはまずいからね。魔物の動きも読めない。だから出来る限り、二軍以上二名を含む、四人体制にすると決まったんだ」
「そうだったんすね! ガロトさんとミネカが一緒なんてめっちゃ心強いです!!」
すっかり体力が戻った翔英は、ミネカの治療技術、ガロトの圧倒的な実力を知っていることもあり、本心からの言葉を出した。
聖鳳軍では親交の深い二人と共に行けることも嬉しい。
ヒナノの進言のおかげということは忘れていたが。
「あ、あともう一人はどなたでしたっけ?」
「ああ。リュノン・アーリー。そうだな……君と同い年くらいの男で、気のいいやつだ。まあ、実力も申し分ないし、頭もいい。今の三軍の中では、一番強い」
「きっと、すぐに仲良くなれると思いますわ。どこか少し、雰囲気が似ていますし」
ミネカがそう言うなんて会えるのが楽しみだ。
同い年ぐらいの同性の友達、こっちに来てから一人もいないし。
休みの日、気軽に会えるような、何かを相談できるような男友達が欲しかったところだ。
「…………ガロトさん、もうちょっとだけ付き合ってくれませんか? 一番弱いのは俺です。だけど……少しでもみんなの役に立ちたいんです」
ミネカの同行を受け、翔英にやる気が出てきたようだ。
明日までにできることをしようと、修業の再開をお願いする。
「そうか……今日は解散にしようと思っていたが、君がそう言ってくれるなら、いくらでも付き合おう」
「私もお手伝いしますわ! 傷ついたら私が治します!」
こうして、三人による鍛錬が始まったのだった。
これまでと同じように、ガロトの攻撃をひたすら受け続ける。
さっきと違うのは、ミネカの存在だ。
彼女がこの場にいることが、翔英の精神と肉体を奮い立たせた。
負傷すれば治療し、倒れれば激励を送った。
彼女は翔英の心も癒していた。
訓練はさらに一時間以上、空が暗くなるまで行われた。
「……ここまでにしよう。ミネカがいるとはいえ、これ以上は明日以降に響くだろう。それに、ミネカも休ませないとな」
「……はい……ありがとうございました……ミネカもありがとう。ちょっとだけ見えるようになったかも。……見えるだけだけど……」
「いえ、ショウエイさんの動きが変わっていくのが、見ていた私にも分かりましたわ」
「そりゃ嬉しいや。……うん、俺頑張るよ」
「……ショウエイ、今日の君の努力は君の大きな力となっただろう。だが、君はまだまだ未熟だ、そして若い。だから、我々を頼ってほしい。君の隣には、我々がいることを忘れないでくれ」
思いがけないガロトの優しい言葉に、心打たれる翔英。
翔英の不安という冷たい気持ちに、マフラーを巻かれたような気がした。
ガロトへの挨拶が済んだ後、翔英はミネカと共に、修練場を後にした。
その帰り道、
「……なあミネカ。ちょっとだけ話していかない?」
「ええ、構いませんわ。では、あちらで……」
二人は本部の側の休憩所へと入り、席に腰を掛けた。
他に人はいない。
完全に二人だけの空間だ。
翔英がそわそわしていると、ミネカの方から声を掛けた。
「さっきのショウエイさんの姿を見て、あの時のことを思い出しましたわ。輝く剣を片手に懸命に戦う姿……とてもかっこよかった」
顔を上げる翔英。
ミネカに目を向けると、自分にはもったいないくらいの笑顔を浮かべた彼女の姿が映った。
数秒合った目をそらした後、翔英も口を開く。
「――――そんな風に言ってくれるのは嬉しいんだけど、その言葉は俺よりミネカの方が似合うな。今日だってミネカがいなかったら、とっくに限界だったし。あの時だって、初めて会った時だってずっと助けてもらってきた。ミネカにはホントに感謝してる」
ミネカは不思議そうな様子で、
「……ショウエイさんはいつもそう言われますけど、感謝は一方的なものではありませんわ。私もショウエイさんに助けられたのです。そして、あなたの必死な姿を覚えてます。その事を知っておいてくださいな」
と返した。
優し気な声色に温かい言葉、雲一つない綺麗な瞳に男は揺れた。
彼女の顔を直視したら、涙が出てしまいそうで、下を向いたまま翔英は言う。
「……そっか……うん……ありがとう……!!」
やっぱり『ありがとう』だ。
それ以外の言葉を返すことは今はできなかった。
「はい! 明日もお互い頑張りましょうね!!」
翔英は再び顔を上げ、真剣な眼差しでミネカを見つめた。
そして言う。
「……ねえミネカ……ちょっとお願いがあるんだけど……いいかな……?」
「はい、なんでしょう?」
「任務が終わったらさ…………一回、俺とデートしてくれないか?」
「……デート……ですか?」
――――言ってしまった。いきなり。
恥ずかしさで彼女の顔を見ることなんてできない。
今、目に移せるのは、地面の砂が限界だ。
一秒足りとの沈黙も許さんと、翔英はとりあえず何かを話そうとする。
「デ、デートって言うのはさ、二人の男女が――――」
「あっデートは知っていますわ! したことはありませんけど」
「ないの!? ……そっか」
「――――わかりました。デート、行きましょう」
「ホ、ホント!? 行ってくれるの!? よっしゃ!!」
いけた。
――――この世界に来てから、いや、生まれてから一番喜びを感じた瞬間かもしれない。
夢で会えただけで嬉しいような少女が、自分の誘いに答えてくれた。
「――――では、もう遅いですし、明日もあるので私はこれで失礼いたしますわ」
「おう! またな!!」
翔英はミネカと別々の道に分かれ、興奮する気持ちを必死に抑えながら家路についた。
――――就寝前。
天井を見上げながら考える翔英。
現世からこの世界に飛ばされてから何日間が経過しただろうか。
こちらの生活にも徐々に慣れてきた翔英だが、彼はこう思うようになっていた。
現世に居た頃よりも、活気に溢れた実りのある人生を送っていると。
この世界の仲間たちとなら、悔いの無いように己と戦うことができると。
――――そして、ガロトの日々を繰り返した四日間。
家でゆっくり休んだ一日は過ぎていき、とうとうこの日がやってきた。
翔英が迎えようとしている、聖鳳軍の一員としての第一の任務。
ミネカとの約束を胸に、彼は未知に挑戦しようとしている。
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