第十話『次の目標』
――――翌日。
起床した翔英は指示された通りに、聖鳳軍本部へと向かった。
右腕には昨日もらったばかりの腕章を着けている。
それを着けていれば、門番が立つ入口を通ることができる。
セキュリティがガバガバのように見えるが、実際はそうではない。
本部内には軍の主力が集結しているため、そこで騒ぎを起こすのは自殺行為だと周知されているからだ。
そんな場所に乗り込むような愚か者は、これまで一人もいなかった。
入口に入ってすぐに受付があり、そこで今日の旨を伝えると、二階の部屋に案内された翔英。
部屋には机とそれを挟むように椅子が二つ置いてある。
昨日使っていた部屋とは別だが、作りはほとんど同じであり、どうやら同じような部屋がいくつかあるようだ。
そこで待つように言われたため。椅子に座って待っていると、数分後、ガロトが登場した。
相も変わらず黒衣装だ。
「――――おはよう。昨日は休めたかな」
「おはようございます! はい、大分休めました」
翔英は椅子から立ち上がり、二十歳近く離れた先輩に挨拶する。
だが、嘘だ。
疲れはまだ大分残っている。
「今日は昨日も言った通り、任務などの仕事の話をする」
「わかりました。……そういえばラフェルくんは今日はいないんですか?」
「――――ああ。彼には別の者が担当している。君とラフェルは任務の内容が違うからね。別々の方が効率がいいんだ」
「……なるほど」
大学生と小学生とはいえ、ラフェルは唯一の同期であり、共に試験を突破した友だ。
できれば、任務にも一緒に行きたい思いがあった。
だが、まあ仕方ないことだと翔英は納得した。
ラフェルと自分では実力がまるっきり違うのだから。
「――――では、まず伝えておくが、しばらくの間は私と共に調査に出てもらう。そして、私が君に足りないもの、必要なものを見極める。そうやって、君に適した経験と鍛錬を積み、成長してもらいたい」
「あっはい、お願いします。ガロトさんが一緒なら心強いです……!」
翔英の言葉は本心からのものだ。
もちろん強さという点での言葉でもあったが、それ以上に、精神的な安心感があった。
昨日ガロトと話していた時は、表情をあまり出さない彼から圧を感じていた。
しかし、宿屋でのヒナノの話を聞いていたことで、ガロトの根底にあるものを知れた。
翔英はガロトという人物について理解を進めることができていたのだ。
偶然とはいえ、結果的にヒナノに出会えたことは大きかったようだ。
対するガロトが翔英と同行することになったのは、ガロト自身が上に進言したのがきっかけだ。
翔英に素質を感じたのは事実だが、彼の諦めない戦う姿に惹かれるものがあったのが大きかった。
「――――ああ。こちらこそよろしく頼む。……それから、一つ聞いておきたいことがあるのだが、ショー・ランペールという名前を知っているか?」
「ショー・ランペール? ……いや……聞いたこと無いですね…………えっと、どなたですか?」
「ああそうか……それならいいんだ。…………昔の知り合いだよ。大分前に行方不明になっていてね……もう何十年も前の話だが……」
「……なるほど……その方をずっと探しているということですか…………どんな方だったんですか?」
翔英の問いに対して、ガロトは切なげに答える。
昨日の彼からは考えられない悲しそうな眼だ。
「……ショーは、私の先輩だった男だ。私が聖鳳軍に入隊したばかりの頃からの仲で、この国のために長らく共に戦ってきた。……明るく能天気な人だったが、どんな状況でも諦めない男で、あの人の存在にみんな支えられていた。『あの人がいればどうにかしてくれる』……そんな風に思えるような人だったよ」
「……だけど、ある凶悪な魔物の討伐に赴いた際、彼は突然姿を消した。……殺されたと考えるのが当然だ。軍の方もそう結論付けている。……だが私には、ショーは生きているのではないかと思えて仕方ないんだ…………すまない、脱線しすぎたね」
「――――いえ、俺も会いたくなりました! ショーさんに!」
翔英の姿を見てガロトは少し微笑むと、話を元に戻した。
「では、任務の話に戻ろう。初任務は一週間後に行う。おそらく、魔物の情報を基にした外部への調査ということになる。君は一度、調査に赴いていた現場に立ち会い、魔物と交戦したことがあるらしいから、だいたいの想像はつくだろう」
数日前のことを思い出しながら、翔英は頷いた。
確かあの時、ミネカとルンべは言っていた。
『魔物の目撃情報があってこの近くに来た』と。
「――――最後に、任務までの予定について伝えておく。まず、明日は休みだ。昨日も試験があったからね。体調を調整しておいてくれ。明後日から任務前々日までは、実戦に向けた準備を行う。まあ、トレーニングだ。状況を見て、私も修業をつける。いきなり実戦は酷だからね。前日は休みだ」
「……修業か……はい……お願いします……」
異世界に来てもやっぱり努力は必要なのだとわかり、テンションが低下する翔英。
多少一人で運動していたとはいえ、この男からのしごきはきつそうだ。
でもまあ、仕方ない。
このまま行ったら殺されるかもしれないし。
「何か聞いておきたいことはあるか?」
「えっと、またここに来ればいいんですよね?」
「ああ。また受付で声を掛けてくれれば、案内されるだろう」
「…………了解です。では、またお願いします」
翔英はガロトに挨拶した後、部屋を後にした。
明日は休みだ。何をして過ごそうかと考えながら出口へと歩いていく翔英。
「あら! ショウエイさん!!」と、どこからか声が聞こえてきた。
内容などは関係なしに、自然と元気が湧いてくるような声が。
「えっ!?」と、振り向くと、金髪ロングの美しい少女が佇んでいるのが見えた。
翔英は彼女の名前を叫んだ。
『ミネカ!』と。
「聞きましたわ。ショウエイさんも聖鳳軍に入ったと。またお会いできて嬉しいです」
「ミネカ……!! うん、俺もめちゃくちゃ嬉しいよ。こうしてまた会えたのも、これからも一緒に戦えるのも……!」
翔英は彼女を原動力として、この試験を乗り越えた。
彼女の顔を見て声を聞いた時、一歩成長できたと実感した。
護ってくれたミネカと同業になることができたのだから。
次は、彼女の隣に並べるようにこと。
また、新たな目標ができた。
「はい、私も……! ……そういえば、スエリア荘での暮らしはどうですか? あの日から一週間と少しくらい経ちましたけど」
そう、自分が屋根の下で眠ることができていたのも、ミネカのおかげだ。
ミネカには、返しきれない恩がある。
「いいとこだよ! クーレさんも超いい人だし……ミネカもあそこに住んでたことあったんだよね?」
「はい、ヒナノさんの紹介で四年ほど前に……」
「あっそういやクーレさんとヒナノさんって親子だったのね!! 言われてみれば似てんなって思ったけど」
ミネカは温和な表情を崩さず、翔英との会話を楽しんでいる。
翔英もそうだ。ミネカと話せることが何よりが嬉しかった。
「――――そうですわ。スエリア家は皆さんとても優しい方々で……あっソルさんにはお会いしましたか?」
「ソルさん? いや会ってないけど。……誰だっけ?」
「ヒナノさんの妹さんですわ。私と同じ二軍の」
試験前、クーレとの会話を思い出す翔英。
「あっ……! 言ってた気がする、上の子って……!! ……ってか……!! 妹も聖鳳軍で、しかも二軍なの……!? ……ソルさんか……いつか会って挨拶しないとな、お母さまにはお世話になってますって。……変な意味じゃなくてね」
「いずれお会いできますわ。……ショウエイさんはいつからお仕事ですか?」
「一週間後に初任務よ! なんか調査っぽい。ガロトさんと一緒に」
「あら、私も同じ日に調査のお仕事がありますの。お互い頑張りましょう」
「おう!」
それから少しの間、互いの試験を受けた時の事、ミネカがスエリア荘に住んでいた時の事など、翔英とミネカは立ち話を続けた。
『一生この時間が続けばいいのに』
翔英はそう思った。
足が疲れてきた頃、再会を誓って二人は別れ、翔英は帰路に着いたのだった。
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